第2話 ~ダンジョン配信には機材が必要~

 私は試験を合格して、晴れてダンジョンに潜る資格を手に入れたわけなのだが、早速ある壁にぶつかっていた。


 それは、初心者用の装備品が学生には手を出しにくいほど高いという事である。


 基本的にダンジョン内で使う機材などは、ダンジョン独自のポイントであるDP(ダンジョンポイント)で買えるのだが、初心者用、所謂いわゆる駆け出し装備のみ現金で買えるようになっているのだ。


 なぜそれだけ現金なのかと思うが理由は簡単で、ダンジョン内の素材を使った装備じゃないと、ダンジョンでは通用しないという特性上、ダンジョンに入ったことのない初心者救済のために、ダンジョンの浅瀬にある魔鉱石と呼ばれる低級の鉱石で作られた、剣と鎧がセットで売られているのだ。


 そしてそれらはセットで50万円ほどで、先にも言った通り学生には手を出しにくい商品となっている。


 中には装備品もなしに支給品のピッケルだけ持って、自力で魔鉱石を採掘してきて装備を作るという人もいるらしいが、それは能力がキチンと伴っていないと危険だ。


 私のように攻撃能力じゃない人がそれをするのは、覚醒者でもないのにダンジョンに潜るのと一緒なのだ。


 と言っても別に買えなくはないが、普通の人はもしダンジョンで成果なしが続いたらと考えるとやはり躊躇してしまうと思うが、憧れのものには誰よりもお金をかけてきた私は、覚悟を決めて私の身体に合った駆け出し装備を購入したのだった。


 次の日私はダンジョンに来ていた。


 当面の目標はダンジョン配信の機材を買うために、ひたすらダンジョンの周回だ。


 そしてその周回ダンジョンとして私が選んだのは、私の地元でもある静岡県の慶世けいせ村ダンジョンで、初心者ダンジョンとしても10位以内に入るくらいの比較的易しいダンジョンだ。


「探索免許証を提示してください」


 ダンジョンに入る手順として、目的のダンジョンがある県の警察署などに出向いて、ダンジョン課に探索免許証を見せて許可証を貰い、その後目的のダンジョンに向かって入口に置いてある機械に許可証をかざして、初めてダンジョンに入ることができるようになるのだ。


 今はそれの前段階で、静岡県の警察署に向かい許可証を貰いに来ていた。


「はい、確認いたしました。初めてのダンジョンですね。それに伴いダンジョン内でのルールやマナー、やってはいけない行為などの概要を簡単に説明させていただきます。まず当たり前ですが、ダンジョン内では他の探索者の攻撃は違反行為になっています。そしてルールやマナーはダンジョン独自のモノが多いので、その詳細についてはダンジョンを管理運営しているダンジョン課のサイトにアクセスしてもらって、そこからダンジョン名を入力して調べてみてください。そのダンジョンに出る魔物や大まかな地図、やってはいけないことなどが載っていると思います。以上で説明は終わりです。では、気を付けていってらっしゃいませ」


 !


「ここが慶世村ダンジョンか……」


 自宅から1時間離れた草木が多い茂った村の隅にそれは立っていた。


 ダンジョンの入り口は縦が2m横が3mの形をしていて、ワープゲートになっていおりその表面は大抵水色で、まるで水面のように奥の景色がぼんやりと揺らいでいた。


 ダンジョンについては日夜研究が進められているそうだが、実際に進んでいるのは法整備や新たな法律のみで、その謎の解明は20年経った今でも半分も進んでいないとされている。


 そしてダンジョンの最大の謎は、内部がどこに繋がっているかというところで、入り口がワープゲートなのを見ればわかる通り、ダンジョンにワープしているというのが一般的であり、実際に入口の下の周りを掘ってみても、なにも出てこなかったという。


 そしてそれは異世界に繋がっているという人や、地球上のどこかへワープしているという人に別れているのだった。


「うーん、サイトで名前入力しても禁止事項なんて書いてないわね」


 ということは、特段違反に気をつける意味もないってわけね……


 もし違反をしてしまったら、半年の免許停止もしくは剥奪という罰則が与えられるらしい、まぁ他人に迷惑をかける人を放っておいたら、ダンジョンというモノの評判そのものに関わるから妥当だろう。


 そして私は覚悟を決めてダンジョンのゲートをくぐったのだった。


 !


「これがダンジョン……」


 ダンジョン内は薄暗く、荒く掘られた洞窟のような印象を受けた。

 そして壁に埋もれた明暗石が、辛うじてこのダンジョンの光源を確保していた。


 明暗石は魔力の反応によって明るくなったり暗くなったりする石で、特にポイントにならないのでスルーする。


 ダンジョンにはいろんな種類があり、ここは洞窟系のダンジョンであった。


 他には遺跡系や自然系など、ダンジョンによって系統はさまざまだ。


 洞窟系には虫の魔物などが出やすいが、この駆け出しの剣で返り討ちにしてやる。


 そう意気込みながらダンジョン内を奥へ奥へと探索していくと、上からゴブリンが降って来た。


 ダンジョンなどの定番モンスターであるゴブリンは、緑色の肌を持ち150cmくらいの身長で私よりちょっと小さいくらい、手には棍棒か錆びた剣を持っていて、ゴブリンの魔石は200DPで売れる。


 目標の7000DPには程遠いけど、これをあと35体倒せばと思うと意外とすぐ貯まりそうだ。


「グギャギャ!」


 奇妙な鳴き声で威嚇しながら、じりじりと私に近付いてくるゴブリンに対して、まずは先制攻撃とばかりに、首筋に向かって横薙ぎを放った。


 それをバックステップで避けられたけど、それは想定済みで更に踏み込んで頭に対して縦に剣を振り下ろした。


 それをおでこに剣をかすりながら間一髪で逃れるゴブリンは、やられっぱなしでたまるかと言いたげに今度はあっちから仕掛けてきた。


 素早く私に近付くと棍棒を雑に振り回してきたので、それを落ち着いてガードするも、その小さい身体からは想像できないくらいの衝撃が剣に走った。


 そしてよろけて転びそうになるも、浮遊を使って踏みとどまるとそのまま横に移動して距離を取った。


 私の動きに驚いたのか目を見開いたゴブリンは、それに対し興味深そうな目つきで様子を伺っている。


 そこで私は浮遊を使いながら加速をして、その勢いを使いながらゴブリンに切り付けた。


 するとそのスピードに追い付けなかったゴブリンは、私によって首を跳ね飛ばされて倒れた。


「うぇ、気持ち悪い……」


 感覚としてはゴキブリみたいな害虫を駆除した気分だけど、見た目は人型だからか少し気分が悪くなった。


 そしてネットを参考にしながら魔石のある場所を切り裂くと、緑色に輝く石が出てきた。


「これが魔石か……」


 てっきり砂利程度の大きさかと思ってたけど、結構大ぶりで荒く削られたビー玉って感じだった。


 そうしてどんどん進んで行き一層が終了した。


 一層はただ長い洞窟なだけで特に面白味はなかったけど、ゴブリンを浮遊で加速したあとに速度で撫斬なできるのは結構爽快である。


 やはり浅い層なのか、出てくる魔物がゴブリンのマイナーチェンジばかりで、狩り方にもパターンを見出してきたところで、今日の探索は終わろうと思う。


 そしてあらかじめ予約しておいたダンジョンホテルに泊まった。


 ダンジョンホテルとは、文字通りダンジョンをホテルとしたもので、攻略済みのダンジョンの1つの形として存在している。

 最近はダンジョンのリゾート化も進んでいて、ダンジョンが出てきた当初の怯えるだけの人類ではもうないことが明らかだ。


 !


 次の日、私は2層目に挑戦していた。


 昨日挑戦した1層目はほとんどゴブリンしか出てこなかったけど、2層に入ってからゴブリンよりも昆虫系の魔物が多くなってきた。


 相手はカブトムシをそのまま大きくした感じの魔物で、ギチギチと音を立てて私の前に現れた。


 この魔物は身体も硬く動きも予測しにくい上にキモイ、最悪の三連コンボに休む暇もなくそれを切り付ける。


 そして切り付けたところから体液が噴き出し、最後は浮遊で加速をつけた一撃で撃破。


 やっぱり速度ってのは、そのままパワーに繋がるのかもしれないと思った私であった。


 !


 あれからダンジョンに向かってはゴブリンや蟲を退治して帰宅して、ホテルに泊まって休み、たまに村で羽を伸ばすという生活を約2週間ほど続けると、遂に目標の7000DPに到達した。


 それと同時にいろいろな収穫もあった。


 まず1つ目は装備を新調したということだ、だが買ったというわけではなく、私が素材を持ち込んで鍛冶師に作ってもらったのだ。


 剣は変わらずだが、鎧が大きく変わっていて、カブトムシの殻を当てがった一品に仕上がった。


 防御力が高くなり少し安心が生まれてきて、ゴブリンの体重を乗せた全力に対してもビクともしなくなった。


 そして家に帰ってきてから早速、Dネットで浮遊カメラと小型マイクを買った。


 浮遊カメラはその名の通り浮遊するカメラ、元は魔物の生態研究として使われていたもので、登録した魔力を持つ生き物に追従する。


 そしてそれを配信カメラとして転用したものだ。


 もう1つは小型マイクで、こっちは配信に音声を乗せるために買った。


 スマホにはもう既にDtubeがダウンロードされており、配信するアカウントも作ってあった。


 その配信者の名前は『ミール貝』私の名前の美瑠をルーム貝風にもじったもので、結構気に入っていた。


「初配信はどこのダンジョンが良いかなぁ」


 やはり思い切って都心の……いや堅実に慶世村のダンジョンの深みを目指してこうかな?やっぱり装備は強くしたいし、そもそも配信を見てくれる人がいるかどうかだけどね。


 そしてここ約2週間、浮遊の能力を攻撃に使ってるおかげか1つスキルを覚えた。


 それは『燕返し』というもので、昔より浮遊の切り返しや小回りが利きやすくなった気がする。


 そしてこのスキルの使い方というのが、浮遊によって加速しながら敵を蹴って、その反動で元の位置に戻るというもので、本来の使い方があってるかわからないけど、個人的に満足しているスキルである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る