第2話 あるいは、その神との契約

 ある人は、契約とは神とするものではなく、そのようなものは悪魔の類だと言っていた。何かの本で読んだのだろう。


僕は卵について考えていた。

「はあ…俺は頭がどうにかなってしまったんだろう。しかし、世界は賑やかで面白いな」そのように思ってしまったのが、最悪の事態を招くとは…


空には、雲があるだろう?その上に、僕は人影を見た。あれ?なんだあれは。幽霊のように透けた人々がいる。

狐がそっと囁く「あれは、鬼の葬式さ。宮殿に鬼が集まっているだろ?彼らは天国にも地獄にも行けず、この世界で漂う」

「鬼って死ぬの?」

僕はびっくりして、思わず狐に聞いてみた。「君さ、僕の声を遮るなよ。偉そうに。世の中のこと、教えてやらんぞ」

「それは困るな」

「あのな。人には罪があるだろ色々。それでも、親神というのはいるんだよ。それなのに俺がいくら、何度も、神に罪を贖う行動をしないのかと、言ったじゃないか」狐は興奮したのか、一人称が「俺」。神と言われるものもそんなことがあるのだなと思った。

「いいかお前。お前がいる世界というのは、下手をしたら悪い世界に入ることもある。それは現実の反社とかそういうのじゃなくて、次元というのはあってだな」

「何を言ってるのかちょっとわかんないけど。次元?スピリチュアルの人たちが言ってるああいうやつ?」僕は、例の女の子を思い出していた。音叉を使うと周波数が出るので、自分を正しい周波数に戻すことができるとか、何次元にアセンションするのだとか…アホらしくて聞いていなかったが。

「あんな話はどうでもいい。僕は君が罪を償えるのかと聞いてる」

「何をすればいいんだい?過去世とか言われたらわからんぞ」

「なに、ちょっと仏さんのところへ行って、お賽銭を入れたり、お願いごとはダメだぞ、人のためとか、感謝とか…そういうことをしたら、罪滅ぼしになるんだ」

「ふうん。じゃあ僕が、最近は寺にも神社にもあんまり興味なくて行かなかったけど、人生の時間って限られてるじゃん?その間に返せるものなの?」

「できるよ。ただ、よほど修行とかしてさ、神様仏様に、許してと請わなければならない」「彼らは救う側じゃなくて?」「悪人まで救ったら、平等じゃねぇだろ。善人は救われる」

僕は悪人だったのか?

「さあ、隣の寺で鐘でもついてこい。昭和も終わるのだから」

はあ、今日は何日だと思ってるんだ

「君は過去に生きているのさ」

何が何だか分からなくなってきた。ただ、寺に行って拝むのが悪いこととも思えないから、僕は一人アパートから出て隣のお寺に行って、手を合わせた。お釈迦さまだった。アンタは、人間だったんだろ?ゴータマ・シッダルタさん。罪は無かったのかい。仏になるってどんな気持ち?など、およそ罪滅ぼしにならない、失礼な質問を考えていた。

「ははは、君は宇宙の仕組みを何も知らないからそんなことが言えるんだ。ブッダは偉大な人だよ、お前と違って」狐が横で笑い転げる。


 僕らは寺社を転々とした。お詣りには、そんなに手間も苦痛もなく、あの女の子とも会わなくなっていた。

そんな折に、僕はある活動を始めた。寺、神社の訪問日記をブログに書くという。

「お前が僕らのことを書いてくれるなら、手伝ってやろうか」狐がまた囁く。

「僕は見たこと、勝手に書き散らすからいいんだ。興味があること、教えてくれるなら、それは書いてもいいかも」

その時は、気軽な気持ちでそんなことを考えていた。まさか、あのブログが大炎上するとは夢にも思わずに。

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