第3話 ~ダンジョン探索には危険が付き物です~

 いかにダンジョン配信業がまだまだ黎明期だとしても、やはり既にそれで人気になっている人間は全世界にたくさんいた。


 その中でも、全世界の高難易度ダンジョンを単独でクリアすることを目指している『チェリブロ(ソロ攻略)』というチャンネル名の配信者が人気である。


 彼は目指す目標から読み取れる通り、かなり強い配信者で、私が通ってた慶世村のダンジョン程度であったら、全30階層のモンスターを入口から全て倒すことができる。


 主に使用している武器は、ホーミングする魔力弾を撃てるミニガンで、それを使って入口からダンジョン内の魔物を倒すという芸当ができるが、それは低難易度のダンジョンでだけ、チェリブロが攻略を目指す高難易度ダンジョンでは、ほとんどの魔物がそれを弾き飛ばすかして避けられるのだ。


 そんな彼もいくつかの高難易度ダンジョンをクリアしていて、それなりに強さも保証されてるから安心感もあるのだろう、同時接続者数同接の数が平均3万で、ダンジョン配信としてはかなりの数の人に見られている、というのもダンジョン配信は過酷なもので、魔物側も死に物狂いで戦っているので、たまに配信者が配信中に魔物に殺されてしまうということもある。


 そんな事件が起こると、ニュースでは連日規制を求める声などが上がっているが、国側がダンジョン関係の仕事を推しているのと、単純にダンジョンは儲かるのだ。


 以前ダンジョンの素材は専用のポイントに換金されるという話をしたが、もちろんそのポイントから現金に変換することも可能であるが、大抵の探索者の主な収入というのが、企業からの依頼などである。


 依頼の目的は『魔石』であり、主に魔物から取れる魔力が濃縮した石だ。


 魔石は低ランクの魔物でも、1つで1週間程度の家の電力を賄えるエネルギーがあり、高ランクにもなると、1つで1年持つ魔石も存在している。


 魔石は魔物を倒せば大小関わらず必ず手に入り、ダンジョンから生成される魔物のキリは今のところ確認されていない、なのでそんな有用なものをエネルギーとして活用しないのはもったいないということで、さまざまな国の企業が探索者に対して依頼を出している。


 そして私もそんな依頼を受けてダンジョンに来ていた。


「あ、魔石回収の依頼を受けてきました。山村です」


「おぉよく来てくれたね、早速だけど免許証見せてくれるかな?」


「はい」


 指定のダンジョンに行くと、既に3人探索者らしき人が集まっていて、ダンジョンの入り口の横に、受付と書いてある紙が貼られた長机に座っているおじいさんに話しかけて、免許証を提示した。


「美瑠ちゃんね、気をつけていってらっしゃい」


 私は自分から見ても少し子供っぽい姿をしてるので、なにか怪しまれるか止められるかするかと思っていたんだけど、そんなことはなかった。


 まぁ子供っぽいといえど、一応れっきとした探索者なので大丈夫だと思われているのだろう。


 というのも、探索者として能力が覚醒する傾向にある人たちは、生まれつき身体に含まれる魔力の量が多い人たちが大抵で、体内で保有する魔力に当てられて、普通の人よりも身体の強度や力が強くなっていて、必要であれば魔力を使い更に身体を強化できる。


 なので、探索者として覚醒した人ならば、資格を持っていれば年齢問わずにダンジョンに潜れるのだ。


 どうやら私が一番最後に来たようで、受付を完了したあと準備をして、受付のおじいさんに見送られながら、私たち4人はダンジョンに潜り始めた。


 入り口から中に入ると、そこはどこか英国の雰囲気漂う洋風なお城のような場所で、あまりの外の変わりようにビックリする。

 別にこういうダンジョンは珍しくなく、私の推しの配信でも度々このような景色は見られるが、いざ自分が体験するとここが日本にあるダンジョンとは思えないような感覚に陥る。


