私に罪はない
@longtimenosee
第1話
それは15年ほど前の話だろうか。夏とはこんなにも暑かったろうか、ゲリラ豪雨という言葉が少しずつ使われ始めるようになったぐらいの時期だろう。その日もバケツをひっくり返したような雨が急に降り始めたのだった。私は、休みの日にはいつも自転車で遠出する。趣味で今日も出かけていた。そんな中の雨に、目の前の視界がぼやけてきたために悪態をつきながら帰路につくことにした。
私の住んでいるところは、県のさびれた地方都市という言葉がぴったりと当てはまる。こんな雨が降るとなおのことである。ただでさえ少ない人がどんどんと少なくなり、人の気配がほとんどなくなった。家までもう少しとなった。住宅街を通っていると大きな物音と叫び声がした。雨の中、かろうじて聞こえるほどだった。音のした家の前までくると見覚えのある赤い普通車が停まっていた。その後ろに自転車を停めた。
「御免ください」
あまりに使い慣れない言葉に聞き取れない独り言になってしまった。昔ながらのおじいちゃんやおばあちゃんが住んでそうな立派な家だ。大雨でベチャベチャの体では少し家の中に入るのに抵抗があった。半袖短パンからも水がポタポタと滴っていた。しかし、居間だろうか。扉が開いている。物音もする。寒さを感じ身震いする。ゆっくりと恐る恐る扉に近づいて行った。するとそこには見慣れたYがいた。Yは素早く手を動かし、棚をあさっていた。その近くにはぐったりと血を流して倒れたおばあさんがいた。
「よぉ、元気か?」
Yはこちらに気付き冷静な口調で話しかけてきた。いつもの冗談じみた話ぶりだが、その声は濡れた服を突き抜けて身体を突き抜けるような不快さがあった。私はこの状況を理解できずどれほどの時間立ち尽くしていたのだろうか。ほんの一瞬だったはずだ。しかし、その時間は無理やり引き伸ばされた飴のように長く長く感じた。痺れを切らしたのかYはおもむろに立ち上がり、私の方を見てこう言った。
「なら、こうしよう」
Yは足元の赤く染め上げられたナイフをこちらに向けて近づいてきた。ゆっくりゆっくりと。
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