第2話捜査
「パトカーが止まってますが、何かあったんですか?」
と、鳥井は言った。
「あっ、鳥井キャスター?」
「え、えぇ」
「まぁ、テレビ局なので知った顔が拝見出来ると思いましたが、いつも見てます。昼間の「はじめの散歩」と、ミッドナイトニュース。ファンです。握手して下さい」
と、黒井川は右手を出すと、鳥井は握手した。
「あのぅ、芸能人の方が出演されていますが、お食事なんて行ったりするんですか?」
「ま、まぁ、たまに」
「高級レストランですか?」
「ま、まぁ、それは置いといて、警察の方ですよね?」
「はい。捜査一課の黒井川です」
「刑事さん?」
「はい」
「何があったの?」
「あの、ガードマンの野崎さん。知ってます?」
「いや、知りませんが」
「後頭部を強打して」
「どこで、転んだの?」
「えぇ、非常階段です。あなたの楽屋の裏の」
「あ、あの階段から……」
「あそこは特殊なドアらしいですね。暗証番号を打って、鍵で開けて」
「わたしが、発注しました。駐車場まで近道なので。私はこう見えて、結構力があるんです」
「その前にお手洗いを拝借出来ないでしょうか?」
「突き当りを右。では、失礼します」
「ちょっと、鳥井さん、お話しがあるんで待っていてもらえますか?」
「何のお話しを?」
黒井川は答えずにトイレに走った。鳥井は嫌な予感がした。
「お待たせしました。コーヒーでも飲みませんか?」
「いただきます。微糖で」
黒井川は自販機で缶コーヒーを2つ買った。
「刑事さん」
「黒井川で結構です」
「黒井川さんは、喫煙者ですか?」
「はい。ヘビースモーカーです」
2人で喫煙室に入った。
缶コーヒーを飲みながら黒井川はハイライトに火をつけた。鳥井パーラメントだった。
「テレビ局の事、全然知らなくて。もう、グッドモーニングの準備をしていましたよ。朝の6時放送ですよね?まだ、3時半ですが」
「キャスターはテレビ局が迎えに行くんです。朝組は今から打ち合わせです」
「警察より大変なお仕事ですね」
「はい。私は昼も仕事があるんででは」
「はい、ありがとうございました。……あっ、鳥井さんちょっと」
「え?」
2人は現場に向った。
数人の警察官とガードマンが話していた。その輪に黒井川も混ざり会話していた。
鳥井は、輪の外で待っていた。
「鳥井さん。大変でしたね。うちの野崎がご迷惑おかけしました」
と、ガードマンの責任者が頭を下げた。
「あなたの、せいじゃない。事故死ですから。あのさ、このドア、鍵が閉まらないから、後で見ておいて」
「はいかしこまりました」
遺体が担架で運ばれて来た。
「ちょっと待って」
と、警察官に言って止めた。
「鳥井さん、見ますか?」
「い、いえ、私は」
と聞くと黒井川は遺体の顔を鳥井に見せた。
黒井川は腕時計を指指した。
「この腕時計、外していい?鑑識は済んだ?」
「はい」
鳥井は3度目の対面を果たした野崎の死体に手を合わせた。
「腕時計がどうかしましたか?」
と、鳥井は外した腕時計を見ている。
「23時10分で壊れてますね」
「死亡推定時刻と言うことですね」
「はい」
「私が本番中だ」
「ま、検視の結果を待ちます」
「では、宜しくお願い致します」
「はい。ありがとうございました」
と、若い川崎刑事が現れた。
「例のモノ見つかった?」
「いえ、まだ」
「じゃ、片っ端からこのテレビ局内を調べて見て」
「はっ!」
若い刑事は走って去った。
鳥井は気になった。警察は何を探しているのか?
「く、黒井川さん。何を探していらっしゃるのですか?」
「それはちょっと」
「誰にも言いませんから。キャスターの職業病で、事件事故には興味があって」
「鳥井さん、この事故は私は殺人と考えています」
「……な、何でまた」
「さっき、ガードマンの話しを聞くと巡回に行くと言って、昨夜の10時前に警備員室から出て行方が分からなくなり、巡回ルートではない、非常階段で倒れていたと」
「で、何を探しているんですか?」
「ホントに秘密にして下さいよ。彼はどこかで殺害されて、階段から突き落としたのです。でも、持って無いといけないものが無くて」
「持って無いと言うのは?」
「キーケースです」
「キーケース?」
「はい。ガードマンさんは色んなドアを開きます。大抵はグランドマスターキーで開くそうですが、なかには古いドアもあり、キーケースを巡回中は常に持っているのです。で、キーケースは本来の殺害現場に落ちていると、ま、私の推理でしかないのですか。これだけです。お疲れ様でした」
「はいはい。分からない事は何でもお聞き下さい」
鳥井は現場を去ると、自分の楽屋を隈なくチェックし始めた。
鳥井は焦った。
キーケースがここで見つかれば、私の人生は終わりだ。1週間に2人も殺した殺人鬼と言われるだろう。
ここで、人生を終わらす訳にはいけない。人身事故は不可抗力だし、野崎は転んで死んだんだ!殺人鬼じゃない。
すると、コンコンとドアをノックする者がいた。
散らかした楽屋を整理してから、
「どうぞ。どなた?」
と、言った。
「黒井川です」
鳥井は深いため息をついた。
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