第17話 ~件の魔物を討伐するだわさ~
「三田!」
「おう多久!みんなも来たか!」
「もちろんだわさ」
「このくらい全く問題ないわ」
「ふぅ、機材の運搬ありがとうございました!ではこちらで設置に取り掛かるので、何か気になったことがあったら言ってください」
「そうかい、じゃ。遠慮なく殴りに行けるな」
「え、何をですか?」
「探索者どもが何か気付いたようだな…………」
ここに着いてから遠くから感じてた膨大な魔力、それは現時点でも成長し続けているらしい、そしてソイツは多分、この事件を引き起こしている張本人だろう。
それにしてもゲートの色がとんでもないほど白くなってやがる。
「うし、ガキども……鬼退治の時間だ」
「結構魔力デカいね!これは大物の予感だ」
「無駄にバカでかいのはあまり好きじゃないわ」
「ん、ふぅ……よっしゃーー!準備運動完了!」
「剣が通用しますように、剣が通用しますように…………」
やはり皆気付いていたらしい、まぁこれほどまでに馬鹿デカい魔力に気が付かない探索者がいたとしたら、ソイツは大がつくほどのとんだ鈍感野郎だ。
「じゃあ競争な!誰が最初にアイツに辿り着くか勝負!」
「ふん、くだらねぇ」
「あら、珍しく意見が合ったわね」
「そうだな、実にくだらねぇ」
「きょ、競争ですか……苦手です……」
「よっしゃー!行くぞ行くぞ行くぞ!」
「探索者どもがまたガキみたいなことやってらぁ」
「探索者マニアとしては絶対に見逃せない勝負ですが、やはりその前に事件の解明が先決……くぅ…………」
くだらねぇ、俺に勝負事仕掛けるたぁ……負ける準備は万端らしいな、ガキども。
「ねぇおじさん!掛け声言ってよ!」
「ん。はぁ?めんどくせぇからパス、佐藤。お前やれよ」
「行きますよー!よ~い、ドン!」
「だっしゃああ!」
「俺が一番じゃぁああ!」
「私が一番なんだから!」
「僕が一番じゃないのはなんか癪です!」
「なんでお前らはそんなに乗り気なんだ!?」
!
「負けたぜ!」
「くっそー四着か!やっぱばあちゃん早いな!」
「ばあちゃんって言うんじゃねぇガキ!まぁ俺が一番だな、久々に良い運動になっただわさ」
「みんな はやっ……私が最下位だなんて……」
「二着ですか……ウザいです」
もちろん俺が一番で奴のところに辿り着いたわけだが、予想とは裏腹に募らせた魔力よりも数倍小さい図体の鯨みたいなのが、洞窟の中で紫色に鈍く光りながら宙を泳いでいた。
「浮いてんぞ!」
「あれがボスだね!」
「ぶちのめすか」
「案外ちっこいのね、可愛らしいじゃない」
「剣が通用しない、剣が通用しない…………」
「ガッァアグォオオオオ!!!」
鯨のような魔物はこちらに気付いたようで、少し地面に降りて来て目線を合わせた後、見た目のような悲し気な鳴き声では無く、むしろ狂い気のある鳴き声を放って来た。
「うぉおお!かっけーーー!」
「鯨なのは見た目だけのようですね。鯨のように悲し気な鳴き声と表現されるほど切ない鳴き声を期待していたのですが、その期待を無下にされたようです……そして下に降りてきたということは剣が通用する……!」
「アンタ意外と喋るわよね」
「速攻!だわさ!」
やはり戦闘において、先手と言うのはかなりのアドバンテージになる、そしてその先手で仕留め切れれば無駄なダメージを負わずに済む、これこそ理にかなった戦闘方法だ。
俺は鯨が何かする前に既に駆け出していた。
「ふぅ、蓄積分小解放ッ……魔力!……鯨よぉ、よくも娘にあんな思いさせやがって、こんのアホンダラァ!」
「バッッォオオオオ!!?」
「殴った!?」
「効いてますね……こっちも畳みかけますよ!」
俺が込めて放った一撃を顔面に喰らってまだ生きてるか……吸った魔力を使ってなんらかの方法で回復してやがるな、きっとこいつの周囲に濃く浮遊してる魔力は、ダンジョン中から掻き集めたもんだろうな、もしこれ以上更に回復する為に魔力を使われると、魔力不足に陥ったダンジョンが崩壊しちまう……つまるところ一撃であの野郎を葬り去る方法があれば良いんだが。
「鯨にこのまんま攻撃続けると、回復する為に使った魔力を補充する為にダンジョンの魔力を吸い尽くす可能性がある!そしてこいつの治癒能力は異常だ、つまり一発で倒す必要がある!誰か一撃必殺の技ないのかい!?」
「ぼ、僕の技なら一刀両断できるはずです。少々時間は掛かりますが、確実性は高いでしょう」
「アンタの剣に私らの魔力を流し込んでズバッと行く作戦ね。そう上手く行くかしら」
