第6話

最近は季節になると、地元のスーパーでも数種の柿が売られるようになった。

とはいえ中々甘いものには当たらず、渋抜きされていないままのようなものもあって

見かけても買うことはまずないけれど。


数年前、車で4時間ほどの小さな町に越していった友人を訪ねた際に、

野生の柿を分けてもらったことがある。

近くの自然保護林で、びっしりと実を付けた野生の柿の木を見つけたのだという。

なぜだか、柿といえばアジア圏の果物と思っていて

まさかこの地に野生種として生育していようとは夢にも思わず、びっくりした。

さっそく保護林に連れて行ってもらったが、あいにくと季節は終わっていて

背の高いその木に実の生っている姿は見られなかった。


友人の家に戻ってから、冷凍庫に蓄えられていたのを実食させてもらった。

ずいぶんと小ぶりなサイズながら、ヘタの形などを見ればまさに柿。

もしや渋いのではとおそるおそる齧ってみると、実の中は半分以上を種が占めていて可食部分はそれほど無いながら、その身は充分に甘く

何より鼻に抜けるその香りのよいこと!

栽培された柿の実に’薫り高い果物’という印象はないが、この野生種の芳香のすばらしさといったら、、、

甘やかで華やかで、まるで薔薇の花にも似たその香りは今まで経験したことがないものだった。


可食部を増やすことと引き換えに、人の手の入った柿の実からはこの芳香が失われてしまったのだろうか。

だとしたら、なんて残念。なんでも大きければ良いというものばかりではない。

個人的には、小さくても香り高い野生種の柿のほうが断然好きだなぁ。



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