第10話
(何をだよ! もう全部うまくいってるんだから良いだろ)
「また同じ事になったらどうするの? また死ぬのかい?」
(もうならないだろ! 綾瀬さんが居てくれるし、お母さんもいる)
「それは全部おいらが手に入れたんじゃないか」
(…………)
「君は人を信じる事も出来ず、話しかける勇気もなく、お礼も言えず、相手の状況も見ず、自分の事しか考えてない」
(お前に何がわかるんだ!)
「そうやって人には分からないと壁を作り、助言も聞けない」
(…………)
「素直に助けを乞うことも出来ない自信の無さ」
こいつ正論振りかざしやがって。僕だけが悪いのかよ……
「皆がどうかじゃなく、全部君が招いた状況なんだよ。いや招いたというか君が見てた状況は真実じゃないんだよ」
「綾瀬ちゃんが言ってたんだ。クラスの皆で寄せ書き書こうってなった時も、みんな謝ってたって。助けたくても助けられない人もいる」
(結局傍観者じゃないかよ!)
「君はクラスの子が誰かイジメられてたら、助けるかい?」
(助けられないよ。僕は弱いんだから)
「もし綾瀬ちゃんがやられてて、西山くん助けてって言ってきたら?」
(助けれないけど、代わりになるか、先生呼んだりするよ)
「なんでなんとかしようとするんだい?」
(そりゃ優しい人だし、名指しされたらなんとかするだろ)
「君は優しい人かい? 名指しで誰かに助けを求めたかい?」
(…………)
「優しい人になって、誰かに助けを求めたら助けてくれるのに、君はなぜ誰かに優しくしないんだい?」
「それにさっき皆の事を傍観者って言ったけど、なんでいつも先生が来たりしたと思ってる?」
(そりゃうるさくしてたから……)
「職員室から離れてるのに、うるさくしてても聞こえないよ。誰かが言いに行ってくれてたんだよ」
「それにあのスマホ? とか言うので記録できるんでしょ?それで全部撮ってて証拠集めてたんだって」
(皆でバカにして撮ってるのかと)
「それも撮ってた人に君は聞いてないでしょ?」
(…………)
「相手が何をしようとしてるかなんて誰にも分からないんだから、分からないことは聞けばいいじゃないか」
「まぁ君の場合聞いたところで、人を信じれない所を直さないと意味ないけどね」
痛い所をグサグサさされた僕は精一杯振り絞って言った
(これからはやるよ)
構わず続ける“僕”
「お母ちゃんだって話しづらかったって言ってたよ。ご飯作ってもらってもムスッとしてるなんて、おいらからしたら信じられないよ」
「そして挙げ句、一生懸命働いて家事までやってくれてるお母ちゃんに、自分を見てくれないなんて甘えたこと言って」
(もうわかったよ……)
この説教はいつまで続くのか。守護霊も大変だな。
もういじめてこないだろうし、綾瀬さんと付き合ってるし、環境が変わったんだから大丈夫だっての。
「おいらになった途端、全部うまく行くようになったのは、環境が変わったんじゃないんだよ。西山君変わったねって皆に言われたよ」
(分かってるよ見てたんだから! 僕がいままでダメだったのは認めるよ!)
「黙ってたから、もういなくなっちゃったのかと思ったよ」
(さっきから反応してたよ)
「君のこれからを思うと心配で色々言ったけど、自分次第で人生は楽しめるって忘れないでね」
(ほんとだよなー、綾瀬さんと付き合えるなんて、ほんとありがとう! これからは人生楽しむよ!)
(こんなに生きたいと思う日が来るなんて。名前もわからない守護霊、これからも見守っててね)
「さっきチャンバラして思い出したけど、おいらの名前は坂本龍馬って言うんだ」
(え! あの坂本龍馬?)
「おいらを知ってるの?」
(知ってるも何もめちゃくちゃすごい人だよ!)
「ああそれおいらだけど、おいらじゃないや」
(どゆこと?)
