第8話 ~ダンジョンの魚は軒並み美味しいそうです~
あのコラボ配信のあと、配信の切り抜きが乱立していて、その内容は主に私の奇行シーンが多かった。
それを見ると無性に自分を殴りたくなってくるので、しばらくはDtubeを観るのを止めていた。
「いや~まさかこんなに有名になってるとは」
「こんな形で有名になるつもりじゃなかったのに」
「有名になるつもりではいたんだ……」
それから数日後、志穂から連絡が来て集まることになったので、久しぶりにいろいろ話そうと思って集合場所のカフェに行くと、その会話の内容はほとんど私の配信の話だった。
「ねぇ、もうその話止めようよ……」
「えーいいじゃん、美瑠は本当に控えめなんだから」
「控えめっていうか、なんか恥ずかしいんだよね」
「なんで?有名になったんだから、もっと自慢しても良いと思うけどなぁ」
「いや、有名ってのはなんか違うかな。まだ多分私のチャンネルに定着している人ってほとんどいないと思うんだよね。だからたまたまというか……」
「まー確かにね。なら定着させないと!私なんかと話してる場合じゃないよ、定着させるには沢山配信しなきゃ!」
美穂の言う通り、私の配信に人を定着させるには、怯んでないでどんどん配信をしていかなきゃいけないのだが、やはりどんな配信をしたら視聴者が見てくれるかっていうのが、まだ配信初心者だからよく解っていないんだよね。
「はぁ……一体なんの配信をしたらいいのかな~」
「う~ん、私は配信してないからよくわかんないけど、なんか趣味とか?配信してみれば良いんじゃないかな。ダンジョンって海とか川とかがあるんでしょ?あんたの古臭い釣りっていう趣味を配信してみれば良いんじゃない?意外とウケるかもよ」
「古臭いって……まぁ確かにダンジョン内でクッキングしたり、魔物相手にダンス教室開いたり、映画撮ったりしてる人達はいるけど……そうだね、最近釣りをする機会も無かったし、模索するってことでやってみても良いかもね」
私は小さい頃からお父さんの影響で釣りが好きだった。
休日はもっぱら渓流とかに連れてってもらってたが、あの事件のあとはほとんど釣りに行ってない、けどいつかはまたやりたいなと思っていたので、今がそのやり時なのではないかと思った私は、早速渓流があるダンジョンを調べるのだった。
と言ってもそこまで本格的にやったことなく、夏のレジャー感覚で釣りをしていただけなので、渓流釣りをする際の装備なんてほとんど持っていなかったから、何を買えば良いか悩んでいたが、試しにDshop(DPで取引できる探索者専用のネット通販)などを覗いてみると、魔物用の釣りセットなどが売っていた。
セットの内容は『魔物用釣り竿』『ウェイダー』『シューズ』『ベスト』『バックパック』などの基本装備は勿論、その他にも色々な小物がセットになっていた。
このセットの一番の目玉は魔物用釣り竿で、他は普通の通販サイトで買えそうな感じだったが、その釣り竿だけ単品価格がとても高くて、魔物用と題しているだけあって釣り糸は魔糸が使われているらしく、それが値段をつり上げてる原因だと思う。
確かに他の装備にも、魔物の素材やそれを縫い合わせるために魔糸が使われているけど、使われている素材は低級~中級にいる魔物のモノなので、単一価格は結構安めだった。
というのも、ほとんどの探索者が魔物の素材の取り扱い方を知らず、換金するかそれでなにか装備を作れないかと
魔物の素材は未だにまだ解っていない部分が多いが、ほとんどの素材はその魔物が生来用いる能力や耐性、特異性が引き継がれているので、それを活用する手はないとなって、一時期は魔物産業が流行していたが、ダンジョンに潜らない層には刺さらなかったのと、命のやり取りの場は装飾性を必要としないので、シンプルな物だけが残っていったため、作成者側のモチベなどが低下して次第に下火となっていった。
今ではシンプルな高機能性やそれを大量に作れる会社や、たまにダンジョンでも装飾性を求めている探索者や、デザイン性の高い装備を趣味で作っている人だけが残っている。
そういえばダンジョンに生息してる一部の魔物はすごく美味しくて、ダンジョン外にも店を開いてる人が沢山いる。
!
「こんにちは、フワフワダンジョン攻略チャンネルのオーガちゃんことミール貝です!」
”待ってた”
”その名前気に入ってるじゃん”
”なんか装備変えた?”
”釣りじゃーー^^!”
”釣り配信と聞いて”
”前の方が良かった”
”相変わらずチャンネル名長いwwww”
私は今までの経験則として、何事も勢いと思い付きの鮮度が大事だということを学習したので、釣りの装備を買ってから2日後くらいに、配信告知用に作ったTyowiterアカウントに配信のURLを載せて、釣り配信と題してここ白滝ダンジョンに来ていた。
「今日は、配信タイトルにも書いてあるように、私の趣味である釣りの配信をしたいと思います!」
やはり配信はどこかテンションが上がるなぁ。
”趣味が渋い”
”チャンネル名どころか趣味もおっさんかよ”
”最近は若者の間でも釣り流行ってますよ”
”いえーーーい!”
「私は釣りを趣味にしていますが、そこまで詳しくないのでご了承ください」
”たまーに喋り方固いよね”
”記念すべき3回目の配信と聞いて”
”ゆるーくいこー!”
”何の釣りするの?”
「えーと、今日はこのダンジョンで渓流釣りをしていきたいと思います!そのためにいろいろと装備を買ったのですが、そこら辺は専門チャンネルじゃないので、割愛させていただきます」
私は道具一式を装備して、ダンジョンの奥へ向かって行った。
このダンジョンでは水系の魔物が多く生息していて、勿論水の外にも魔物はいるけど、大抵は川の中の魔物が注目されがちである。
というのも、水の中での競争が激しいので、その魔物たちはその分強くなるのだが、地上は平和そのもので、自由に生えた草木や独自の果物が豊富なので争う必要が無く、ダンジョンの魔物の中では比較的大人しいものばかりなので、そもそも注意を払う必要がそこまで無いのというのも合わさって、水辺にばかり注目されてしまっているのだ。
だから、道中の魔物を心配することなく、堂々と釣り専用の装備で歩けるというのわけだ。
でもそれが通用するのは低級~中級のダンジョンくらいで、上級になってくると水辺を飛ぶ大きな魔鳥や、川に触手を伸ばして幻覚作用を持つ液体を流して、魚などの魔物を陸に上がらせ窒息死させる方法で狩りをしたりする植物もいて、地上と水辺ともに油断ならない高難易度ダンジョンになっている。
”のどかだねぇ”
”オーガちゃん戦わないの?”
”なにしてんの~?”
「えーと、そろそろ釣り場に着きます!そこでこの釣り竿でたっくさん釣ります!焼きます!食べます!」
”おー!飯テロやん”
”白米用意した”
”原始的だ……”
そうしてまた突発的に配信を始めた私は、ダンジョンの奥にある渓流を目指すのだった。
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