浮遊系配信者始めました。

アスパラガッソ

第1話 ~ダンジョン探索には資格が必要~

 私は小さい頃から運動が苦手だった。


 幼稚園の頃からそれは健在で、極力家から出るのを避けていた。


 そのせいか友達が1人も~なんてことはないのだけれども、決して多いわけではなかった。


 そして12歳の夏、私はある能力に目覚めた。


 それは『浮遊』という能力で、その名の通り宙に浮けるというものだった。


 身体を動かすのを特に嫌がってた私だったけれど、魔力は豊富にあったため、能力をまるで生まれた時から持ってたかのように自由に、更には息をするように自然に飛び回ることができた。


 それだけ聞くと凄い能力に目覚めたのだと勘違いしてしまうかもしれないけれど、そこまで凄い能力じゃない、私の豊富な魔力があったから成立する燃費の悪さ、そして浮遊といっても浮くのはたった5cm程度、ほとんど浮いてないのと変わりはなかった。

 それでも私はその能力を気に入っていて、めんどくさがり屋の私は、宙に浮くことによって服を汚さずに寝れるというメリット一つでこの能力を極めてきた。


 そんな能力が当たり前のこの世の中には、もちろんそれを生かす場所も存在していて、私はそんな場所で配信をする人に憧れた。


 それを生かす場所の名前は『ダンジョン』というところで、一般的に恐ろしい魔物が棲んでいて、能力に覚醒していない人はおろか、ダンジョンに入るための資格を有していないと、覚醒者であっても立ち入りは禁止されていた。


 それに加えて、免許の取得は高校生になってからと制限されていて、能力は早く覚醒したけど、長らくそれを持て余して過ごしていた。


 そして高校生になった私は珍しく自主的に動いて、資格取得のための勉強などをして、あらかじめ地元で住民票を受け取り、後日その資格の試験を受けに最寄りの警察署まで来ていた。


「では、こちらの用紙に記入をしてください」


 警察署に着くと、そこは試験を受けに来た人でごった返していて、やっとの思いで『ダンジョン課』と上に書いてある窓口に辿り着くと、他の窓口に立っている人たちとは全く違う、異質な雰囲気を醸し出している女の人が対応してくれて、その流れである用紙をくれた。


 それには、今取得しているスキルや覚醒した能力などを記入してくださいと書かれていた。


 そこに、覚醒した能力である『浮遊』とその備考欄に『浮遊高さ5cm』を書き入れ、受付の人に提出した。


「では、山村美瑠やまむら みるさんでお間違えないでしょうか?」


「は……はい」


「では、顔を近づけてください」


「うぅ……」


「覚醒能力は浮遊ですね。スキル欄の所には何も書いていないのですが、よろしいでしょうか」


「だ、大丈夫……です」


 久しぶりに大人の人と話すので、少し緊張しながらも返事をして、受付の人の話をぎこちない相槌で読み込んでいった。


「貴女の受験番号は590です。以上で基本的な説明は終わりとなります。では、2階の試験会場へ向かってください」


 我ながら上手く人と話せたのではないかと思いながら、謎の自信を付けた私は2階へと階段を使って上がって行く。


 試験会場には、やはり沢山の人いてみんな一様に試験の開始を待っていた。


 私は貰った受験番号の書かれた机に座り、予習とばかりに3に既購入して勉強していた『これを覚えたら一発合格!2024ダンジョン資格試験の模擬問題集』を取り出して試験が始まるまでの間に一通り目を通していた。


