3
土砂降りの中に昼間からずっといたので、すっかりびしょ濡れになっていた服を、長い躊躇の後、ソラは静かに脱いだ。さっき出会ったばかりの赤の他人のテリトリーで裸になることには、恐怖や不安があったけれど、もうどうにでもなれ、と、思い切って全裸になる。痩せた自分の身体には、やはり今日も妙な現実感があり、はっきりと疎ましかった。
白いバスルームに入り、低い温度の湯を浴びる。熱帯夜で火照った身に、その温度が心地よい。
「着替えとタオル、置いとくから。」
擦りガラス越しに声がかかり、ソラは慌てて、ありがとうございます、と応じた。ユウは、それ以上なにも言わずにバスルームから出ていった。ソラはすぐにシャワーを終え、脱衣所に出る。洗濯機の上に、きちんと畳んだスウェットとタオルが置かれいた。両方とも、色は薄い水色だ。
身体を拭いて、スウェットを着て、これからどうしようか、と考え込んだ。行く場所はない。頼れる人もいない。孤独だった。
洗濯機に寄りかかるみたいに膝を抱えて座り、じっと頭を巡らせる。これからどこでどうやって生きていけばいいのか、いくら考えても答えは出そうになかった。
「ソラ? なにしてるの?」
どれくらい時間が経ったのか、脱衣所のドア越しにユウの声が聞こえた。
なにをしているのかは、自分でもよく分からない。これまで、分かったことなんかないような気もした。
ソラが、どう答えていいのか分からなくて黙っていると、開けるよ、と短く断ってからユウがドアを開けた。ソラは、じっと背中を冷たい洗濯機に押し付けていた。心が不安定で、足場も不安定で、そんな中、安定したフォルムの洗濯機に縋るのが一番安心みたいな気がしていた。
ユウは、洗濯機に背中をくっつけて小さくなっているソラを見て、小さく首を傾げた。そして、そんなところにいなくてもいいのに、と囁くように言った。
「食べるものを用意したよ。カップ麺で悪いけど。」
だからね、と、ユウは確かに微笑んだ。けれどソラにはその顔は、どうしようもなく悲しげな、泣き顔に見えた。
「だからね、そんなところに隠れていないで、こっちにおいで。」
ユウがソラに向かって、白くすらりと伸びた腕を差し伸べる。ソラは、その手につかまっていいのかどうか、一瞬逡巡した。けれど、この手を拒絶すれば、ユウが本当に泣くのではないかと思うと、そんなことはできなかった。なぜかは分からない。分からないけれど、ユウは、ソラを見ることで確かに傷ついている。
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