第45話 浅草、其ノ壱

 金曜日の午後、校舎の一角にひっそりと佇む茶道部の和室。外の喧騒が嘘のように、この部屋は静寂に包まれていた。

 障子から差し込む柔らかな光が、畳に美しい陰影を作り出し、その中でクロエが茶道具を用意している。

 彼女の青い瞳は、茶碗に集中していて、彼女のプラチナブロンドの髪がその光景に淡い色合いを添えていた。


「お茶をてるのは、すごく難しいですね……」


 クロエが、ゆっくりと息を吐きながら呟く。

 その声は、緊張とわずかな達成感が混じっていた。


「でも、所作がすごく綺麗だよ」


 俺は、彼女の一挙手一投足に目を奪われながら、思わずそう言っていた。

 クロエは少し顔を赤らめながらも、にっこりと微笑んだ。


「ありがとうございます。茶道部に入ってから、私の知らない日本文化を色々学ぶ事ができました。着物も早く着てみたいとは思っているのですが……」


 本格的な茶室の中で、彼女のジャージ姿は確かに違和感はあったが、彼女の言葉には、茶道への真剣な思いが込められていた。クロエがこの部活を通じて、さらに日本の文化を理解しようとしていることが伝わってくる。


「先生に教えてもらって、ようやく少しは形になってきたけれど、まだまだ不器用です……」


 そう言って、クロエは少し照れくさそうに微笑んだ。

 茶碗に一さじの抹茶を入れる。

 彼女の表情は、茶道の難しさに向き合いながらも、その一つ一つの過程を楽しんでいるように見えた。


 その後、クロエは静かにポットを持ち上げ、丁寧にお湯を注いだ。湯気が立ち上り、抹茶の深い香りが部屋いっぱいに広がる。


「ヒロキ……よろしければ、これから私が点てたお茶を一緒に飲んでいただけませんか?」


 クロエが恥ずかしそうに、それでも少し期待を込めて尋ねてくる。その瞳は、俺が断るなんて微塵も考えていないように輝いていた。


「もちろん、喜んでいただくよ。クロエが点てたお茶を飲むのが楽しみだ」


 俺がそう言うと、クロエの顔は一層明るくなり、嬉しそうに頷いた。


「ありがとうございます。では、少し待っていてくださいね」


 クロエは勢いよく茶筅ちゃせんを振るい茶を点てると、俺の前にそっと置いた。茶碗に浮かぶ抹茶の泡は美しく整っていて、そのひとつひとつがクロエの真心を映し出しているようだった。


 俺はクロエが点てたお茶を口に運び、ゆっくりと味わう。抹茶の苦みと甘さが絶妙に混ざり合い、口の中で広がっていく。その味わいと静謐せいひつな茶室の空気感に、俺は自然と心が落ち着いていくのを感じた。


「うん、美味しいよ、クロエ。丁寧に点てたのが伝わってくる」


 俺がそう伝えると、クロエは安堵の笑みを浮かべ、少し肩の力を抜いた。


「よかった……ヒロキが美味しいと言ってくれて、私も嬉しいです」


 彼女は嬉しそうに、でも少し照れくさそうにしていた。その様子が、まるで初めて自分の手料理を誰かに食べてもらったときのような、そんな初々しさを感じさせる。


「クロエは本当に日本の文化に対して真剣だよね」


「ありがとうございます。でも、まだまだ勉強することがたくさんあります。それがまた楽しいのですけれど」


 クロエの瞳には、学びに対する純粋な喜びが満ち溢れていた。彼女が日本に対して抱いている愛情と好奇心が、言葉の端々から伝わってくる。


「ねえ、ヒロキ。和菓子も日本の文化の一部ですよね? 茶道部でも和菓子を食べる機会があって、それがとても美味しかったんです。今度、もっと色々な和菓子を食べに行きませんか?」


