第5話 プレアデス聖騎士団

醜いカップ麺争奪戦が終わった。


全員が汁まで飲み干し、きれいに完食した。


だが……。


「「「「 おかわり!!!」」」」


「 え?」


全員が僕の方を見てそう言ったのだ。


もうカップ麺は残っていない。どうしようか……。

てか、そんな事よりこの人達や異世界の事について情報が欲しい。


「 あの、カップ麺はもう無いので他の食べ物を差し上げます。ただ、皆さんの事について教えて頂けませんか?」


「 分かった。料理の例だ。何でも聞いてくれ」


レッドさんはあっさり承諾した。


「 ただ、俺たちは同い年なんだし、敬語はやめてくれ」


「分かった。敬語はやめるよ」


一応初対面だから敬語を使っていたが、使わなくていいと言うのであればそれに従う。


じゃあ色々聞きたいこともあるし質問するか。


「 まず、レッド君たちは何者なんだ? 全員同じ服を着ているけど……」


全員が全身白色の制服のようなものを着ていたので、ずっと疑問だった。


「 俺たちは『プレアデス聖騎士団』の見習いなんだ」


「 何それ?」


「 知らないか? まあ、そもそも住む世界が違うから無理もないか。プレアデス聖騎士団ってのは、『プレアデス王国』という国を守る騎士団の事だ。俺たちはその見習いだな」


プレアデス王国……。


「 プレアデス王国ってのはレッド君達が住んでる所なの?」


「 そうだ。俺たちはプレアデス王国で育った。プレアデス王国に住む子供は皆、プレアデス聖騎士団に強い憧れを持っている。もちろん俺たちもな」


「 なるほど……そんなすごいのかプレアデス聖騎士団ってのは……」


「 ああ、めちゃくちゃすごいぞ」

( いや、そこまですごくないぞ)


……。


( ちょっとヨナさん、今話の途中だから話しかけないで)


( いーじゃん、ちょっとくらい話したって。暇なんだもん)


( 黙って話聞けないのかよ……)


レッド君がプレアデス聖騎士団の凄さについて何やら熱弁しているが、ヨナさんがうるさくて話が入ってこない。


一応適当に相槌を打って反応はしている。


( 大体、プレアデス王国の連中は、プレアデス聖騎士団を過大評価しすぎだ。確かにすごい奴もいるが、大半は大した事ないぞ)


( そうなの? レッド君達はあんなに凄さを熱弁してるけど)


( 私からしたらそんな事ないな)


( そうなんだ……)


ヨナさんはドラゴン相手に修行させようとする人だし、レッド君達が尊敬するプレアデス聖騎士団を大した事ないと言うほどだ。


もしかしたら凄い人なのかも……。


ヨナさんと心の中で会話している間、4人はプレアデス聖騎士団の話で勝手に盛り上がっている。


……。


「 ところで、4人は何であんな森にいたんだ?」


僕は盛り上がっている4人の話を遮り質問した。


「 ドラゴンよ、ドラゴン探し。あの森でドラゴンを見たって言う人がいてね、それで実際にいるかどうか確かめに行ったのよ」


レナンさんが質問に答えてくれたが、ドラゴン探しだと? ドラゴンなら昨日見たけど……。


「 ドラゴンって珍しいの?」


「 めちゃくちゃ珍しいわよ! 見たかったな〜ドラゴン」


まじか。普通にいたけどな。しかもワンパンで倒したし。


「 確かに見たかった気持ちはありますけど、私は少し安心しています。もしドラゴンと遭遇していたら、私たちは死んでいたかもしれませんし……」


イヴローラさんが少し安堵した表情で呟いた。


「 まあ確かにな。ドラゴンなんて、プレアデス聖騎士団でも討伐できるかどうか……」


!?


「 え? レッド君、さっきプレアデス聖騎士団の凄さをあんなに語ってたじゃん」


「 確かにそうだがドラゴン相手じゃなあ……」


( ヨナさん。ドラゴン如きとか言ってたよね?初めての異世界なのに、一番最初にドラゴンと戦わされたんだけど僕。やっぱ、めちゃくちゃやべーじゃんドラゴン)


( ? そうなのか? 私は10歳の時には素手でドラゴンと戦わされていたがな)


( うん、それはヨナさんがおかしい)


ヨナさん、やっぱりあなたは化け物です。


「 でもまあ、『グランシャリオ』の人達ならドラゴンくらい余裕で倒せるか」



唐突にレッド君が知らない単語を口に出す。


「 グランシャリオ? なんだそれ?」


「 ああ、グランシャリオはプレアデス王国、国王の側近だ。全員で7人いるんだが、強さの次元が違う」


「 そうなのか……そんなにすごいのか」


( ヨナさん、グランシャリオって知ってる?)