「上手く行くかはやってから考えればオーケーオーケー!」
「む、何か来る……ビームかッ!?避けろ!」
鯨は俺らの話し合いを遮るように、極太の極光レーザーを真ん中に割って入るように撃って来た。
だが流石に魔力がデカすぎる、この程度だったら素人でも避けられる。
「今のでかなりの魔力が減ったのを感じました。とにかく僕を信じてください、ミスったらドンマイです……」
他の皆も一撃必殺の切り札は無いらしく、やはり春樹に全てを託すことになった。
フォーメーションはこうだ、俺らが春樹に魔力を吸い取らせて剣に流し込んでる間、三田に時間を稼いでもらう、あいつは存在感だけ半端ないからな……。
「では失礼します……」
「おぉおぉ……す、吸われるぅ…………」
「あまり気分のいいものじゃないわね」
「これが吸われる気持ちかいな、身体中がピリピリしてむず痒いさね」
しばらく春樹に魔力を吸われ続けていると、最初に多久が気絶した。
魔力を身体中に流すのが当たり前となった探索者にとって、魔力を吸われ尽くすというのは、大袈裟に言うと血を全部吸われたくらいの気分だろうな。
「私ももうダメ、かも……」
「ふぅ、かなり溜まってきました……剣に魔力を流し始めます……」
春樹は更に集中して剣を構えそこに手を当てながら魔力を流して行く、そして流し終えたのか閉じためを見開くと、何も言わずに駆け出した。
お礼ぐらい言いやがれってんだ……っと流石三田だな、パーティー経験が一番豊富な奴は察す能力に長けてやがんな。
春樹が駆け出したのを悟った三田は、すぐにワープで俺のところへ戻って来ていた。
「さて、足止めはしたぜぇえ!!春樹!決めちまえぇえ!!」
鯨に急接近してそのまま横薙ぎ一閃、一瞬辺りが紫色に光ったと思うと、そこには刀を振り抜いた春樹と、上と下がすっぱり別れて三枚おろし一歩手前の鯨の死体があった。
「うぉおおおおお!春樹やるなぁ!」
「俺の魔力効いたろ?感謝しな坊主」
「えぇ、ありがとうございました。本当は全部吸い尽くすつもりでしたけど、それだと剣の方が耐えれなそうだったんで無理でした……」
「はん、とりあえず鯨は討伐したから、ゲートん方で何か変化があったかもなぁ。この寝てる二人連れて戻るぞ」
!
二人を仮設キャンプに寝かしつけ、少し休憩をした後に、二人が起きてきたのでダンジョンのゲートを活性化させ、俺達はゲートには潜らずに来た時と同じ方法で研究室に帰還していた。
どうやらこの装置はかなり貴重らしく、更に何度でも使える為に必ず持って帰って来るようにと上から命令されていたらしかった、帰りの際はしっかりと座標の設定ができるので、研究室にピンポイントに帰って来れるという寸法らしい。
「皆さんお疲れさまでした。おかげさまで原因が分かりました!まぁ探索者の方々は感覚で何となく分かっていたようですけど、理論的に導き出すのが僕達の仕事ですからね。とりあえず結論から申し上げると、やはりゲートの魔力不足が原因ですね……ですが一つ疑問があるんですよね。それはこのダンジョンで起きただけのことなら普通のって言い方もなんかおかしいですが、こちらとしても普通のイレギュラーとして報告書書いてはい終わりなんですけど、今回の事例は他のダンジョンでも発生している群発型なんですよ。そしてダンジョン全体の異変とかではなく、一部のイレギュラー化した魔物の仕業ってのが気になります」
「そうだな、ダンジョン自体の故障ならそれで……良しなんだが、特定の個体がやってるってのが引っ掛かるよな。まぁ他のダンジョンが同じ状況で同じ解決方法なわけじゃないがな」
「やっぱ俺達が加勢するのが無難かもな!!」
「それ、どんだけの苦労になると思ってんのよ」
「確かにそうだな」
「ただでさえ条件が揃ってたから勝てた相手であって、100回やって100回勝てる勝負じゃないんだから、私達がむやみやたらに加勢して悪い方向に転がったらどうするのよ。でもまぁ春樹みたいな能力は必須だと思うけどね、だってモノに魔力を流すっていう能力がないと簡単にダンジョンのゲートを回復させられないもの」
「僕はもう動きたくないですよ……吸う側も結構キツいんですから」
「あ、東正さんは後で個別に研究室に来てくださいね。その能力を応用した新しい道具を思いつきましたから!」
「うぅ、アニメ見たい……寝たい……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます