第2話

 ひたひたと近づいてくるYに恐怖を感じてしまった。一歩も動けなかった。すると腹部から自分の感覚とは違う感覚が結びついた。まさにそれは死だった。Yは素早く振り向きカバンを持ちあげ私の横を素早く走り去っていった。恐る恐る腹部を見てみると血が着いていたが、外傷はどこにもない。自分にはその状況が理解できなかった。刺されたと思ったが、そうではなかった。血だけが着いている。雨の染み込んだ服をめくり、腹部を確認しても傷は確認できなかった。死ななかった安堵が心を満たしたが、すーっと安堵感が消え、恐怖ともに怒りが腹の底から込み上げてきた。Yは私に罪を着せたのだ。Yとは小学校からの付き合いだ。社会人になっても仲良くしていた友として、友としてこんなことがあっていいのか。怒りのままに駆け出した。

 玄関にはナイフだけが無造作に取り残され、打ち付ける雨と滲んだ赤い血が混ざり合い奇妙な水滴が踊り狂っていた。見覚えのある赤い車はもはや何処にもいなかった。これはまずい。Yは警察官、父も警察のお偉いさんだったはずだ。Yは昔からそうだった。特別賢くはないのだが、ここぞという時に機転が利いていた。その発想に舌を巻くこともしばしばあった。ふざけたことや馬鹿げたことに笑い合った日々…。そんなYが…。

「クソ…。」

 自分でもそれしか出てこなかった。思い出が溢れてきてしまうが、時間がない。この状況は明らかに犯人にされてしまう。逃げるしかない。そうしなければ、罪を着せられてしまう。なんとかしなければ。思考と感情が濁流となる中、体は一直線に自転車に向かい、自宅に向かって漕ぎ出していた。

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