第18話 ~ダンジョンに閉じ込められちゃった2~

「私たちこれからどうする?」


「そうですね……このままダンジョンの中でじっとしていても埒が明きませんので、そろそろなにか行動を起こした方が良いと思います」


「だがよ、行動って言ってもあの化け物に挑むのはキツイだろ」


「それな!今の俺たちが挑んでも勝てる気がしない」


 龍二が言う化け物とは、私たちが閉じ込められたダンジョンの奥に鎮座している魔物で、今もなお魔力が増えて行っている。


 きっとあの魔物を倒せばこのダンジョンから出られると思うけど、どうにもこうにも魔力の差がありすぎてみんな戦いに行こうともしていない。


「そういえばさ、龍二とはもう能力を教え合ってるけど、そっちの二人とはまだだったよね」


「そうですね、自己紹介はしましたが能力についてはまだ……この際連携不足があってはならないので教えておきましょう」


俊杰ジュンジエがそういうなら良いぜ!」


「僕の能力は二つあります。一つ目は物を軽くする能力です、こちらはその名の通りで物を軽くできます、これによって石などの無生物は軽くできますが、人や魔物などの生物は基本的に無理ですが、例外があり僕と相手の魔力の差が極端に違うと発動しますがあまり意味はないでしょう。二つ目はこの目です、昔探索者狩りに襲われた際に怪我をした目に義眼を埋め込んだんです、まぁ能力というより魔道具ですが……この目に魔力を込めると」


「おぉ紫になってる!」


「魔力を込めるとそれに反応して義眼が透明から紫色になるんです、なぜ眼帯をしているかというとまぁ単純に見栄えが悪いからですね。魔力を込めてないと目の奥が見えちゃいますからね。あとこの魔道具の能力は色々有って、数キロメートル先でもはっきりと見えるのと、魔力を完全に見ることが出来て、個人個人に色を指定することもできて、更に魔力の流れを辿って追跡することもできます。原理は良く知りませんが結構便利で重宝しています」


「なるほど、かなり便利だがそんな魔道具を作ってる店なんて中々なかっただろ」


「市販では売ってないと思います。何せ僕のおじいちゃんが作ってくれたものですから」


「俊杰の爺さんは凄腕の魔道具制作師なんだぜ!」


「確かにそんな便利なもん作れるならさぞ良い腕なんだろうな」


「じゃ、次は俺の番だな!俺の能力は魔力の炎を出すって奴だ、まぁ俊杰とは違って一つしか能力無いけど強力だぜ!とりあえず魔物は良く燃えるな、魔力を持ってる奴ほど俺の炎にその魔力が引火して更に燃えるって寸法だ!これのおかげでレベル差があるバトルでも勝って来たってわけよ」


「それならあの化け物も倒せるの?」


「いや~どうかな?まぁそういうのはやってみなきゃ分かんないけど、説明が足りなかったな、俺の炎の射程は精々1mだ」


「それじゃあかなり近づかないと駄目じゃねぇか!」


「ま、そういうわけ!知能がある敵なら騙せるけど、やっぱし魔物とかの知能よりも本能で戦うタイプは、騙すもクソも無いし多分今回はキツいかもしれん!」


「僕たちはこういう感じです」


 そして私たち二人の能力の説明をして、作戦会議?は終了した。


 その結果どうやっても勝てなそうな予感しかしない雰囲気になってしまった。


「このまま救助を待つしかねぇのか?」


「変に刺激してもはや救助不可能ってところまで行ってしまったら手遅れですしね」


「死んだら終わりだしな~死後の世界にも興味あるけど今じゃない!」


 意外とみんな呑気に座りながら話してるけど、不安じゃないのかなこのまま一生出られなかったら、ダンジョンで死ぬことになるのはごめんだ。


 私は死ぬなら異国の地じゃなくて自国の地でって決めてるんだ、どうにかしてこの灰色になったゲートを元のゲートにしないといけない、でもどうやれば良いんだろう。


 仮に救助が来るとしても、それはいつになるか分からない。


「よし、討伐しに行くぞ」


「え?」


「え、ってもしかして志穂さん聞いていませんでしたね?」


「ご、ごめん。ちょっと考え事してた……でなんの話してたの?」


「しょうがないなー志穂ちゃんは……俺たちはもうあの化け物討伐することにしたよ」


「え、でも勝てないかもしれないんだよ!」


「でもさぁ、やっぱやらな野垂れ垂れ死ぬよりもやって戦死したほうが、やってやった感あっていいじゃん!」


「何を言ってるの?これはゲームじゃないよ」


「志穂、結局は戦うことになる。なら体力がある今の内に叩かねぇと、それに奴どんどん魔力溜めってってる、早めに手を打たねぇと奇跡すら起こせないほど俺たちと奴の力の差は広がるばっかだ。志穂はここにいると良い、能力使えないんだろ?」


「そうだけど…………」


「じゃ、行ってきまーす!」


「あ、」


 そうして三人は行ってしまった、だけど仕方ないよね……だって私は戦力にならなそうだもん。


 これで良いんだ、死んだら終わりなんだ……あってすぐの人たちに背中を預けられないや。


 !


