10
「あんた、いくつ?」
イズミが唐突にそう言いだしたのは、ソラが台所でスープを温め直している最中だった。イズミはいつも通りリビングのソファに足を組んでテレビを見ており、その発言は、本当に唐突だったのだ。
ソラは咄嗟になにも答えられず、とにかくスープを二つの皿に盛って、リビングまで運んだ。平然とした顔を装っているつもりだったけれど、上手くできているか自信はなかった。
ユウは多分、ソラを12歳だと思い込んで全く疑っていない。それは、常のソラへの態度でもよく分かる。いつか年齢がばれるとしたら、それはイズミからだろうと思ってはいた。
15歳。大人ではないけれど、子どもでもない。実年齢がばれても、この家を追い出されるとはもう思っていない。ユウは、そこまで無情ではない。でも、当たり前のように与えられているユウの体温。軽い抱擁だったり、髪を撫でてくれたり、そんなものは、完全に失われるだろうとは思っていたし、それが失われることは、家を追い出されるよりも、ソラにとっては恐ろしかった。
「……12です。」
嘘をつきながら、皿をテーブルに並べた。12くらいにしか見えない自分の外見は自覚していたし、なぜイズミが急にそんなふうに言い出したのかも分からなかった。
イズミは目の前に置かれたスプーンを手に取りながら、眉間にしわを寄せてソラを見上げた。
「嘘。15? 16? あんた、そこまで子どもじゃないよね。」
どきりとした。完全に見抜かれていると。イズミは右手でスープを口に運び、左手でソラの手首を掴んだ。台所に逃げ込もうとしていたソラは、その手を見て、観念してため息をついた。
「……ユウさんにも、ばれてると思いますか?」
凶悪犯の自供みたいに、がくりと肩を落としたソラを見て、イズミは軽く肩をすくめた。
「気づいてないんじゃない。あいつ、鈍いから。」
「……なんで、分かったんですか?」
「字。下手くそだけど、子どもの字じゃないし。後は、喋りかたとか内容もねぇ。」
「ありがとうございます。」
「ほめてないよ。」
もっと上手くやりなよ、と、イズミは言った。
「ユウにばれたくないんでしょ? もっと、上手くやりなよ。」
ソラは、イズミがそれを言いたくて唐突に話を切り出したのだ、と理解した。きっと、下手くそなソラを、見ていられなくなって。
そうすると、自然と口が開き、勝手に言葉が零れ落ちてきた。
「……嘘つくの、つらいんです。最近、とくに。ユウさんが、俺のこと信じ切ってる感じがして。」
ユウの微笑みを受けるたびに、ごく自然な動作でいたわられるたびに、心が痛んだ。これは、自分が子供だと思い込んでいるから与えられるやさしさなのだと。
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