第9話 ~やはり私の望んだほのぼのは遠いようです~

「んはぁ~!やっぱり川の流れる音と木々の優しい匂い最高!」


 ”開放的……!”

 ”なんかキャラ変わった?”

 ”自然豊かで良いですねぇ~”


「今まで遺跡とか洞窟系ばっかりやっててさぁ~最近も夕日が綺麗なダンジョンに行ったけど、散々な目にあってたからさぁ~こうやって平和に森を歩いてるとついついね。あと自然の匂いのせいかな、なんか安らぐっていうか気分が軽い」


 ”あれは嫌な事件だったね”

 ”歩いてる(浮遊)”

 ”荷物は小物程度だけど自分も浮かしながらじゃきつくない?”


「浮かしながらじゃ……いや、別に。むしろ歩いてる方が疲れるし極力浮かしてた方が靴の裏とかに、あと荷物とかに汚れ付かないしさ、ほらここら辺ぬかるんでるし」


 ”魔物いた時とかに魔力欲しくない?”

 ”浮遊って燃費悪いって言うよね”

 ”ぬかるみにはまると気分悪くなる”


「燃費悪い……まぁ確かに、一日中浮かびながらそこら辺で寝てたいってのはあるけど、持つのは半日程度なんだよね」


 ”浮かびながら寝たいのはわかるハンモック的なね”

 ”ダンジョン課が出してる能力解説動画だと浮遊の持続時間って長くても1時間程度じゃなかったっけ?”

 ”浮遊便利そう”

 ”能力良いな~”


「1時間程度なんだ。まぁ私なんか魔力総量多いらしいよ。浮遊はね便利だよ~」


 最低限整備されているデコボコ山道の歩きにくさを全て無視して、更にダンジョンの奥に進んで行くと、目の前に現れたのはでっかいナメクジだった。


「こういうの結構苦手かも」


 ”くそきも”

 ”食事中だぞ!”

 ”うわああああああ”


 ナメクジはこちらに気付くと、身体をブルブルと震わせて黄色の胞子?を噴射して来た。


「うわっなにあれ?」


 ”なんか出た~~!!”

 ”色的に痺れそー”


「とりあえず吸ったら不味そうだよね」


 私はとりあえず重力を使い、胞子の大群を地面近くに滞留させて凌ぐが、ナメクジまで重力が届いてなさそうなのと、胞子が肌に当たってもダメかもしれないから、仕切り直す為に少し距離を取って様子を見る。


「あれどうやって倒す~?」


 ”この前ここじゃなかったけどD猫も戦ってたな”

 ”あの胞子痺れるから気を付けて!”

 ”オーガちゃんがんばえ~~!”


「ん?胞子が消えてく……チャンスか?」


 私は再度胞子を吐き出そうと、身体を震わせるナメクジに颯爽と近付き、剣ではなくナメクジの射程圏内に入った重力を横から飛ばしてナメクジを崖の下に落とした。


 ”ナメクジーーー!!”

 ”水没エンドは復活フラグ―――”

 ”吹っ飛んだ!?”

 ”浮遊TUEEEEE”


「あぁ、後々ややこしくなりそうだから言っておくけど、今のは浮遊じゃなくて重力っていう能力だよ。多分……」


 ”なんか違うの?”

 ”二つ持ちなのね”

 ”重力ってことは周囲を一気に浮かしたりできるの?”

 ”多分?”


「えーと、重力っていうよりか、見えない質量を上下左右立体的?に押し付けるみたいな?そんな感じだからなにかを浮かせたりするのは、全部浮遊が担ってるよ。多分って言ったのは他の人が持ってる重力と、私が使ってる重力はちょっと違うってことだからそう言っただけだよ」


 実際私がこの能力を試してみて思ったのは、重力と言うよりか空気って感じってことと、他にも重力という能力を持っているDtuberがいるのでその人の動画を見てみると、周辺全てを浮かすという能力なので、そもそも私の能力がアイツが重力と自称していただけなのかも、それか重力にもいろいろな種類があるのかもしれない。


 ”能力二つ持ってるの凄くね!?”

 ”どっちもそういう系だったのか、てっきり攻撃系かと思ってたんだけど”

 ”裏山”


「私が調べた限りだと別に二つ持ちは珍しくないらしいよ。大抵の探索者は他に効果が薄い能力を併発して覚醒するらしいし」


 私は配信のコメント欄を読み、それを極力返しながら移動し続けていると、やっと目的地の渓流に辿り着いた。


「やっと辿り着いた~ここが今日釣りをする渓流です」


 ”うおおお!!”

 ”渓流キターーー!”

 ”滝の飛沫しぶきエグ!?”


「いやーすっごい滝の音ですねー!」


 ”遠目からも聞こえて来てたけど近くまで来ると音エグイ!”

 ”なんかここの渓流すげえ深くね!?”

 ”岩ごろっごろしてるな”


「なんか小さい頃に行った渓流とはなんか違いますね。ていうか化け物みたいな魚がぷかーって浮いてない?死んでるんじゃないのこれ」


 ”確実に死んでるな”

 ”こんな光景初めて見たわ”

 ”くさそう”


 私が渓流に辿り着いた時には、もう既に魚が水面に腹を向けて浮いていて、その異様な光景にはびっくりしたけれど、水の色をよく見てみるとそれは紫色に変化していた。


「水の色変じゃない?」


 ”確かに”

 ”毒でも流されたか?”