 クロエの提案に、俺はすぐに賛成した。彼女の興味と情熱が、俺にも伝染してきたのだ。


「もちろんいいよ。そうだな……早速明日の土曜日に浅草に行ってみないか? 和菓子の食べ歩きができるし、きっとクロエも楽しめると思う」


「本当ですか? わぁ、楽しみです! ありがとうございます! 明日が待ち遠しいです」


 クロエは、はしゃぐように青い目を輝かせ、満面の笑みを浮かべていた。その姿は、まるで子供のように無邪気で、見る者の心を癒してくれる。


「じゃあ、明日は浅草で待ち合わせしようか。いろんな和菓子があると思うよ」


「はい! 浅草……雷門で有名なところですよね! 行ってみたいと思っていたんです! 勇気を出して誘ってよかったです……」


 クロエは期待に胸を膨らませながら、自分の分のお茶を点て始めた。俺は、彼女の背中を見つめながら、明日が本当に楽しみになってきた。



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 翌日の土曜日、俺は少し早めに家を出て、浅草へと向かう電車に乗り込んだ。電車の窓から見える風景が徐々に都会の喧騒から古い街並みに変わっていく中で、俺はどこか高揚感を覚えていた。


 浅草。名前だけはよく聞くが、実は俺自身、前の人生も含めて一度も訪れたことがない場所だ。歴史と文化が色濃く残るこの地に、初めて足を踏み入れるというのは、まるで新しい冒険に出るかのような新鮮な気持ちだった。


 クロエとの待ち合わせは雷門の前。彼女がどんな姿で現れるのかと思うと、自然と笑みがこぼれた。


「そう言えば私服は初めて見るな……」


 俺はそんなことを考えながら、電車に揺られ続けた。頭の中には、これから始まるデートのことが次々と浮かんでは消えていく。クロエと一緒に和菓子を楽しむだけでなく、初めての浅草を彼女と共有できるというのが、俺にとっても楽しみで仕方ない。


 やがて電車が浅草駅に到着した。改札を抜けると、目の前には雷門が広がっていた。その大きさと迫力に圧倒されながらも、俺は待ち合わせ場所に向かった。




 待ち合わせの20分前に雷門の前に到着すると、すでに観光客で賑わっていた。


「少し早く来すぎたかな」


 大きな提灯の下で写真を撮る人々の姿が、浅草の象徴とも言える風景を彩っている。提灯に描かれた『雷門』の文字が、歴史と文化の重みを感じさせ、初めて訪れた俺にはどこか新鮮で神秘的だった。


「ここが浅草か……すごいな。写真で見るより実物はずっと迫力がある」


 俺は周囲の景色に見入っていると、ふと向こうから誰かが駆け寄ってくるのが見えた。プラチナブロンドの髪が太陽の光に反射して輝いている。彼女が一歩駆けるたびに、人々がチラリチラリと視線を送る。俺はすぐにそれがクロエだとわかった。


「ヒロキ!」


 クロエは満面の笑みを浮かべながら、少し息を切らして駆け寄ってきた。彼女の姿を見ると、俺の胸が自然と高鳴った。

 柔らかな白いブラウスにネイビーのカーディガンを羽織り、淡いパステルブルーの膝丈フレアスカートがふんわりと揺れる。黒のバレエシューズが足元を軽やかに彩り、白いショルダーバッグが上品さをプラス。

 髪はハーフサイドアップのスタイルで、左右で編み込まれた髪を後ろでまとめ、エメラルドグリーンのリボンがあしらわれていた。クロエらしい洗練されたスタイルは、東京の街並みに溶け込みつつも、彼女の可愛らしさとフランスらしいエレガンスを引き立てていた。


「おはよう、クロエ。待たせたかな?」


俺がそう尋ねると、クロエは首を振りながら微笑んだ。


「いいえ、私も今来たところです。ヒロキと一緒に浅草を楽しめるのが嬉しくて、早く来ちゃいました」


 クロエの言葉には、彼女の純粋な気持ちが込められていた。彼女が和菓子を楽しみにしているのはもちろん、俺と一緒に過ごせること自体を心から楽しんでいるのが伝わってくる。


「それならよかった。じゃあ、行こうか」


 俺は手を差し出し、クロエがそれをしっかりと握った。彼女の手は少し冷たく、それがまた彼女の緊張と期待感を象徴しているように感じた。


「あ、ここで写真を撮りたいです!」


 クロエは持ってきたカメラを通行人に渡すと、俺の手を引いて門の前に立つ。

 二人身を寄せ合って写真を撮ってもらった。

 いつものインスタントカメラ、『撮るんです』だ。

 門の姿は全部収まっただろうか?

 すぐに確認できないのをもどかしく感じる。



 カメラを受け取りお礼を言うと、二人で雷門をくぐる。

 そこには仲見世通りが広がっていた。両側には、和菓子や伝統工芸品を売る店が軒を連ねている。色とりどりの暖簾や提灯が目に飛び込んでくる中で、クロエの目もまた、好奇心でキラキラと輝いていた。


「わぁ、素敵な場所ですね! こんなにたくさんのお店が並んでいて、どこから見たらいいのか迷っちゃいます」


 クロエはまるで子供のように目を輝かせながら、周りを見回していた。彼女がこんなにも喜んでいるのを見ると、俺も自然と心が軽くなる。


「今日は一日中ここにいられるから、ゆっくり見て回ろう。クロエが興味を持ったお店に入ってみようか」


 俺がそう提案すると、クロエは頷いて、嬉しそうに俺の手を握り直した。その手の温かさが、彼女の心の中の期待感と喜びを伝えてくれるようだった。


「一日中ヒロキと一緒だなんて、とっても幸せです!」



 クロエは、俺の隣を歩きながら、仲見世通りをゆっくりと進んでいく。お店の軒先からは、和菓子や焼き団子の甘い香りが漂ってきて、二人の食欲をそそる。


「最初に何を食べようか」


 俺が尋ねると、クロエは少し考えた後、和菓子屋の前に足を止めた。


「最初は……あんみつをいただいてみたいです」


 彼女が指差した先には、古風な佇まいの和菓子屋があった。店内からは、落ち着いた照明が漏れていて、まるで時間が止まったかのような静けさを感じさせる。


「じゃあ、あんみつにしようか」


 俺たちは和菓子屋の店内に入り、注文を済ませた。木のぬくもりが感じられるテーブルに座り、二人で並んであんみつが運ばれてくるのを待った。


「この場所、すごく落ち着きますね」


 クロエが窓の外を眺めながら呟いた。外の賑やかな通りとは対照的に、店内は穏やかな時間が流れていて、クロエの言葉に深く同意した。


「そうだね。浅草って、賑やかな場所だけど、こういう静かなところもあるんだな。実は、俺も今日が初めてなんだ」


 俺がそう言うと、クロエは驚いた顔で俺を見つめた。


「本当ですか? ヒロキはもう何度も来たことがあるかと思っていました。だから、私も安心して任せられるって……」


「実は、俺も初めてなんだ。だから、二人で一緒に初めての浅草を楽しもうぜ!」


 俺がそう伝えると、クロエは嬉しそうに微笑んだ。その笑顔は、俺の言葉を心から喜んでいることを物語っていた。


「私も嬉しいです。ヒロキと一緒に浅草巡りができるなんて、夢のようです」


 クロエの言葉、そして花が咲いたような笑顔に、俺の心も温かくなった。


 やがて、注文したあんみつがテーブルに運ばれてきた。ガラスの器に美しく盛り付けられたあんみつは、見ただけで涼しげで甘美な味わいが想像できる。


「わぁ、綺麗ですね」


 クロエは目を輝かせながら、そっとスプーンを手に取った。彼女が一口食べると、満足そうに微笑んだ。


「ん~~~~~!!

 本当に美味しいですね。口の中にひんやりと優しい甘さが……あぁ、これが日本の和菓子なんですね」


 彼女の感動が、その表情と仕草からひしひしと伝わってくる。


「あ、写真!」


 思い出したかのように彼女が焦った顔で言う。

 その顔に俺はクスっとしてしまった。


「いいよ、クロエ。俺のを撮りなよ」


「ごめんなさい、あまりにも美味しそうだったのでつい……」


 気持ちはとてもよく分かる。俺も何度かコース料理を食べたことがあるが、途中から記録に残すのをついつい忘れてしまうのだ。何度食べかけの料理を写真に収めた事か。食欲には勝てん。


 クロエが撮り終わると、俺も一口あんみつを口に運び、その味わいを堪能した。


「うん、美味しい。このひんやりとした甘みは和三盆だね。それにしてもクロエ、あんみつなんてよく知っていたな。ほんと日本の事に詳しいんだね」


 俺がそう言うと、クロエは少し照れくさそうに微笑んだ。


「ありがとうございます。祖母が日本人ですので、お勧めを教えてもらったんです。でも、まだまだ勉強中です。今日はヒロキも色々教えてくださいね」


「ああ。今日は一日、いろんな日本の文化を一緒に楽しもうぜ」


 俺がそう言うと、クロエは満面の笑みを浮かべて頷いた。その笑顔に、俺の心はまた一段と温かくなった。




 あんみつを堪能した後、俺たちは再び浅草の街へと足を踏み出した。外に出ると、先ほどとは違う和菓子の甘い香りがふんわりと漂ってくる。仲見世通りの両側には、和菓子をはじめとした伝統的なお菓子を売る店が並び、その光景にクロエの目は好奇心でいっぱいだった。


「ヒロキ、次はどこに行きましょうか?」


 クロエは嬉しそうに俺の手を握りながら、周囲を見回していた。


「そうだな、せっかくだから、食べ歩きできそうなものを選んでみようか」


 俺が提案すると、クロエは目を輝かせて頷いた。


「それは、いいですね! 日本に来てから、和菓子の美味しさにどんどんハマってしまって……茶道部で少しずついろんなものを味わっているんですけど、こうして街中で食べ歩きするのは初めてです」


 クロエの言葉に、俺は笑顔で応えた。


「じゃあ、今日はたくさんの和菓子を一緒に楽しもう。どれを選ぶか迷いそうだけどね」


 そう言いながら、俺たちは手を繋いだまま、仲見世通りをゆっくりと歩き始めた。通りの両側には、いろんな種類の和菓子がずらりと並んでいる。鮮やかな色合いの大福や、きな粉がたっぷりかかった草餅、そしてみたらし団子など、どれもこれも美味しそうで、どれを選ぶか本当に迷ってしまう。


「最初にどれを食べたい?」


 俺が尋ねると、クロエは少し考え込んでいたが、目をキラキラと輝かせながら一つのお店を指差した。


「これ、すごく美味しそうです!」


 彼女が指差したのは、鮮やかな緑色をした草餅を売っているお店だった。店頭には、目を引くように並べられた草餅が光を受けて輝いていた。


「草餅か。美味しそうだね」


 俺はそう言いながら、店の前に立ち、クロエと一緒に草餅を注文した。草餅を包んでくれる店員さんも、異国から来たクロエに少し驚いた様子だったが、すぐに優しい笑顔を浮かべて和やかな雰囲気を醸し出してくれた。


