第16話 ~ダンジョンに行くだわさ~

「あれ……志穂?」


 ダンジョンでの配信が終わった数分後、志穂よりも先にダンジョンの外に出た私は、志穂が中々ダンジョンの中から出てこないのを不思議に思い、ゲートに近付き入ろうとするが、なぜか中へと入れなくなっていた。


 ゲートの外観はいつもと変わらないのに、入り口の機能が無くなったそれに謎の嫌悪感を感じて、それと同時にもしかしたら志穂がそのせいで外に出られなくなっていると思い、急いでダンジョンのイレギュラーに対応してくれるダンジョン協会へと連絡した。


 だが、電話が掛かることはなく、それを知らせる無機質なアナウンスが流れるだけだった。


 それと同じく志穂にも電話を掛けたが繋がる事は無かった。


 なにがなんだかのこの状況で、Tyowiterになにか情報が載っていないかと見てみると、トレンドにダンジョン封鎖の文字があった。


 それを覗いて見ると、みんな同じような状況になっているのだが、中に閉じ込められた人の投稿は無く、ほとんどはダンジョンに入れなくなったという報告のみだった。


 この状況から見るに、やはり中に閉じ込められた人は電話などを使えなくなっているのではないかと思った。


「もしもし!おばあちゃん」


『ん、なんだ?今少し忙しい。また今度じゃダメかい?』


「ちょっと待って!私の友達がね、ダンジョンに閉じ込められちゃったみたいなの」


『何?そっちもか!……俺は今その原因を探る任務中だわさ』


「おばあちゃんなにか原因が分かった?」


『さっぱりだな。それにダンジョンが発生してから約20年、こんなイレギュラーには遭遇したことも聞いたこともないだわさ。きっと完全未知で新しいタイプのイレギュラーなんだろう……内部の状況が分かんねぇ限りな、美瑠の友人がどうなっているのかは分からんがな、俺達が解決してやるさね。丁度今、解析能力持ちの探索者を招集しているところだ』


「私、志穂のことが心配だよ……」


『美瑠ができることなんてほとんどないな、今日は大人しく家に帰って俺の報告を待ってろ。じゃ、丁度数人集まって来たと報告があった、切るぞ』


「分かった……じゃあね」


 志穂、大丈夫かな……。


 !


「恵津子さん。誰ですか?」


「あぁ、孫だよ。どうやら孫の友達も同じ現象に巻き込まれたらしくてなぁ……それより、準備は出来たのかい?」


「おう、こっちは準備できてんぞーお前らさっさしゃかしゃかどんどん動け~」



 ここはダンジョン協会の最先端技術が集まる『Dラボ』だ、どうやら上の頭の良い連中にはネーミングセンスというのが無いらしい、俺だったらこの呆れた頭空っぽの名前の連中に助けてなんて貰いたくない。

 ワープ装置か、創作物でしか聞いたことなかった代物を、俺達が最初に使うことになるとは実に光栄だわさ、だが人類の知能百パーで作ったわけじゃなく、ダンジョンの副産物である能力を使って作ったらしいってんだ。


 それは筒のようなもので、その側面には扉がついている、中に入ると人ひとりが入れる程度でそれが横に五つ並んでいる、今回の作戦には俺を含め探索者が4、研究員が2、付いてくる。