( 知っているぞ。指輪の状態だが情報収集は怠らなかったからな。確かにそいつの言う通り、グランシャリオの連中は強い)


( そんなに強いのか)


ヨナさんが強いと認めている時点で、かなりの強者という事だろう。


「 それより大和、俺からも質問していいか? お前は何で別の世界へ行き来できるんだ?」


唐突に話題が変わり、僕はとりあえず正直に答えた。


「 ああ。実は亜空の指飾りとかいう超越神器を道端で拾って、その能力で」


( バカ! 何正直に全部話してるんだ大和!)


( え? ダメだった? この人達、みんな良い人そうだし、ヨナさんの封印を解く協力でもしてもらおうかと)


( 確かに協力者は多い方がいい。だが、私とこの指輪に関わる事で、危険に巻き込んでしまう恐れがあるだろ!)


( いや待って、僕は危険に巻き込んでもいいのかよ。おかしくね?)


( 大和は別だ)


( 何でだよ)


絶対に危険に巻き込んで欲しくない。ヨナさん、マジ頼みます……。


と、そんな会話をヨナさんとしている間、全員表情が固まってしまった。


( みんなどうしたんだ……)


僕の心の呟きにヨナさんが反応する。


( いいか大和。超越神器はこの世に7つしかない大秘宝なんだ。それを探す旅に出る者や何百人もの調査兵団まで動く程の宝なんだ。そんなものを拾ったとか言ったらそりゃ驚くだろ)


( そ、そうなのか……。もっと早く言ってよ……)


そんなやり取りをヨナさんと続け、レッド君がようやく口を開いた。


「 おい大和……今の話……マジか?」


「 えっと……本当です……」


一度口に出してしまったし、今更誤魔化しても意味が無さそうなので正直に答えた。


「 嘘でしょ……」


レナンさんがめちゃくちゃ驚いているが、イヴローラさんが冷静に口を開いた。


「 亜空の指飾り……。あの超越神器は空間を操ると云われています。私たちの世界とこちらの世界の空間を行き来する事も可能かもしれません……」


その言葉にレッド君も続ける。


「 確かに……。それなら俺たちがこっちの世界に来た説明もつくな……」


レッド君が呟き、少しの間、皆沈黙した。


そして沈黙から数秒が経ち、イヴローラさんが僕の指を見た。


「 大和さん。今も亜空の指飾りを付けていますか?」


「 え? あ、うん。付けてるよ。でもこれみんなには見えてないんでしょ?」


「 はい……。やはり、超越神器は一部の選ばれた者にしか視認する事ができないという話は本当だったんですね……」


「 そうなんだ……」


僕がそう呟くと、ヨナさんが急に大声を出した。


( え!? まじで!? 指輪が見えない理由ってそういう事だったの!?)


( いや知らなかったのかよ……)


ずっとこの指輪付けて旅してたんじゃないのかよ……。


まあとりあえずそれは置いといて、僕はみんなにお願いをした。


「 あの、急に亜空の指飾りの事を話しといてなんだけど、この事はそっちの世界で内緒にしてもらえないかな?」


僕のお願いにレッド君が答えた。


「 もちろんだ! 誰かに話して広まりでもしたら面倒事になりそうだしな」


「 ありがとう!」


レッド君が良い人で良かった。


僕がホッとしていると、レッド君は続けて口を開いた。


「 それに、俺たちは運命の出会いをしたんだな!」


「 運命?」


「 運命だ! だってそうだろ? 住む世界が違って本来なら絶対出会うはずのない俺たちが、今こうして会話をしている! こんなの運命だろ?」


「 運命か……」


言われてみればそうかもしれない。本来なら絶対出会うことのない人たちだもんな。


( 運命の人はここにもいるぞ〜)


( はいはいそうでしたね、ヨナさんは運命の人です)


実際、ヨナさんと出会わなければ、レッド君たちとも出会わなかった。間違いなく運命だ。


「 大和、お前はこれから色々大変な事もあるかもしれない。でも心配するな、俺たちがこっちの世界の事を色々教えてやる! だからお前もそっちの世界の事教えてくれよ! 色々知りたいんだ! 俺たちはもう、仲間だろ?」


レッド君……。何て良い人なんだろう。初めて会った時は、いきなり襲いかかってきて怖かった。でも実際は仲間想いの優しい人なんだ。


「 ありがとう、レッド君。僕も異世界の事、色々知りたい。みんな、これからよろしく」


僕は都内に引っ越してきてから初めての友達ができた。

異世界人だけど。

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