第12話 ~魔剣を取りに行きます~

「もしもし。美瑠です」


「お~美瑠てゃん!オーガの魔剣出来たよ~ん!取りに来てちょ!」


 どうやらあの騒がしいチャラ男鍛冶師によると、オーガの魔剣が過去最高クオリティで完成したとかなんとかと電話が来たので、特にやることも無いから今から向かう所だ。


 それにしても私の住んでいる家からその鍛冶屋までは結構遠いので昔の自分だったら絶対に後回しにするところだが、ダンジョンに通ったりしてるおかげかそこら辺のフットワークが軽くなった気がする。


「美瑠、どこかに行くのか?」


「うん、ちょっと魔鉱鍛冶屋まで」


「そんなコンビニ感覚で行くところか?」


「私が依頼したオーガの魔剣が出来たらしくてね」


「俺の孫はいつの間にそんな物騒なモノを手に入れようとしてたんだ」


「せっかく魔石手に入れたんだから使わなきゃ損でしょ」


「まぁ良い、俺もダンジョン地区に用事があったんだ。ついでに送っててやるよ」


「ほんと?ならお願い」


 おばあちゃんと丁度用事が噛み合ったので送っててもらうことにした私は、玄関でおばあちゃんの支度が終わるまで待っている。


 私が今から行くダンジョン地区とは、主にダンジョンに関係する施設、例えばダンジョン協会とか私が用事のある魔鉱鍛冶屋などが並んでいる。


 ダンジョン協会はDPなどの取引を行う場所、それと協会から出される依頼を受けれる場所でもある。


 協会から出される依頼はさまざまで、討伐任務や採掘任務、探索者の救難信号や捜索などの依頼が受けられる。


 それぞれにDPの相場が決まっていて、命の危険や人命救助に関わる依頼は報酬が高く、それによって多少の危険度があっても依頼を受ける人が一定数存在する理由になっている。


 県ごとに設置されているダンジョン協会は、警察署などにあるダンジョン課とは違い、DPに関係するモノが多くダンジョンの入場の許可などは取れないので注意が必要だ。


「よっしゃ!しゅっぱ~つ」


 !


「そういえばおばあちゃんは走った方が車で移動するより速いと思うんだけど、何で車使ってるの?」


「あ~ん、そうだな。大抵は孫の送迎だな、それとたまに景色を楽しみたくてドライブ目的で使ってる。走ってる最中も景色は見れるが、どうしても走ってる時に横見るとどっかにぶつかる可能性が出て来るからな、やっぱ景色を楽しむ時は車に乗って優雅にってのが鉄則よ」


「まぁ確かに優雅は大事だよね」


「そうそう、何事も優雅が大事……ちっ、前の車早く行けよ!」


 優雅さはどこに行ったのか……おばあちゃんもハンドル握ったら性格変わるタイプなんだよねぇ、まぁ普段もこんな感じだけども。


 そこからおばあちゃんと会話していると、ダンジョン地区が見えてきた。


「おう、俺だ。通してくれ、横のは孫だ」


 おばあちゃんがダンジョン地区を囲む門番に対して、車の窓を開けて乗り出しそう言うと、門番はまたか……みたいな顔で門を開ける。


 おばあちゃんはダンジョン界隈ではよく知られてる人で、ダンジョン協会の依頼をかなりの数こなしてきているので、会員カードは最上位のパープルである。


 ちなみに協会の会員カードは下からホワイト・グレー・ブラック・パープルで、なぜ最上位がパープルなのかというと、魔のイメージがパープルだったかららしいが真偽のほどは不明である。


 探索者であればだれでも会員カードは持っていて、私は数体イレギュラーを倒しているので、もう既にグレーだ。


 会員カードの位でダンジョン地区でやれることは変わり、詳しいことは省くがとりあえず上に上がれば上がるほど色々できることが増える。


「じゃ、俺はダンジョン協会に呼び出し喰らってるから行くわ。くれぐれも詐欺に遭うなよ~」


「分かったありがとー!」


 私はダンジョン地区の駐車場でおばあちゃんと別れて、魔鉱鍛冶屋に出来た武器を取りに向かう。


 途中並ぶ店に目を惹かれながらも、とりあえずは魔剣を取りに行くことにしてどんどん奥へと進んで行くと、鍛冶屋が見えてきた。


「こんにちは美瑠です」


「うん、お!美瑠てゃんじゃん!待ってたよ~寂しかったよ~」


「魔剣はどこですか?」


「つんめた!美瑠てゃんつんめた!出身は北か南どっちですか~なんちゃって」


 前回このチャラ男のノリに少し乗ったのが行けなかったのか、かなり距離を詰めてきた様子だけど、それを無視して完成品を求めると、チャラ男が店の奥に引っ込み少し経った後、一振の魔剣を持って来た。


「いや~我ながら素晴らしい作品ができたよ~はいこれ魔剣」


 見た目は西洋風の剣で、私のよりも少し大きい感じの魔剣だ。


「おぉ、注文通りですね」


「でも美瑠てゃんさ~身体に合ってないんじゃない?流石に大きいんじゃない?」


「大丈夫ですよ。私の能力を使えば重さはそこまで関係無いですから」


「えーと美瑠てゃんってなんの能力使えんの?」


「浮遊と重力です。あと美瑠てゃん止めてもらえますか」


「二つ持ちか!確かにそれならこのデザインの注文も納得納得納豆食うだね~」


「こちらお代です」


「無視ですかそうですか……うん、丁度だね~」


「ではありがとうございました」


「世間話とかは無い感じ?」


「私は魔剣を取りに来ただけなので」


「こっからは有料かぁ~」


 これ以上付き合ってると本格的にめんどくさくなってくるので、話そこそこにその店から出た私は、おばあちゃんを探す為にダンジョン協会へ足を運ぶことにした。


 確かあのタワーみたいなのがそうだったよね、無駄に目立つからわかりやすくて良良いな。


 !


 ダンジョン協会に入ると、受付でおばあちゃんが話していた。


 邪魔をしちゃマズいかなと思い、受付横の椅子に座って待つことにした私は、ダンジョン協会の中を見渡す。


 左に取引の受付、真ん中が依頼の受付、右がエレベーターやトイレなどがあり、一見普通の市役所みたいな感じの雰囲気があるが、建物の中にいる人が剣を持ってたり鎧を着たりしていて、この厳かな雰囲気としては完全に異質で、おかしな空気感を生み出していた。


 一見ここはコスプレ会場かと思うが、みんな真剣な表情をしていて、そのギャップが少し笑える。


「じゃあ依頼よろしくお願いします」


「今回もちゃっちゃと終わらせてくるわ」


「おばあちゃん終わった?」


「お、そっちの用ももう終わったのか」


「まぁ受け取るだけだし」


「こっちも受けるだけだ。うっし帰るか、帰りなんか寄ってくか?」


 受けるだけって、普通の探索者はそんなにすぐ依頼を受けれないっての、やっぱり一定の信用が無いと、色々な手続きが必要なのだが、おばあちゃんは信用十分なのか、依頼を受けたいなと思ったらすぐに受けれるのだ。


 う~ん寄ってって欲しいところか、そういえばゲームのコラボがあるんだった。


「じゃコンビニ寄って」


「また課金か?ほどほどにしとけよ~」


「自分のお金なんだからいいじゃん」


「ま、そっか。じゃ帰るぞ~」

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