すぐに、ミネラルウォーターのペットボトルを持って戻ってきたユウは、キャップを開けたボトルをソラに手渡してくれた。ソラは、ありがとうございます、と小さく頭を下げて、水を口に含んだ。ひとくちかふたくち口にすれば満足すると思っていたけれど、全身が水を求めていたのだろう、ごくごくとボトルの半分ほどまで一気に水を飲んだ。その様子を見ていたユウは、また、ごめん、と呟いた。ソラは、ペットボトルから口を離し、頑固な子供らしく首を横に振った。あのとき室内に入らなかったのも、その後家から飛び出したのも、さっきまで河原で死のうとしたのも、全部全部ソラの意思だ。ユウは、悪くない。

 「俺、がっかりされたよな。」 

 真っ白い横顔をソラに向けて俯いたユウが、ぽつりと言った。

 「イズミにひどいことした自覚はあって、ソラにはやさしくしたいと思ってた。罪滅ぼしにもならないって、分かってたけど……、」

 ソラはその台詞に、絶望してもいいはずだった。だって、求められているのは、自分ではない。自分は、ただの過去のイズミの身代わりでしかない。それでもソラは、逃げなかったし泣かなかったし喚かなかった。求められないことには、慣れていた。だからただ、ユウに身を寄せた。肩と肩とを重ね、一拍置いて、体温が通う。どちらもなにも言わなかった。ユウは、長い睫を忙しなくひらつかせ、涙の気配をおさえていた。ソラは、自分の心に蓋をして、じっと虚空を見つめていた。

 随分長い沈黙だった。気の長い夏の夕日が沈み、水色の夜がやってくる。

 空に一番星がちらつき始めた頃、帰ろうか、と、ユウが低く言った。ソラはぎこちなくユウを見た。帰る、という言葉で表現できる場所が自分にも残っているということが、信じられなかった。

 「ソラが、もう俺と暮らすのは嫌だっていうなら、」

 「嫌じゃないです。」

 ソラは、くっきりとユウの台詞を遮った。ユウも驚いていたし、ソラ自身も驚いた。ソラに、そんな意思的な声が出せることにも、表現したい意思があることにも。ソラは、なにもかもを諦めることに、すっかり馴染んでいたから。

 うん、と、ユウが頷いた。そして、ゆっくりと立ち上がる。ソラも、その後に従った。もう、ユウは謝らなかったし、ソラも意思的な声なんか出さなかった。ただ、二人は肩を並べ、いつも近所に買い物に行くときみたいに、たわいのない会話をしながらアパートへ向かった。

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