 結局志穂は付いてこなかった、だがもう後戻りはできない。


「あれが元凶…………」


「予想外ですね。まさか人型の魔物だったとは」


 バケモンは、広い空洞の真ん中で空を仰いでいた。


 その周りには景色が歪むほどの魔力が漂っている、魔力耐性がそれなりになかったら即気絶コースだったな。


 人型といえど良く見てみるとやっぱり魔物には違いねぇ、肩回りが異常にゴツく紫色の結晶が生えていて、足は細くて腕は片方が結晶に包まれていた。


 きっと魔力を実体化させるまで取り込んだんだろう、どうりでゲートの魔力も失せるわけだ。


「まずは俺が行く、本格的な防御ができるのは俺だけだからな」


「様子見行ってらー」


 正直このダンジョンに潜った時は、今回も楽な仕事こなして帰りに陸史と一杯やろうかとか考えてたが、まさかこんな奴と戦わないといけなくなるとはな、まったくツイてねぇぜ。


「こんのバケモンが!」


 俺の横薙ぎを平然と交わしやがった……コイツ、素早い!


「バケモン?僕をバケモン呼ばわり、そこまで醜いですか?」


「喋った……!?」


 魔物は基本的にしゃべれねぇ、はずなのに……人間なのか?いや、風貌はただのバケモンだ。


「どうして僕が喋れないと思ったのですか?会話はあなたたちの専売特許じゃないですよ」


「うるせぇ!」


「野蛮です。あなたたちは敵、ですか?じゃあ、殺しても良いですか?」


 その瞬間凄まじい風が俺を横切った。


「ぐぁああ!!」


 風じゃねぇ!アイツだ、横っ腹を切り裂かれた!くそっ痛ぇ、速すぎて能力が間に合わねぇ。


「龍二さん!」


「想像以上に……強敵だ」


「お二人は観戦ですか?」


ルイ後ろ!」


「――!食らっとけ!」


「ありがとうございます。おかげで回復出来ました。あと攻撃したということは反撃してもよろしいのでしょうか?」


 睿は背後の魔物に攻撃しようと身体を反らせて、無理な体勢で炎を放ったせいか、体勢を崩して魔物の攻撃を喰らう一歩手前だ。


「させませんよ!」


 そこに間一髪俊杰が短剣で斬りつけるが、意識を反らせただけで反撃とまでは行かなかった、魔物は短剣を結晶化した手で掴み、興味深そうに凝視する。


「これは、短剣でしょうか?間違ってたらすいません。うーん、鑑賞用としての価値はそれなりにありそうですね」


 あのバケモン、睿の炎を直撃しても無傷かよ、もしかして魔力なら無差別的に喰らえるのか?んなもん本格的に勝ち目がねぇじゃねぇか!


「不思議な魔道具を装備していますね。それどこに売ってますか?」


「生憎非売品です!」


 俊杰はもう片方の手にも短剣を持っていたらしく、それを魔物の腹部に深く突き刺さると紫色の液体が噴き出した。


「もう一本持ってましたか……傷は深いですが、それはあなたたち基準なので、僕にはほとんど無傷と変わりありません」


「認めましたね」


「俊杰助かった!サンキュー」


「認めてません、僕は確かにあなたたちとは違いますが、バケモンではありません。そうですね、僕を作ってくれた父はこう言ってました。ダンジョンチルドレンと」


「ダンジョンチルドレン?ってことはお前みたいなやつがまだたくさんいるってわけか!」


「そろそろ喋るのやめませんか?非生産的です」


「バケモンと意見が合うとね!」


「バケモンって言わないでください」


 くそ、俺は完全に蚊帳の外じゃねぇか……思いの外傷は浅かったが、出血はまだ止まりそうにねぇ、今こっち来られたら俺はもう能力を使い続けるしかねぇな。


「あれ、おかしいですね。攻撃が当たりません」


「その腕の結晶、重いんじゃないか?右を見切ればあとは余裕じゃん!」


 睿の野郎、もうバケモン動きに付いていってやがる、動体視力どうなってんだ?だが、このまま押し切れるならそれで良い、無駄な怪我は負いたくねぇからな。


「厄介です。ですが、あなたの炎は効かないです」


「悔しいがそうだな!龍二!戦わないならその刀貸してくれ」


「この刀は貸さねぇ!」


「三人になったのは悪い傾向ですが、あなたたち連携がそこまで上手くないですね」


 睿の炎で目をくらまして俺か俊杰が斬る、だがところどころぎこちない俺たちの連携は次第に見切られていく。


「そろそろ終わりにしましょうです」


 来た、きっとさっきの速い攻撃がコイツの必殺技だ……そして俺の予測だがさっきと同じルートで来るはず、間違えてもノーリスクだろう、やってみる価値はある。


「睿!俊杰!俺が受けるから散れ!」


「とどめです」


「来い!」


 予想通り奴は俺の横っ腹を切り裂きに来た。


「ぐっ」




「い、今のはかなり痛手です、ね」


「マジかよ…………ほとんど無傷、こっちはクソいてぇのに」


 奴の攻撃に合わせてラリアットの体勢で能力を発動してアイツが勝手に頭をぶつけてくれたまでは良かったが、予想以上に勢いがあったせいで俺の腕が負けて、折れちまった。


 まさか能力の硬さを上回るほどの威力だったとは、予想外だ!


「いや、確実に効いてますよ!」


 確かによく見ると足が震えてやがる、やっぱり人型の内部構造は俺ら人と同じだったな。


「もう、一発行くか!?」


「もうやりません。僕はあまり馬鹿じゃないので、同じ轍は踏みません」


 まぁそりゃあそうだよな、俺だってそんなことしねぇ。


「あなたはもう狙いません」


「睿!構えてください」


「分かってるよ、今度は俺らが相手してやるよ!」

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