 試験会場にそこそこ人が集まってきて、会場内も少しの会話が積み重なってザワザワしてきた頃、美瑠はたまたま会った高校のクラスメイトに話しかけられていた。


「えー!美瑠じゃん、アンタも資格受けに来てたんだ!」


「うん、私ダンジョン配信者に憧れてて……」


「ふーん、私は家にもっとお金入れたいから、ダンジョンに潜るために資格取りに来たんだよね」


「志穂は偉いね。家のため家族のために、ダンジョンに潜ろうとしてるなんて」


「そんなことないよ!ニュースでもやってたけど、最近は高校を卒業してダンジョンの探索者になるのは別に珍しくないらしいよ。それに、私みたいにお金目当てでこの資格を取りに来た人は多いと思うし、アンタみたいに配信業をやりたいから資格を取りに来たって人の方が少ないと思うよ」


 内田志穂うちだ しほは私の数少ない友達の中の1人で、中学の頃から一緒に遊んだりしていた。


 志穂の家は大の付くほどの貧乏家庭で、8人兄弟の長女として生まれた。


 そのため志穂は度々、私が稼いで支えなきゃと張り切っている。


 そして志穂の言う通り、私のようにダンジョン配信をするためだけに資格を取りに来た人は珍しくて、大抵は家が貧乏でお金に困っている貧困層や、スリルを味わいたいからダンジョンに潜りたいという思考の犯罪者予備軍、そして身分証の代わりや買い物の割引が付くからという理由で取りに来る一般人が多いと志穂から聞いた。


「美瑠はなにで勉強してるの?って、え?その参考書って3年前のやつじゃない!」


 志穂はそう声を荒げるが、私は冷静に「別に問題はそこまで変わらないでしょ」と返す。


「いや、かなり変わるわよ!ただでさえ新しい分野なのよ……いろいろなマナーや罰則、ルールとかに沿って問題が増えるのは当たり前よ!それにこの3年間の間にどれほどの法案改正や新しい法律ができたと思ってるの!?とりあえず私が使ってる参考書渡すから、ほら頑張って覚えて!」


 まさかの事態に焦りと共に、なぜ日頃から『うっかりさん』というあだ名で呼ばれているか、自分でもよく理解できた。


 そして試験が始まり、所々わからないところがあったけれど、とりあえずは回答を埋め切れたことに安堵した。


 あのことを知った時はどうなるかと思って、必死に参考書を開いて覚えていたけれど、やはり私の言う通りそこまで問題は変わっていなかった。


 そして解答用紙と問題用紙を回収したあと、1階のモニターの前に集まった。


「いやー今回こそ合格したいよな!」


「まぁ俺は3度目の正直として合格してると思うな」


「ねぇ7問目難しくなかった?」


 合格発表を待っている間、皆口々に合格していると思う~とか、何問の何々が難しかった~とかを話して待っていると、どこからか窓口の人の声がスピーカーに乗って流れだした。


「ただいまより、合格者を発表します。自分の番号があった方は――」


「ねぇ美瑠、アンタ番号何番だっけ?」


「え?590番だよ」


「あるといいね!」


 そうして始まった合格者の番号は次々とモニターに映し出されていく。


 584 585 587 589 590あった!


「やった!志穂ちゃん私の番号あったよ!」


「ははは、おめでとう……」


 私が自分の番号を見つけたことを志穂にしたら、美穂は残念そうな顔をしていた。


「え?」


「私落ちちゃったみたい、美瑠と一緒にダンジョン行きたかったのに……」


「そんな……でも大丈夫、次は合格するかもしれないよ!」


「そう、だよね……でも美瑠が合格できてよかったよ」


「参考書ありがとうね。助かったよ!」


 あのあと志穂とはお別れして、免許証の写真を撮ったりした。


 まさか志穂が落ちちゃうなんて、あんなに張り切ってたのになんだか可哀想……と思いながら、それとは別に、今自分の手元にあるダンジョン資格の免許証を見て、やっとダンジョンで配信できるということを実感して嬉しくなった。



 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ということでここまで読んでくれてありがとうございます!

 ここからはいつも通り不定期で更新していきます。

 そして多分次回はいよいよダンジョン配信がスタートします!


 作者のモチベーションにもつながるので、よろしければ下の☆や評価、フォロー等々での応援よろしくおねがいします。

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