第15話 ~ダンジョンに閉じ込められちゃった~

「どうしよう。閉じ込められた……」


 さっきまであったゲートは無くなり、代わりにその場所には灰色の壁がある。


 もしかして私、ダンジョンから出られなくなった?そんな話聞いたことがない、まさか最近多いって言われているイレギュラーなのかも、とりあえずむやみに動くのは良くない、けどこのままじっとしてても何も解決しない……。


 そうだ、きっとダンジョンには私以外の誰かがいるはず、もしかしたらダメ元で他の人を探した方が良いのかも……ここら辺の魔物達なら私の短剣でも倒せる、油断さえしなければきっと大丈夫。


 !


「ふぅ、このくらいで十分だな。おい陸史ろくし!こっちはもう終わったぞ!」


 今日も任務である魔石集めを終わらせ、魔石でパンパンになった袋を背に担ぎ、一緒に任務をこなしている陸史にその旨を伝えると、奥の方で剣の鍔迫り合いの音が聞こえてきているのに気が付いた。


 もしかして陸史の奴このダンジョンの魔物ごときに苦戦しているのか?仮にもベテラン探索者名乗ってんだから、初心者推奨のダンジョンくらいで苦戦してんじゃねぇよ、しっかりしてくれよな……しょうがねぇ、助けに行ってやるか。


「おい陸史!てめぇこんなダンジョンの魔物程度に苦戦し……やが……って、おい陸史!大丈夫か!?」


 いつの間にか止んだ鍔迫り合いの音の下へ向かうと、そこには一人で血だらけで地面に倒れた陸史がいるだけだった。


「なにがあった?」


「き、気を、付けろ……男が、探索者、狩り……が」


「クッ!」


 陸史の探索者狩りという言葉を聞いて、無性に背中側から違和感を感じ、その方向に剣を抜きながら振り向くが、そこには誰もいなかった。


 陸史は既に息絶え、そこには俺の息遣いと木の葉の揺れる音だけが残った。


 少しの静寂のあと、振り向いた先の茂みの向こうから枝の折れる乾いた音が響いた。


「そこだ!」


 俺はもう片方の手を使い、腰に下げてあったナイフをその茂みに向かって投げたが、誰もいなかったようで素早く避ける音や悲鳴などは一切聞こえなかった。


 もう逃げたのか?それだったらなにか走り去る音や、茂みを掻き分ける音が聞こえるはずだ。


 探索者狩りに遭遇するとは運が悪い、だがなぜこんなダンジョンでやるんだ?ここは初心者推奨ダンジョンだぞ、ここで狩りをしても旨味なんてのはほとんど無いはずだが、いや異常者ってのは人を殺せるだけで旨味を感じるもんなのかもしれない……なんにしろ、俺は今随分とマズい状況にいるってわけだ。


 他に仲間はいない、そしてここからダンジョンの出口までは軽く見積もって20分程度掛かる、相手が遠距離武器を持っていた場合かなり厄介だが、未だ俺に対しての攻撃は無い、ということは少し楽観的だが、相手は遠距離武器を持っていない、ならば俺を攻撃する為に近付かなければならないはず、俺の纏った鎧は魔獣の牙をも防げる、油断をしなければ勝てる。


 そしてしばらくの膠着状態のあと、俺は痺れを切らして大声で叫ぶ。


「おい腰抜け!さっさと出てこい!めんどくせぇんだよこの膠着状態がよぉ!」


 !


「―――抜け!―――――てこい!―――――――――――――――がよぉ!」


 今遠くから誰かの声が聞こえた!なにを言っているかまでは正確に聞き取れなかったけれど、このダンジョンにまだ他の人がいて良かった……無理してでも入り口からここまで歩いて来て正解だったな、あぁ本当に早く帰りたい、きっと美瑠も心配してるだろうな。


 !


 これでも出てこないか、とことんめんどくせぇ野郎だ……このまま警戒するのも手としては悪くない、だがかなり集中力が欲しいしなにより疲れる。


 相手はどう来ようとしてるんだ?それさえわかっちまえばこっちのもんなんだが、如何せんなんのアクションもねぇ…………ん、来た!