『え~装置点検オッケー……通信オッケー……動作問題なし……よし!では装置を作動させます!目を瞑ってください』


『ワープ装置すっげ!てかせまっ!』


『はぁ、早く帰りたい、アニメ見たい、寝た――』


『うっしゃあああ行くぞ!』


『あーうっさ……通信繋がってんの分かってる?これ耳元で叫んでるのと同じ……熱血漢は冷凍庫にでも籠ってたらどう?お似合いよ』


『探索者ども、頭脳たる俺ら二人を護れ。頼むぞ』


「それが人に物を頼む態度かい?くっくっ、ガキが舐め腐ってるじゃないか……まぁ程々に護ってやるから感謝しな!」


 装置は轟音を発し揺れ始め、そして瞼ごしでも分かるほどの光が俺を包んだ。


 しばらくしてそれが収まると通信が入った。


『はい、到着です。皆さん装置から出てください!』


「おぉ!マジでダンジョンに来てんの?」


「結局来ちゃった……緊張するなぁ」


「原因見つけるぞぉおお!」


「森ね。ジメジメしてて嫌いだわ」


「おぉ、こりゃ凄いわ!さっきまで機械っ苦しい研究所の中だったのに、装置を出たらもう森かね!」


 装置から出ると、みな一様に周りを見回していた、そこは森の真ん中で研究員によると無事ダンジョンにワープできたようだった。


「森は良いところだよ……僕は好き」


「アンタみたいなジメジメした男には魅力的かもね」


「では、まずはゲートの確認に行きましょう。すべてのダンジョンがくだんのイレギュラーに巻き込まれているとは限りませんからね」


『確認出来たぞ!ゲートはしっかり灰色になっているッ!試しに全力で殴ったが普通に拳の皮が剥けたぞ!』


「早いですね……羨ましいです」


『まぁワープ装置のワープ部分は俺の能力で成り立っているからな!』


「ではとりあえず三田さんのところまで行きましょう。マーカーは既に刺してあります、それを辿ればゲートに辿り着くでしょう」


「そういえば私アンタ達と初対面なのよね、能力を教えてもらえるかしら?そういうのって連携で必要になって来るでしょう?あと名前と使用武器かしら、コミュニケーションエラーで全滅ってのはダンジョンでのテンプレの死に方ね」


「確かに味方の能力を知っているか知っていないかでは、戦闘の成功率というのはかなり違います。ちなみに僕、佐藤さとうともう一人の研究員城前じょうまえは能力や殺傷武器等は持っていません」


『俺三田伸一みった しんいち!武器ブーメランでワープだ!文字通りワープが出来る!だが、視点の先にしか飛べないしワープは数メートルが限界だ!ブーメランは結構使えるぞ!』


「弱そ」


『酷いな!』


「俺は山村恵津子だ、能力は貯蓄、武器は主に短剣だ。能力の名前の通りだが貯蓄できるのは生物の生命力か、魔力だけだわさ」


「あ~生命力を吸っているのね、だから見た目に反して喋り方、知識がババ臭かったのね~」


「なんだと?最近のガキは本当に老人を舐め腐っているらしいな」


「俺は毒だ!毒の煙を全身から出せる!調子の良い時は唾液も毒にできるぜ。神経毒?だった気がする、武器はこの棒……うーん……なんか相手の皮膚を沿わせて削る感じ?これに毒を塗り込んでついでに倒せんだ!」


「小学生みたいな喋り方のくせに結構えげつない武器を持ってるのね。で名前は?」


「えへへ、良いだろ!名前は多久たくだ!もうすぐ高校三年生になるんだぞ!」


「そう、多久ね……え、高三?信じられないわね……その立ち振る舞いで高校生は無理あるわよ」


「ぼ、僕の名前は東正春樹とうしょう はるき……です。武器はこの剣でちなみに剣道の有段者です……あっ、といっても剣術はダンジョンで戦えるように自分なりに落とし込んだものなので、実際に資格は意味成してないないと思いま……す。能力は大抵のものに指先から延ばした光る糸を付けれるというもので、対象の魔力を吸ったり流したり、用途はいろいろありますが、剣に魔力を流すと切れ味も耐久力も増すので重宝してます。なまくらでも幾分かマシになるので木刀でも魔物に打ち勝てたりできます……その他にも――」


「長い!アンタ得意分野になると話が無駄に長ったらしいのね。よくいるわそういう人、私は嫌いだわ。まったく聞いても無いのにペラペラと喋る」


「……性格悪い人は嫌いだなぁ……」


「なにか言ったかしら?」


「うっ、なんでもない……です」


「お姉ちゃんの能力も教えてよ!」


「お姉ちゃん……悪くないわね……ってなんでもないわ。私の名前は昼島明日井ひるしま あすい、能力は爆発よ。名前の通りこんな感じに爆発させられる」


 明日井はそう言うと、指を望遠鏡代わりに覗き込むと、目線の先の遠くの岩を爆発させた。


「武器とかは使わない派よ、だって無粋だもの、アンタ達みたいに返り血を浴びる趣味も無いし」


 ふむ、威力はかなり高い、射程距離も申し分ないな……新顔だからって力を疑ってたが実力は高いようだな、こら将来有望だな。


 どうやらこの高圧的な態度は自身の能力から来てるらしいな、高い実力を持つが故に驕って失敗するタイプだ、どの界隈でもよく見る典型例だわさ。


「研究の装置をワープ装置から出し終わりました。こっちはもう準備完了です。ではそろそろ三田さんのところへ行きましょう」

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