エピソード∶アレキサンドライト


 その日はありさの部屋で打ち合わせの約束だった。

 前の会議が思った以上に長引き、予定の時間を少々過ぎていた。急いで、ありさの部屋に向かう。


「ごめん、ありさちゃん待った?」


 息を切らせながらありさの部屋に入ると中は照明が落とされテーブルランプの橙色の灯りに染まっていた。甘い果実のような香りが鼻腔をくすぐる。


「ううん、色々と準備してたから」


 声のした方を見るとシースルーの黒いベビードールをまとったありさがいた。透けた布地の奥に控えめな胸と、その先端のピンク色の乳首が見える。

 下はベビードールと同じ黒の総レース下着だ。レースから透けて見える、どこまでも続く白い肌と、その中心に咲く紅色の花が、僕を魅了した。


「マネージャーはこういうのと最初の時の清楚系の、どっちが好き?」


 ありさは無邪気な笑顔を見せる。


「……どっちも」


 どうにも恥ずかしくてそれだけ言うと僕は顔を背けた。


「マネージャーは素直だね」


 そう言って艶然な笑みを浮かべると、ありさは僕の身体をそのしなやかな指でなぞるように触れてくる。その指の感触がくすぐったくも気持ちいい。

 ありさの深緑色の瞳が暖色灯に照らされてバーガンディの輝きを宿したように感じた。僕はその瞳に吸い込まれそうになる。


 昼の太陽を思わせる無邪気な少女のような顔と夜の妖艶で経験を積んだ大人の顔、どちらが本当のありさなのだろうか?

 いや、どちらも本当のありさなのだ。

 そう思った。

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アイドルありさ(仮) 臥龍岡四月朔日 @nagaoka-watanuki

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