 茂みを掻き分けて出てきたその影に、俺は大きく振りかぶり斬り掛かった。


「陸史のかたきィ!」


「ひっ!」


 くそ、間一髪で防いで距離を取られた……しかし陸史をった奴が女だっ、た…………ん、女?そういえば陸史の奴死に際に男って言ってたな……もしかしなくともコイツじゃねぇんじゃね?


「す、すまん……人違いだったかもしれねぇ」


「近づかないで!」


 マズい、すげぇ警戒してる……まぁそうだよな、いきなり斬り掛かられたんだ警戒もする。


 だが、こんなことしてる場合じゃねぇ、探索者狩りがまだここらに潜んでいるかもしれねぇ……早く誤解を解いて状況を説明しねぇと。


「ほんとにすまねぇ、だが今はこんなことしてる場合じゃねぇ。俺の後ろにある死体、アイツは探索者狩りにやられた俺の仲間だ!」


「探索者狩り?」


「探索者狩りってのは、えー探索者を殺す探索者だ!とにかく俺達はそれに遭遇しちまった」


「その探索者狩りってのはどこに行ったの?」


「それが分からねぇんだ。いくら待ったって襲ってこねぇし、そもそも姿も見えねぇ」


「本当に襲われたの?」


「あぁ、この陸史って言うんだが、最初にその陸史が誰かと戦ってる音が聞こえて来て、てっきり俺はここらの魔物に苦戦しているのか?と思って、それをバカにしようと様子を見に行ったら既に血ィ流して倒れていやがった。そしたら陸史が探索者狩りにやられたって言ったんだ。死ぬ間際にくだらねぇ嘘つく理由がねぇ、本当に陸史は探索者狩りに襲われたんだろう」


「分かった。でもまだ近付かないで、アナタが探索者狩りで、陸史って人を殺したことを隠そうとしている可能性があるわ」


「まぁ今はそれで良い、とりあえず周り警戒しねぇと」


「確かに探索者狩りは危険だよね……でも今はそんなことしている場合じゃないかも」


「……どういうことだ?」


「実はね、ダンジョンのゲートが閉じたの……」


「は?こんな時になに冗談言ってやがる、ダンジョンのゲートが閉じただぁ?」


 意味が分からねぇ、そんな現象聞いたことねぇぞ?これもイレギュラーって奴なのか?ちくしょう、ただでさえ探索者狩りがいてヤバイってのに、ゲートまで閉じられちゃどうしようもねぇじゃねぇか。


「それは本当だろうなぁ?」


「本当だよ、だから他の人を探してたの」


「めんどくさいことになってきやがったなぁ」


「それと探索者狩りはもう攻撃を仕掛ける気がないのかも」


「どういうことだ?」


「アナタが一人の間、探索者狩りが攻撃を仕掛けてこなかったってことは、それほど慎重な人なのかも、それで私も来た。そうしたら更に攻撃を仕掛けづらくなると思わない?」


 なるほど、この女の言っている通り陸史を見つけて動揺している俺を狩れば楽なはずなのに、それをしてこなかったってことはそういうことだよな……それに陸史と鍔迫り合いをしていたということは隠密で瞬殺という択が取れないってことだ。


 つまり探索者狩りはそういう系統のすべは持っていないって訳だ、それを考慮に入れるなら、優先順位は必然的にダンジョンから出るってことになる。


 陸史とは個人的な付き合いはほとんどなかったが、魔石の採集においてあいつほど頼りになる奴はいなかった……だがかたきを取ったとしてダンジョンから出られなけりゃ意味がねぇ、やはりここは陸史を担ぎ入口へ行って、女の言っていることが本当のことなのか確かめに行った方が良いな。


「仕方ねぇ、まずは陸史をダンジョンの入り口まで運ぶ」


「分かった。なにか手伝えることはない?」


「いや良い、俺が担いで行く。ところでお前名前は?」


「任せたよ。私の名前は志穂、アナタは?」


「龍二だ、能力は強固だ。名前の通り身体を固められる、まぁその間動けなくなるがな」


「私の能力は圧縮、こっちも文字通り。個人的な事情で生物に対しては使えないけどね、詮索はしないで欲しいな」


 圧縮か、ただ生物に対して使えないとなるとあまり役に立たないか?だが俺のほぼ不意打ちの一撃を剣で防いで距離を取った、剣の実力はかなり上かもな。


 まぁ戦闘役に立つかどうかってのは考えるだけ無駄か、それに俺の能力も戦闘で役に立つかっていやぁそうじゃねぇ、やはり頼れるのは己の身体のみよぉ。


 !


