第9話

「ねぇ夏輝君病み上がりなんだからそろそろ……」


 綾瀬さんの声で我に返った。


「えーおいらまだ喋りたい」


 とかコイツは言っていたが、綾瀬さんは"僕"の手を引っ張り「帰ろっ」と言うと


 教室中から、綾瀬さん積極的ー!ラブラブー!など、囃し立てる声が聞こえてきた。

 綾瀬さんは顔を真っ赤にしながら「帰ろ」と小さい声でもう一度言った。


「綾瀬ちゃんがそんなに言うなら仕方ない帰ろー!」


 コイツがそんなこと言うもんだから、教室はさらに囃し立てる。

 綾瀬さんは顔から火が出そうなほど真っ赤になって、手を引っ張りながらそそくさと教室を出ていった。


 可愛すぎて呆然としていた僕も後から追いかけた。



 帰り道、綾瀬さんが突然泣き出す。


「どーしたのー綾瀬ちゃんどっか痛いの?」


「違うの。西山君に謝らないといけないと思って」


「え綾瀬ちゃん優しくしてくれるしかわいいし、謝る事なんてないよ!」


「前に告白してくれた時のこと……」


 綾瀬さんあの事覚えてたのか。

 謝られるなんて惨めだな。


「告白てなに?」


 綾瀬さんは無視して話を続けた。


「西山君が私の事を好きって言ってくれたけど、冷たく断っちゃって」


 ああ傷がえぐられる。

 冷たくてもあったかくても、断られるなら一緒だ。


「うんおいら綾瀬ちゃんの事好きだよ!」

 コイツはよく分かってないのか、嬉しそうに綾瀬さんの涙を拭いてる。


「あの時後ろに高木君達居るのが見えて、言わされてるんだと思ったし、クラスの皆も見てたし、私嫌な感じで断っちゃったの本当にごめんなさい」


 え?


「それなのにまだ私の事好きでいてくれるの?」


(え!?)

 思わず大きな声が出てしまった。

 なんだこの展開は。


 コイツはそんな僕の声が聞こえてないように

「うん好き! 綾瀬ちゃんの笑顔見てるとおいら幸せなんだ」


 よくこんな事恥ずかしげもなく言えるな。

 それにしても綾瀬さんがこんな事言うなんて、あいつら倒したの見て気が変わったのか?


 戻ったら剣道始めてみようかな……


「嬉しい! 私も西山君の事ずっと好きだったの」


(ずっと好きだった!?)


 またコイツは聞こえてるくせに無視して「おいらもだよ」とか言ってる。

 お前ずっとって程、綾瀬さんを知らないだろ。


「私と付き合ってください」


(えーーーー!?)


 さっきから無視してたコイツが振り向く位驚いてしまった。


「うんいいよ! どこ行くの?」


「行くとかじゃなくて彼氏と彼女になって?」


「彼氏と彼女? あーつがいの事か! いいよ綾瀬さん優しいし好きだから、おいら付き合うよ!」


「つがいって何?」


 つがいって、何言ってんだコイツ。


「夫婦でしょ?」


 綾瀬さんは顔を真っ赤にして、パタパタ仰ぎながら


「うんっ」


 と小さな声で言った。


 こうして“僕”と綾瀬さんは付き合うことになった。

 その後手を繋いで歩こうとしてるこいつに


(おい! 綾瀬さんはお前じゃなくて僕と付き合ってるんだぞ! 離れろ!)


 などなど僕は”僕“に嫉妬していた。

 こいつは完全無視を決め込んで綾瀬さんとばかり話をしている。



 綾瀬さんを家まで送りひとりになったコイツが、ようやく話しかけてきた。


「どこにいるのー!」


(なんだよ無視しやがって!) 


「ああここに居たのか」


(ずっと居たわ!)


「アハハ学校に行きたいんだ! 道がわからないから教えて!」


(お前のナビじゃないんだぞ)


「ナビってなに?」


 面倒くさくなった僕は、分かったと言って進み始めた。


(綾瀬さん可愛かったなー! まさかあの綾瀬さんと付き合えるなんて!)


「君やっぱり綾瀬さんが好きだったんだね!」


(綾瀬さんだけが僕に優しかったんだよ。告白してからは全然話してなかったけど)


「最初に教室の場所教えてくれたり、おいらも優しくしてもらった! 綾瀬さんずっと話しかけたかったって言ってたよー!」


(僕も聞いてたけど本当なのかなー? お前が高木たち倒したから好きになっただけじゃないか)


「君は本当に人を信じる事が出来ないんだね」


(何度も騙されてきたんだ! 能天気なお前になにがわかる!)


 それから何を言ってもコイツは何も返答しなかった。



 学校に着き、忘れ物したのかと聞いても無視して上がっていった。


 そして屋上のドアを開けた。


(お前鍵かけてなかったのかよ! 僕の1番大事な場所なんだぞ!)


「はーー! 気持ちいー!」


あの飛び降りた日と同じ綺麗な空が広がり、気持ちよさそうな風が吹いていてた。


(気持ちがいいなー)


 コイツはビックリしてこっちを振り向き、すぐまた景色に目をやり静かに話し始めた。


「君と最初に話したのはここだったよね」


(最初に会った時、高木達のイタズラかと思ったよ)


「アハハハ」


(こんな非科学的な事言いたくないけど、これってやっぱ実際起きてることなんだよな?)


「最初からそー言ってるじゃないかアハハ」


(お前は僕を助けてくれる守護霊とかか?)


 自分で言ってて笑えてくる。でも実際おかしな事が起きて僕の人生は変わった


「ハハハおいらが楽しみたかっただけだよ!」


(そーいえばお前剣道強すぎだったね! 僕の華奢な身体があんなに動けるなんてビックリしたよ)


「おいらは真剣でずっとやってたからね! お遊びの子達には負けないよ」


(砂利も拾えないこの身体で、剣なんて持てるのか?)


 黄色の玉のような身体で拾える物があるか、やってみてる僕を見て


「ハハハハハ違うよ昔の話だよ!」


(昔は人間だったのか?)


「うん! 侍だったの!」


(やっぱり僕のご先祖とかで守護霊なんじゃないか?)


「そうなの? だとしたらすごい偶然だね! たまたま君を見つけたんだよ」


(違うのかなー名前は何ていうの?)


 2回聞いて見たが答えない


(急に無視するなよ!)


 またコイツはビックリした顔して振り返った。


「もうそろそろお別れみたいだ」


 今度は僕がビックリしたがこらえて


(よーやくか!)


 とだけ言った。




「君はなんで死のうとしてたの?」


 急な話の展開に更に驚いたが


(お前も見ただろ? いじめられてるし、誰も助けてくれなかったし、お母さんにも必要とされなかったんだ)


 長年思ってた不満がつらつら出てくる。


(綾瀬さんだってずっと好きとか言ってたけど、ただお前があいつら倒したのがかっこよく見えただけだろ)


「君は今言ってた事が全部だと思ってるの?」

「君はそれに対して何をしたの?」


(全部ってなんだよ! 何も出来ないから死にたかったんだよ)


「クラスの皆優しかったし、先生達も優しかったし、お母ちゃんも優しかったよ!綾瀬さんはずっと好きって言ってくれて付き合ったし、君が全部を見れてないだけじゃない?」


(それはお前が剣道うまいからだろ)


「君はまだわからないんだね」

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