6
人間は、簡単には死ねない。ソラはそれを実感しながら、河原にじっと横たわって、地面の熱さを感じていた。喉は渇きを通り越して痛みを感じるところまでいっていたし、じりじりと炙られる背中も火傷をしているんじゃないかと疑うレベルにはきていた。それでもソラは、生きていた。全然、死ぬ気配もなく。
地面にへばり付いて、数時間は経っていたと思う。日が傾き、背中を炙る太陽光も、少し和らいできていた。そのとき、投げ出した足の方から人の声がした。
「……ごめん、ソラ。」
ここ数週間で、ようやく耳になじみつつあった、声。
「ごめんな。」
その声が、泣きそうに上ずって、ソラを呼んでいた。ユウだ。
ユウさんが、きてくれた。
それは分かる。理解できる。嬉しいのだ、とても。でも、ソラはどんな顔をして、声をして、ユウと向き合っていいのか分からず、地面に顔を伏せたまま黙っていた。だって、自分はユウの言いつけを守らなかった。ユウの言うことにならなんでも従ってきたのに、これまでだって、これからだってそうしているつもりだったのに、あんなに切羽詰っていたユウの言葉に逆らった。ごめん、は、こっちの台詞だ。
「……ソラ。」
声の主が頭の方に移動してきて、ユウがソラの顔のすぐ横に座り込むのが分かった。全身の力を失ったみたいに、ぺたん、と。
「俺が、悪いから。」
ユウがそう囁いて、汗まみれのソラの髪に指を通した。
「……イズミに、ひどいことしたんだよ、俺。」
ユウは、さらに言葉を続けようとした。多分、その、ひどいこと、の内容を。それに気が付いたソラは、ユウの指に自分の指を絡め、きつく握りしめた。それだけで、ユウはソラの意思をくみ取り、口をつぐんだ。
言わなくていい。新鮮すぎる傷跡は、言葉を口にするだけで鮮血を流し出す。ユウだって、ソラになにも訊かなかった。
腕立て伏せの要領で身体を起こしたソラは、水が飲みたい、と呟いた。水分を失った喉が張り付いたみたいになって、言葉を発するのも痛みを伴った。
ユウは慌てたみたいに立ちあがって、すぐそこに自販機あるから、と駆けだしていった。
ソラはその場に膝を抱えて座り直し、なんとか心を落ちつけようとした。ユウかかつて、どんなひどいことをしたとしたって、今のユウはソラに優しい。ここまで捜しに来てくれて、水を買いに走ってもくれた。ソラにとっては、それが全てだった。
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