「さっき色々言ったのは、おいらが坂本龍馬だった頃の自分と君が似てたからなんだ」
(僕坂本龍馬に似てるの? なんか嬉しいな!)
「君が知ってる坂本龍馬は、中身が別の人だよ」
(え?)
「おいらが坂本龍馬だった頃、色々あって君と同じように死のうとしたんだ」
「そしたら黄色い玉に止められて、身体を貸してくれって言われて」
(それってお前みたいじゃないか)
コイツは無視して話を進めていく。
「何言ってるんだと思ったけど、別にいいかって貸したんだ。あの人そんなに凄くなったんだね」
(そのままその人に身体あげたのか? アハハ馬鹿だなーもったいない!)
コイツは何も返事せずキョロキョロ辺りを見回して、ため息をついた。
「坂本龍馬の人生を、ちゃんと最後まで見届ければよかったな」
(最後はでも暗殺されちゃったみたいだよ)
「君は後悔しないように見守っててね。僕はすぐ見てるのが嫌になって、違うところに行っちゃったから」
(なに?)
「もう見えないか……時間が来たみたいだ。短い間だったけど色々教えてくれてありがとう! 自分が変わる、とにかく楽しむを忘れないでね!」
(おお! 久しぶりに人間の身体に戻れる!)
早速綾瀬さんに連絡しよ。とか僕は考えていたが中々戻らない。
「自分より辛いと思って死のうとしてる人間を見つけ、身体を借りて5日間過ごし、身体を貸した人間が生きたいと強く思うと、その人間の身体は自分の物になる」
(何言ってるんだ?)
と言ってみたが声は届いてないようで、何度も同じ言葉が聞こえてくる。
3度目になってようやく気付いた。
(喋ってるのコイツじゃないのか?)
頭の中から聞こえてるようだ。
「自分より辛いと思って死のうとしてる人間を見つけ、身体を借りて5日間過ごし、身体を貸した人間が生きたいと強く思うと、その人間の身体は自分の物になる」
(これなんだ?)
“僕”の声も聞こえてきた
「おいらは200年位かかっちゃったけど、君はもっと早く人間として最後まで行けたらいいね」
(は? いいから返せよ身体!)
「まだいるよね? おいらの声は聴こえてるかな?」
(眼の前にいるわ! 無視してんなよ!)
「いると思って喋るけど、さっき言ったことを忘れないでね。人生は自分次第で必ず楽しく出来る。周りを変えたいなら自分が変わる事! ちょっとの間はおいらのせいで文句出るだろうけど早く忘れて次の事を考えて!」
(は? ふざけんなよ! 何言ってるんだよ!)
「まず自分が辛いと思ってるままだと、身体を借りることも出来ないからね! ていうか相手に声も聞こえないからとにかく楽しくね!」
(いやふざけんなって! いいから返せよ!)
「あれおいらなんでこんな叫んでるんだ?あれここ屋上? 暗くなった屋上で何してたんだっけ?んーまいっか! 帰ろー」
(おい! なに言ってんだよ! 戻してくれよ! おい無視するなよ!)
その後も呼びかけに一切答えない。
家に帰りお母さんと笑いながらご飯を食べてる”僕“を見ながら僕は泣いていた。
僕が何したって言うんだよ! こんな事ならあのまま死んでたほうがよかった。
「夏輝を産んで本当に良かったお母さん幸せだわ」
「お母ちゃんこそおいらを産んでくれてありがとー! おいらも幸せ!」
お母さんと仲良くしてる”僕“
綾瀬さんと手を繋いで毎日帰る“僕”
クラスの人気者で生徒会長にまでなった“僕”
その後もどんなに辛くなっても、色んな人に助けてもらい、そして助け、自信と勇気を持って楽しみ幸せを掴んでいく“僕”が死ぬまで僕はずっと見ていた。
僕のいない”僕“の明日
僕のいない僕の明日 境小路 @sakakomi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます