第2話 合唱

  本編の前に不思議な夢の話を一つ。

 僕は『ペンフレンド』と云う小説を連載しています。

 その中の出て来る中学三年生の上田舞という女の子が、僕の夢の中に出て来たのです。

 その物語は、舞が同級生に暴行された事件を中心に進んで行くのですが、彼女は主人公では有りません。

 そんな舞が夢の中に、それも、二度に渡って現れたのです。


 一度目は、

 舞が道端に落ちていた作り物の小鳥を手にした事から始まりました。

 舞はその小鳥を拾い上げ、親鳥が小鳥を抱き抱(かか)えるように、そっと、胸の辺りに近づけました。

 胸の温もりを伝え終えた舞は、その小鳥を口もとに寄せます。

 そして、フ―と息を吹きかけました。

 すると、どうでしょう。その小鳥の体に生気が漲(みなぎ)って来たのです。

 舞が小鳥を包んで居た手を空へと翳(かざ)すと、

 その小鳥は待ちかねて居たかのように大空へと舞い上がりました。



 二度目は、

 本編を読んで居ないと分かりにくいのですが~。


 舞は自分を強姦した主犯格の人物の背後に立って居ました。

 その手には果物ナイフが握られて居ました。

 恨みつらみを晴らそうと、舞はその背中にナイフを突き刺しました。

 何度も、何度も刺すのですが、その背中から一滴の血も出て来ません。

 ただ、傷跡が残るだけで、刺された本人は痛くも痒くもないのか微動だにしませんでした。

 

 実を言うと、舞の姉は物語の主人公で実在していた人なんですが、舞本人は僕が物語の都合上、想像して登場させた人物なんです。

 そんな舞が夢の中に出て来たのには驚きました。

 彼女なりのメッセージを伝えたかったのかも知れません。


 そこで、僕は小説の中にこの二つの夢を組み入れました。

 舞本人が見た夢としてです。


 このことで、夢には不思議な事が一杯詰まって居るのだと思い知らされました。


  


 では、夢物語『合唱』を語り始める事にします。


僕たちは中学校の年中行事であった合唱のリハーサルを講堂で行って居ました。

 歌が不得意な僕は最後尾の左端に配置されて居ました。


 練習が始まって暫らくした頃に、急に、目まいがして意識が薄れて行きました。

 初めての事です。何かしら首筋にチクッと痛みを感じたのを覚えています。


 

 気が付くと、保健室のベッドで寝かされて居ました。


「どう、少しは落ち着いたかな?」


 寝ぼけまなこの僕に、保健室の鏡京子先生の優しい微笑みが浮かび上がってきました。


「まだ、少しボウ―としてます。・・・それで、僕は?」

「合唱のリハーサル中に倒れたの。覚えて居ない?」

「・・・」

「熱を測って見ましょうね」



「う~ん、ちょっと、高めね。熱を下げないとね」

「はい」

「じゃぁ~、ズボンとパンツを脱いでね」

「えっ!」


 たまげて居る僕には目もくれず、京子先生はスタスタと保健室の入口に向かい戸口に鍵を掛けました。


 ベッド脇に戻って来た京子先生は四方のカーテンを閉め、僕を窘める様な目つきをしながら、


「まだ、脱いでないの。恥ずかしがらなくても良いのよ。鍵はちゃんと掛けたし、誰も見て無いから~」

「でも~」

「は・や・く」


 せかされた僕は、慌ててベルトを緩め、腰を浮かし、パンツごとズボンを下げ降ろしました。


「やっぱりね。皮を被ってるんですもの、熱が冷めないのも頷けるわ」


 京子先生は慣れた手つきで僕のJr.(ジュニア)をいたぶり始めました。

 恥ずかしさと興奮がない交ぜに成って胸の奥から溢れてきます。


「大丈夫よ、怖がらなくても。少し、チクッとするかもしれないけど、大人への一歩だと思って我慢してね」


「・・・」


 そんな事を言われても、何が何やらで僕の思考回路はもうハチャメチャです。

 

『え~い、もう、成るようになれ!』


と、覚悟を決めた矢先に京子先生の口に中に僕のJr.が~。


『ペロペロ、クチャクチャ、ズボズボ~』


 そんな音がした訳では有りませんが、感触がその様に伝わってくるのです。


「ふ~ん。まぁ、標準と言った所ね。いいこと、お口で皮をむいてあげるから」


と、言われたような気がしました。

 なにせ、京子先生は僕のJr.を咥えたまま喋って居たのだから、正確な所は分かりません。


「痛いっ」


と、僕は小さく叫びました。

 どうやら、大人への階段を一つ上がったようです。


 その後も、京子先生の口は僕のJr.を含んだまま、一向に放そうとはしません。


 我慢できなくなって僕の下半身が強直し始めると、


「いいのよ、このままで~」

「せんせい!」


『ムグッ』


 ドクンドクンと僕の精子が京子先生の口の中に飛び散りました。


 京子先生は悪びれもせず、


「一杯出たね。ごちそうさま。これで、熱が下がる筈よ」


 何処まで本当なんだか?

 でも、なんだか体が軽くなった気がしました。


「こう云うの、はじめて?」

「はい。良いんですか?」

「なにが?」

「何がって。こんな所で生徒と~」

「あなたが初めてでなくってよ。又、熱が出たら保健室にいらっしゃい」

「本当にですか?」

「その代わり、この事を誰かに喋ったら承知しないからね」

「誰にも喋りません」

「良い子ね。じゃぁ、教室に戻りなさい」

「はい」


 僕が衣服を整えベッドから降りると、


「そうだ、覚えて居て?去年も合唱のリハーサル中にここに運ばれてきた女子がいたでしょ」


 そうだった。いつの間にか忘れて居たけど、確かに、同じクラスの、それも、僕と同じ場所に立っていた女子がリハーサル中に倒れて保健室に運ばれて来て居た。


「はい、本番中に居なくなり、大騒ぎになりました」

「未だに、行方不明でしょ」

「そうです」

「あれだけ、口止めしたのに、あの子ったら~」

「まさか、先生が~」

「どうかな。口は禍(わざわい)の元って言うでしょ。あなたも気を付けないとね」


 

 それから、僕は一度も保健室に行かなかった。

 いや、ここは行きたい気持ちを堪えて居たと言うべきだ。


 幾ら気持ちが良くっても、別れ際の京子先生の不気味な笑顔を思い出すと足がすくんでしまって~。

 京子先生が、精子と愛液で命を長らえて居る様に思えてならなかったせいもある。

 ドラキュラが実在するとすれば、あながち、それも頷けなくもない。


 

 合唱の本番も無事に終え、まるで、夢物語の様な京子先生との出来事を胸の奥にしまい込んだまま僕は卒業した。



 社会人になった僕は、ある日のニュースに度肝を抜かれた。


 僕が通っていた中学の講堂が解体され、体育館が立つことは聞いていた。

 まさか、その工事中に女子らしい遺体が掘り起こされようとは思っても居なかった。

 発見された場所は、丁度、僕が、その一年前には行方不明になった同級生の女子が立っていた床下だったそうだ。


 

 

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