キャスターの虚無の栄光(黒井川警部シリーズ12)
羽弦トリス
第1話犯行
名東テレビの楽屋。
ニュースキャスター歴20年の
「秋の味覚まつり」と言う特集だった。
コンコン
楽屋のドアをノックする音が聴こえた。
「どうぞ」
「失礼します」
「何だ、君か」
部屋に入ってきたのは、テレビ局のガードマンの野崎だった。
「何の用だ?」
「やっぱり、あの事はキチンと警察に自首するつもりです」
「あれは、向こうが悪い。勝手に飛び出して来たんだ。信号は青だったし、じいさんが悪い」
時計を見た。22時ジャスト。
間もなく、打ち合わせだ。ゲストに芸人を呼んである。軽くギャグを考えていた。
「今から、私は警察に全てを話します」
「いくら、欲しい?」
「鳥井さんも、自首しませんか」
「だから、あれは向こうが悪いんだよ。死んだのは残念だが、あれは不可抗力だ。こっちの方が被害者なんだ」
「では、1人で全てを。警察も馬鹿ではありません。必ず事故が解明されます。自首します」
「ちょっと待てよ」
鳥井は野崎の腕にしがみつく。それを野崎は振り払う。今度は肩をつかみ、投げ倒した。
ドゴッ!
鈍い音が聴こえた。
野崎は後頭部を強打し、息絶えた。鳥井は野崎の身体を揺する。
「おい、野崎!起きろ!野崎っ!」
だが、野崎は既に死んでいる。鳥井は1週間のうちに2人も殺してしまった。
死体は楽屋の奥に隠して、仮眠用の毛布を掛けた。
腕時計を見た。
22時半。急いで、打ち合わせに向かった。
現場に到着すると、芸人がいたがギャグは考え無かった。考え無かったのではない。考えられなかったのである。
深夜23時番組がスタートした。
「こんばんは。ミッドナイトニュースのお時間です。先ずは、先日起きた死亡ひき逃げ事件の続報からです」
鳥井は自分の犯した犯罪を、ニュースで説明し、犯人を決して許さないと言ったコメントをした。
深夜12時。放送は終わった。
さて、死体をどうしたものか?
鳥井は良く考えてから、楽屋のすぐ裏の扉をマスターキーで開き、非常階段に死体を運び、階段から転落したように偽装した。腕時計は23時10分で壊した。
懐中電灯も転がした。
非常階段のドアを閉めて現場を去った。
時間は深夜3時。
人目のつかないルートで駐車場に向かおうとすると、
「ちょっとすいません」
鳥井はいきなりだったので、焦った。
「な、何でしょうか?」
「私は黒井川と申します。警察の者です。お手洗いはどこですか?」
「警察の方?パトカーが止まっていると思えば。何があったんですか?」
鳥井は白々しい言葉を放った。
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