 ”気味悪いな”

 ”水に近付かない方が良いんじゃ?”


「うーん……もしかしてあの滝の上に犯人がいるんじゃないかな。このままじゃ私のほのぼのライフが……上にいるなにかは許し難いですね。滝の上に続く道があるかもしれないので探してみようと思います」


 私が目指したほのぼのライフはそこにはなく、それを汚したものが上にいるはず……やっと平和が訪れたかと思ったら、今度は川に毒を流す何かがいるとは、我ながら運が悪い、まぁまだなにかがいると確定したわけじゃないけど、このままだと将来のダンジョン内の生態系に関わるかもしれないので、その原因を探りに行くことにした。


「私の気に入った景色を汚そうとする輩は許さない!」


 ”オーガちゃん騎士モードや!”

 ”自然騎士オーガちゃんがんばえーー”

 ”危なくない?”

 ”イレギュラーかもな”


 剣を片手に滝の横にある獣道じみた山道を登って行くと、そこには先程とは比べ物にならないくらいのナメクジがそこにいて、流れる激流に浸かり紫色の液体を垂れ流していた。


「で、でけー!」


 ”でけー!”

 ”ナメクジパート2”

 ”こんな大きさのナメクジなんて初めて見た”

 ”確実にイレギュラーやん”


 2階ある建物くらいの大きさのほぼ一軒家なナメクジは、私に気付いたのか身体をゆっくり動かしこちらに近付いて来た。


「私優先ですかそうですか!」


 近付くナメクジに対して重力を前に押して進行を止めようとするが、ナメクジに質量負けしているせいで、それはどんどんこちらへ足?を進めている。


「毒ガスのせいで近づけない……これは一旦逃げます」


 ナメクジの遅さを利用して浮遊して逃げる私に、ナメクジは毒ガスで作られたと思われる手で追いかける。


「追い掛けて来るなーー!」


 一瞬後ろを振り向き重力でその手を抑え込もうとするが無駄で、そのまま追ってくる手だが、スピードは私の方が勝ってるのでまだ追い付かれてはいない。


 だけど、このまま逃げ続けても埒が明かないし、私の進行方向に他に人がいたら大変だ。


「やっぱりここで倒すしかないのかな?」


 ”無理無理逃げてー!”

 ”他の探索者も逃げてー!”


 コメントは私が逃げるように促すが、やはりこのまま放っておいて他の探索者がやられるのは見ていられないので、ナメクジの下へ戻ることにした。


 どうやったら勝てるかは分からないけど、毒がダンジョン中に充満するのは避けられるはず。


「毒の手はお終い?」


 どうやら手を顕現させるほどの毒の量は、流石に生み出した自分にも返って来るのか、それとも接近戦では小回りが利かないのか、ナメクジは毒の手を消しこちらに滲み寄り始めた。


 それでも身体から染み出る毒は止まらないのか、滴り落ちるそれは周囲の草木を枯らす。


 私を狙いに来るなら誘導は可能と言うことなので、できるだけ崖に寄せる。


 作戦はこうだ、まず私が崖近くにナメクジを誘導して、浮遊を使い崖から飛び降りながらナメクジを重力で後ろから全力で押すというものだ。


「完全に賭けだけど、進行は遅らせれるはず。それにナメクジとてその身体の大きさじゃ落下後に自重でぐしゃぐしゃになるでしょう?」


 崖に近付いた私はそうナメクジに言い、先程の作戦を遂行する為に飛び降りる。


 そして浮遊を使うとゆっくりと落下を始める身体、そして勢い良く重力をナメクジに使い突き落とす。


 自分の身体から染み出るぬめりで滑ったのか、それに重力を使うといとも簡単に崖下に突き落とすことができた。


「よし!」


 ”うおああああ!”

 ”うまい!”

 ”一瞬ヒヤッとした”

 ”や、やったか!?”


 ナメクジは空中で抵抗したが、ダメ押しで私が上から重力を掛けたことによって、勢い良く地面に激突してそれはダンジョンに地震を起こしながら液状になった。


 私は浮遊でフワフワと空中旅行を楽しんだ後、地面に着地してナメクジに近付いた。


「今のでやられてるといいけど」


 どうやら完全に息絶えたようで、ピクリとも動くことはなかった。


 このダンジョンに平和は訪れたけど、川の魚はナメクジの毒によって全滅していたので、配信はお開きとなった。


「えー当初の目的とは違い、まともな釣りもできずに終わってしまったのですが、楽しかったでしょうか?森のお散歩配信とナメクジ討伐配信を見てくれてありがとうございました!」


 ”乙!結構ほのぼのした感じかと思ったら、最後の最後でボス戦wwww”

 ”イレギュラーってほんまごみやなお疲れさん”

 ”オーガちゃんが無事でよかったおつカレー!”

 ”報告めんどくさそうお疲れ”

 ”おつー”

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