第4話

 Yは車を走らせた。しばらく行って人気のない大きな川にやってきた。川は急な雨で増水し、茶色い大きな生き物が右から左へと大移動しているようだった。晴れてる日には散歩する人の多い河川敷は見えなくなり、枝が流れては消えた、流れては消えを繰り返す。Yは車から降りて、返り血のついた雨具や手袋、靴をまとめてビニール袋に入れた。そして、車に再び乗り込み近くの橋まで移動した。橋の中央で警告灯をつけ停車すると、車や人が通っていないことを確認し、素早く降りてその袋を橋の下に向かって投げ捨てた。大きな川は、ビニール袋を咀嚼するようにチラチラと白い姿を見せながらやがて飲み込んでしまった。Yは雨に打たれながらビニール袋が川消え去るのを表情一つ変えずに見つめ、再び車に乗り込んだ。体についた水をハンカチで拭き取る動作は、つい先刻人を殺めた人間のする行動には似つかわしくないほど日常的な動きであった。Yはそのまま、雨で視界の悪くなった行き先を見つめながら、ワイパーが盛んに動くリズムと車に流れる音楽に耳を傾けて緩やかにアクセルを踏んだ。

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