第3話

 あっという間に家に着いた。三階建てのアパート、社会人になってから住み始め、慣れない仕事に苦しみながら成長してきた。それを支えてきてくれた家。3年間の思い出が頭の中を巡っていく。地元で働くことにした私は、仲間と家で飲み会をしたこともあった。小学校や中学校の思い出に花を咲かせた。もちろんそこにはYもいた。いや、今はそんな思い出を振り返るのはやめよう。階段を駆け上がり、鍵を開けて家に入る。とりあえず、この服を脱がなければ。体をタオルで素早く拭き取り、着替える。雨具を着てとりあえず冷えた体を温めながら必要な物を集めよう。必要なものはなんだ…。リュックに物を詰めていく。防犯カメラを避けて生活しなければ店によることも限られるだろう…。食料、水、衣服。しばらく野宿か、キャンプグッズも最低限用意しよう。アウトドアの趣味がこんな形で実を結ぶとは…。あとはこれも、これも必要か。キリがなくなってきたのでとりあえずこれ以上もっていくのはやめた。素早く荷物を詰めて、扉を開けていつもの習慣のせいか鍵を締めた。いつ帰ってくるかもわからない家に鍵を締めるなんて、なんて皮肉なんだ。階段を駆け降り、自転車でまた走り出し始めた。私は今後の段取りと計画を頭の中で張り巡らせながら、いつやむかも曖昧な雨の中に消えた。

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