「こちら、お餅の中にこし餡がたっぷり詰まってますよ。どうぞお楽しみください」


 店員さんから手渡された草餅は、ほんのりと温かく、手にしただけでその柔らかさが伝わってきた。クロエは嬉しそうにそれを受け取り、一口かじってみた。


「わぁ、すごく柔らかいです! 餡が甘すぎなくて、もちもちのお餅と相性抜群です!」


 彼女の声には、心からの感動が込められていて、俺もつられて笑顔になった。


「本当に美味しいな、これは…」


 俺も一口食べてみると、その絶妙な甘さと柔らかさに驚かされた。草餅の香りが鼻孔をくすぐり、口の中に広がる餡の上品な甘さが、思わず笑みを誘う。


「これはお茶が飲みたくなりますね」


 クロエはそう言いながら、少し照れたように微笑んだ。


「クロエ、和菓子を食べるときの所作が、すごく綺麗だよ。茶道部での経験が生きてるんだね」


 俺がそう言うと、クロエはさらに頬を赤らめた。


「ありがとうございます。まだまだですけど、ヒロキに褒められると嬉しいです」




 次に俺たちは、みたらし団子のお店に足を運んだ。炭火で焼かれた団子が、みたらしのタレで輝いており、その香ばしい匂いが食欲をそそる。クロエはその香りに誘われるように、お店の前で立ち止まった。


「おお、この匂い、たまりませんね」


 クロエは目を輝かせた


「クロエ、色々なものを食べたいなら、一本だけにして二人で分けて食べないか?」


「はい、そうしましょう! 私、いろいろな物を食べてみたいです!」


 そうして俺たちはみたらし団子を注文した。団子が串に刺さっている様子は、まるで懐かしい日本の風景そのものだった。


「それじゃ、クロエからどうぞ」


「いただきます!」


 クロエは嬉しそうに一口かじり、その後すぐに幸せそうな笑みを浮かべた。


「ふわふわの団子に、甘じょっぱいタレが絡み合って……本当に美味しいです。

 それじゃ、ヒロキもどうぞ」


 彼女の感動が伝わってくる言葉に、俺もまた団子を一口食べた。焼き目のついた団子の香ばしさと、タレの甘さが絶妙にマッチしていて、思わず唸りたくなる味わいだった。


「うん、美味しい。こういうの、昔から変わらないんだろうな」


 俺がそう呟くと、クロエは頷いた。


「そうですね。こうして昔から愛され続けている和菓子を楽しめるのは、日本に来たからこそできる体験です。ヒロキ、連れてきてくれてありがとうございます」


 クロエは目を細めて、俺を見つめた。その瞳には、彼女の感謝と喜びが映し出されていた。


「俺も、クロエと一緒にこうして日本の文化を楽しめるのが嬉しいよ。今日は、たくさんの和菓子を一緒に味わおう」


 俺がそう言うと、クロエは嬉しそうに頷いた。


「はい、楽しみにしています!」


 俺はふとしたことが気になって、クロエに聞いてみることにした。


「そういえば、クロエは分けて食べるのとか平気だった?」


「別に平気ですけど? どうしてです?」


「ほら、日本の女の子は『間接キス』とか言って照れちゃう子も多いから……」


「『間接キス』ですか。日本の女の子は可愛いですね! それにちょっと素敵な考え方に思えます」


 そうか、フランスではこういう文化は無いのか。




 その後も、俺たちはさまざまな和菓子を少しづつ分け合って食べ歩いた。色鮮やかな金平糖や、上品な甘さの羊羹、さくさくの最中など、どれもが日本の伝統を感じさせるもので、クロエの驚きと感動は尽きることがなかった。


「日本には、本当にいろんなお菓子があるんですね。茶道部で食べたことのないものばかりで、驚きました」


 クロエは、まるで宝物を見つけたかのように次々と和菓子を楽しんでいる。その姿を見ているだけで、俺も幸せな気持ちになった。


「それにしてもヒロキは和菓子にも詳しいのですね」


「うん、クロエと楽しもうと思って、勉強してきたからね」


「本当にありがとうございます。素敵な一日をヒロキと過ごせて、本当に幸せです」


 クロエがふとそう呟く。その声には、彼女の素直な気持ちが込められていて、俺の胸を打った。


「そうだね、クロエ」


 俺はクロエの顔を見ながら微笑んだ。クロエもそれに応えるように、優しく微笑み返した。


 浅草の喧騒と、通り抜ける風が、妙に心地よかった。

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