 ふぅ、一時はどうなるかと思った……いきなり斬り掛かられた時は咄嗟に身体が動いたけど、あれを防げてなかったらって思うと……まだ手の痺れが収まらない。


 そのあとすぐ謝ってくれたけど、ぶっちゃけ私はまだ信用できてない、龍二が嘘をついているかもしれないし、あと探索者狩りも怖い……まったく、私の初ダンジョンがこんなことになるとはなぁ。


 ダンジョンが閉じるわ、探索者狩りが現れるわで本当に最悪だよ。


「はぁ」


「どうした?疲れたのか?」


「なんでもない。あ、それより見えて来たよ」


「マジかよ、本当にゲートがただの壁になっていやがる……!」


 龍二は陸史をゲート付近に横たわらせて、灰色になったゲートを触ったり後ろに回り込んだりして確認したあと、私の方に歩いて来た。


「すまん、俺志穂のこと疑ってたわ」


「まぁ普通疑うよね、私だっていきなりゲートがただの灰色の壁になった時は、自分の目を疑ったもん。で、これからどうしようか……」


「え!?なんですかこれ!?」


「え、ウケんだけど!ゲートまっ灰色はいろじゃん!」


 すると私達が来た方向から、男が二人歩いて来て、灰色になったゲートを見て黒髪で右目に黒い眼帯をした白フードの男の方は驚き、緑髪の少し大人っぽい雰囲気でコートを羽織り緑色のピアスを開けた男の方は笑っていた。


「おっとと、怖いじゃんいきなり刀向けて来てさ」


 どうやら龍二は二人を警戒しているっぽくて、咄嗟に剣を構えていた。


 そりゃそうだよね、この二人のどちらか、あるいは両方が探索者狩りでかたきかもしれないんだから。


「アンタコイツと友達なんだろ?止めてくれよぉ」


「私は森で龍二とたまたま会っただけ、確かに警戒する気持ちも分かるけど、いきなり刀向けるのは良くないよ」


「ちッ……しゃあねぇ」


 龍二は刀を収めたけど、まだ警戒している、私も警戒しといた方が良いかも。


「ひィ!し、死体……」


「あぁ、アイツは陸史だ。安心しろ、俺達がやったわけじゃねぇ……探索者狩りにやられた」


「……探索者狩り、それはお悔やみ申し上げます」


「うっわ、マジで壁じゃん!」


「アイツのことは気にしないでください、礼儀はないですが良い奴なので……僕の名前は邓 俊杰ダン ジュンジエです。あっちのは牛 睿ニウ ルイです」


「中国んとこか、俺の友達にもいたなぁ。最近流行りなのか?よく聞くが」


「僕達二人は日本育ちですけどね、まぁダンジョンは稼げますし、日本なら中国からすぐ行けますしね。DPを金に換えるのは少し面倒ですけど」


「私の名前は~苗字とか言った方が良いかな……内田志穂って名前だよ」


 確かに龍二の言う通り、ダンジョンが発生してからいろんな国から日本へ移住してくる人が増えたらしい、やっぱりみんなお金欲しいんだ。


「俺の名前は信崎しんざき龍二だ。二人とも怪しい動きを見せるな」


「落ち着いてください、確かに僕達二人が探索者狩りじゃないという証拠はありません。ですが、信じてください、証明になるか分かりませんがこの目の傷は昔探索者狩りに襲われたときに出来た傷です」


 そう言って俊杰は眼帯を外し、ぽっかりと開いた目を見せてくれた。


「確かに証明にはならんが、まぁなんかすまん……とりあえずまだ信用できない」


「警戒を緩めてくれてありがとうございます。睿!あまり遠くに行かないでくれないか?」


「わぁーったよ。しっかしなんだこれ!俺達どうなっちゃうんだろ。このまんま死ぬ……とか?めっちゃウケる!」


「この状況、全くウケませんよ……はぁ、まぁ常時このペースなのでご了承ください……」


「俊杰君苦労してるねぇ……」

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