結局、ソラはユウの手を取った。孤独だったし、傷ついているひとをただ見ていることもできなかった。なぜ傷ついているのか、それを聞こうかと一瞬思ったけれど、それもできなかった。多分、ソラはずっとひとりだったので、他人とのコミュニケーションの取り方がよく分かっていない。ユウをこれ以上傷つけない、上手い言葉は見つからなかった。

 風呂場を出て、手をつないだままリビングに入る。多分ユウが、ソラのことを12歳くらいの幼い子供だと思っているからだろう。その手つきは慎重で、むず痒いほどだった。

 「食べな。」

 リビングの白い丸テーブルの上には、湯気を立てるカップ麺が一つ置かれていた。ユウは食べないのだろうか。疑問に思って見上げると、ユウは、客と食ってきたから、寿司、と、ちょっと笑った。

 ソラはユウの手をそっと離し、促されるままに青いソファに腰掛けた。カップ麺を手に取り、一口すする。

 カップ麺は、お金があるときか、本当にないときにしか食べられないものだった。お金があるときは、近所のスーパーマーケットで買って食べた。お金がないときは、少し離れた場所のコンビニエンスストアまで遠征して万引きした。思えば、コンビニエンスストアのアルバイト店員は、ソラの万引きに気が付いていた。

 「家、どこ。」

 ソラの隣に腰掛けて、ぽつりとユウが口を開いた。本気で興味があるわけではないのも、ソラが答えると思っているわけではないのも、如実にわかる淡々とした物言いだった。ただ、訊いておくのが礼儀だから、とでも言いたげな。

 ソラは、カップ麺を啜り込みながら、首を横に振った。なんの答えにもなっていないことを自覚しながら。それでもユウは、そう、と呟いた。ごく、あっさりと。

 「親は?」

 その問いにも、ソラはまた首を横に振った。ユウはやはり、そう、とだけ呟いた。

 ソラはぼんやりと、これを食べたら追い出されるのだろう、と考えていた。しつこい客を追い払うのに手を貸した、その礼にシャワーと飯。それくらいがふさわしいと思った。だから、せっせとカップ麺をスープまで飲み干した。この後いつ、まともな飯にありつけるかなんてわからない。するとソラは目を細め、スープ飲むのは身体に悪いよ、と言った。そして、布団、出すから、とも。

 布団? と、ソラは驚いてユウを見上げた。ユウはその視線に構わず立ちあがり、奥の寝室に入って行く。

 「冬用の布団があるから、それ敷いて寝て。布団はバスタオルで足りるでしょ、それくらいの身長なら。」

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