「そこの子!ぼーっと突っ立てないでアンタも討伐手伝って!」


 私がその景色に圧倒されていると、前線で鎧を纏った魔物と戦っているお姉さんに呼ばれる。


 ここのダンジョンは、慶世村のダンジョンとは違って、お城のような雰囲気を引き立てるかのように、衛兵風の鎧を来た魔物や骸骨の顔をした魔術師などが出てくる。


 それらに内蔵される魔石は、中級程度であり更にはその中で倒しやすい魔物ばかり出るため、このダンジョンは魔石回収の依頼で来る探索者がほとんどである。


 お姉さんに呼ばれた通り、浮遊で浮いて前方に加速し、その勢いで鎧の脇腹を切り付けると、ガギギッという音と共に鎧が剣筋に沿って切れる。


 切り付けが浅かったのかそれとも鎧が硬かったのか、胴を真っ二つにすることはできなかったけれど、それの隙をついてお姉さんが槌で兜を叩き割った。


「アンタ結構やるじゃん!てっきり収集者かと思ってたよ」


「これでも探索者なので……」


 収集者とは、魔石回収の依頼にてずっと後方にいて、他の人が倒した魔物の魔石を回収するだけの人で、主に能力が恵まれなかった人が率先してやる役回りのことである。


「ところでアンタの能力はなんだい?さっき凄いスピードで切り付けてたじゃないか!」


 ある程度魔石を収集したあとの休憩時間中、さっきのお姉さんが話しかけてきた。


「あーと……浮遊っていう能力です」


「へ~なんかすごく便利そうだな」


「まぁ便利ですよ。浮けばどこででも寝れますし」


「?浮かなくてもどこででも寝れるだろ」


「汚いじゃないですか」


「っははは!そんなしょぼい理由で能力使ってるやつなんて聞いたこともないぞ!」


「しょぼくないですよ……」


 口ではそんなことを言っているけど、自分でも能力を極める動機はしょぼいと思う、でも私にとってはそのくらいのしょぼい理由でも十分頑張れる。


「しっかし他の連中も張り切ってるせいか、魔石の量がとんでもないことになったな……こりゃ入口まで運ぶのはめんどくさいなぁ」


「私に任せてください」


 私はそういうと、次々と魔石がたくさん詰まった袋に私の魔力を纏わせる。


「おいおい、こっからどうするんだ?」


「こうするんです」


 手のひらを上に向けた状態でその手を少し上に上げると、私の魔力が付着した魔石の袋たちは一斉に浮遊した。


「「おぉ!」」


 私の能力には自身を浮かす他に、私の魔力が付着した物を浮かすことができる。


 だけどこれにはいろいろ制約もあって、魔力の減る量も自信を浮かす時よりも多く使うし、浮かせる高さも低くなって、更に浮かせる重さも限られている、それに人や魔物などの生き物は浮かせられないということだ。


 みんなが驚くのは見ていてなんだかニヤけてきちゃうけど、私は効率を重視して能力をフル活用する。


 まぁただ単に能力を使って熟練度を上げたかったのもある。


 能力による熟練度は、完全に個人の感覚的な問題なのだが、その感覚としてはやはりその能力を使う時の魔力の通りが良くなったりする。


 更にはこれが私が浮遊の熟練度を上げようとしている理由なのだが、使えば使う程その能力が成長していくということだった、それを知ったのは丁度2年前でそこから能力を積極的に使って今に至るが、今のところ成長が見えない。


「では、このまま私が魔石を入口まで運ぶので、皆さんは手元にある残りの袋を使って、引き続き魔石を採取していてください」


「わかった、助かるよ!よしお前ら、女にばっか働かせてないでちゃっちゃと手を動かせ!仕事再開だ!」


 後ろから「おー!」と掛け声のようなものが聞こえてきて、やはりあのお姉さんはあのパーティ?のリーダーなのかなと思いながら、入り口まで魔石を運んで歩いた。


「ん?嬢ちゃん1人だけ?」


 入口に着くとそこには男が1人立っていた。


「はい、もしかして魔石を回収してくれる人ですか?」


「そうだよ、じゃあ俺に渡してくれる?」


 最初は疑いなくこの人に魔石を渡そうとしたが、少し気になることがあって、それは朝テレビでやっていた、ある事件に起因する。


 ある事件とは、企業のフリをして探索者を騙し、魔石を奪い取るというモノだった。


 そしてその事件に巻き込まれた受付の人の証言によると、なんらかの能力使いでその場から動けなくなった。


 そして犯人の恰好は、今目の前に立っている人と同じ黒いパーカーだった。


「失礼ですが、免許証を見せてくれませんか」


「は?なんで」


 私はかなり用心深いと自負しているので、疑うのは失礼だけど疑わなきゃ解決しないこともある。


 免許証を見ればもし被害にあっても、名前を把握していればなにか証拠になるかもしれない、この時はそんなことを考えていた。


「あー、企業側が許可取ってるって言うから持ってくんの忘れ――」


「う、ぅう……逃げて、くださ……い」


 すると、言い訳をしている男の人の後ろのゲートから、明らかに暴行を受けた跡のあるあのおじいさんが、ゲートの中に入ってきて私にそう言って倒れた。


 その瞬間男は豹変して、倒れたおじいさんにキレた。


「くっそじじいが!ちゃんと殺しておけばよかった!」


「やっぱりアナタは!」


「バレちまったらしょうがねぇな、悪いが女だからって容赦はしねぇぜ。探索者ってだけで油断ならねぇからな」


 男はパーカのポケットから手を出すと、手のひらを私に向けた。


「まぁどんな能力だろうと、俺には敵わねぇ!」


 そして空気を前に押し出すようにして、宙に張り手を繰り出した次の瞬間、私の身体は後方に吹っ飛び、ダンジョンの壁にぶつかった。


 咄嗟のできごとで上手く魔力を纏えなかったが、無理やり背中に魔力を集めてクッションにできたため、軽い衝撃が胸に来ただけで骨は折れてなかった。


「けほっげほっ!」


「今ので生きてるたぁ頑丈さは認めよう……だが、もう骨が折れて動けないだろ!」


「くっ」


「ん?」


 私は反撃のために、周りの瓦礫に魔力を纏わせて浮かした。


 そしてそれを地面に這わせて、男に向かって飛ばす。


「あぁ、そういう系ね」


 私の能力を見てつまらなそうな顔をしたあと、男は手を下に下げる動作をする。


「え!?」


 すると、私の飛ばした瓦礫が届くことなく地面に落ち、埋まった。


「ごめんな嬢ちゃん、俺もそういう系なんだ


 地面に埋まった瓦礫を浮かそうとするが、なぜか動かせない。


 きっとアイツの能力のせいだけど、一体なに?俺もそういう系って言ってたってことは……


「重くする能力ね」


「残念ちょっと違う不正解だ……そして不正解者は退場してもらう」

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