第3話: 家族との別れと決意

フォード家の屋敷は、今も静かな時間が流れていた。レンは自室で最後の荷物の整理を終え、これからの冒険に備えていた。明日、彼はこの屋敷を出て、冒険者ギルドに向かうことになる。そのため、家族との別れが迫っていた。


「これで準備は終わりか……」


レンは荷物を詰めた鞄を見下ろしながら呟いた。装備はまだ最低限のものしか揃っていないが、何とかなるだろう。彼にとって重要なのは、持っている「無限成長」の力であり、それをどう活かすかが最大の課題だ。


その時、静かなノック音が部屋に響いた。扉を開けると、そこに立っていたのは、兄のアーサーだった。彼は家族の中で最も信頼されている人物であり、フォード家を支えるリーダーとしての役割を担っている。


「レン、少し話がしたい」


アーサーの声はいつもと変わらず穏やかだが、どこか真剣な雰囲気を感じさせた。レンは部屋に兄を招き入れ、二人は静かに向かい合った。


「明日、家を出るんだな」


「うん。ギルドに登録して、冒険者としてやっていくよ」


アーサーは頷きながら、しばらくレンの顔を見つめていた。そして、ふと視線を外し、窓の外を見やった。


「俺たち兄弟は、それぞれ自分の道を歩んでいる。俺は軍で家を守り、ライルも俺を支えるために戦っている。エリザは男爵家に嫁いで、外交を担っている」


アーサーは家族の現状を静かに語った。レンは、兄の言葉にじっと耳を傾けながら、自分がこの家で果たしてきた役割を改めて考えた。兄や姉がそれぞれの場所で家族を支えている一方で、自分は特に何もできていなかった。


「お前は、今までこの家に縛られていなかったか?」


アーサーの問いに、レンは少し驚いた。兄がこんなことを聞くのは珍しいことだった。


「縛られていた……のかもしれないな」


レンは正直に答えた。フォード家の末っ子として、自分に与えられた役割が明確でなかったことが、彼を不安にさせていた。しかし、異世界に転生し、「無限成長」という力を手にした今、自分の道を切り開くチャンスが巡ってきたと感じている。


「俺は、もっと自由に生きたいんだ。この力を使って、自分の力を試してみたい」


レンは決意を込めてそう言った。アーサーは静かに頷き、深い息をついた。


「お前が自由に生きることは、俺も父も望んでいる。だが、それは簡単な道ではない」


「わかってるよ。でも、挑戦しなければ意味がない。俺は挑戦したいんだ」


レンの言葉には、かつての迷いはなかった。アーサーはその決意を感じ取ったのか、柔らかい笑みを浮かべた。


「そうか。ならば、応援するよ」


兄のその言葉に、レンは心が少し軽くなった。アーサーはいつも自分の背中を押してくれる存在であり、今回もまた、その言葉で勇気を与えてくれた。


「ありがとう、兄さん」


レンは感謝の気持ちを込めて、アーサーに頭を下げた。兄弟としての絆を感じる瞬間だった。


アーサーとの会話が終わり、レンは部屋に戻ろうとしたが、扉の前で今度はもう一人の兄、ライルに出会った。彼はアーサーと同じく軍に所属しており、強靭な体格を持ち、戦闘においてはアーサーを支える重要な存在だ。


「レン、少し時間あるか?」


ライルは短く言いながら、レンを外に誘い出した。二人は屋敷の裏庭に出て、夕陽に照らされた静かな場所で並んで立った。


「お前が家を出ると聞いた。アーサーから話は聞いている」


ライルは口元に笑みを浮かべながら言った。その笑顔はいつも通り穏やかで、レンに安心感を与えていた。


「俺は兄さんたちみたいに軍には入らないけど、自分の道を見つけたいんだ」


レンは自分の決意を簡潔に伝えた。ライルは少し黙った後、軽く頷いた。


「それでいいと思うぞ。お前にはお前のやり方がある。俺たちは、ただお前を見守るだけだ」


ライルは兄らしい言葉を投げかけ、レンの背中を軽く叩いた。彼は言葉少なに、それでもしっかりとレンを応援してくれている。


「お前がどんな道を選ぼうと、俺たち兄弟はお前を信じている。だから、どんなことがあっても、自分を信じて進め」


ライルのその言葉に、レンは胸が熱くなった。フォード家の兄弟たちは、常にお互いを支え合い、信頼してきた。そして、今もその絆は変わらない。


「ありがとう、ライル兄さん」


レンは深く頭を下げ、心から感謝の気持ちを伝えた。これで、兄たちとの別れの準備は整った。


翌朝、レンは屋敷の正門に立っていた。最後に家を出る瞬間、彼は長女のエリザとも別れの言葉を交わした。エリザは既に男爵家に嫁いでいるが、レンにとっては優しく、賢明な姉だった。


「レン、あなたが選んだ道を信じて。困ったことがあれば、いつでも助けに来るわ」


エリザは優しい笑顔でレンを励ました。その言葉は、彼の心に強く響いた。


「ありがとう、姉さん」


レンは深く礼をし、彼女に別れを告げた。そして、ついにフォード家を後にする時がやってきた。


「ここからが本当の始まりだ」


レンは心の中でそう呟き、家族との別れを胸に刻みながら、冒険者としての新たな道を歩き出した。彼の背後には、家族の期待と応援があった。そして、その期待は、彼がこの世界で成し遂げる冒険の第一歩となる。




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