星と彼氏と吸血鬼
滴る血も凍るような、寒い寒い夜だった。
地平線に輝くはくちょう座を眺めながら、わたしは泣き出したいような笑い出したいような不思議な気分で、公園のベンチでぐったりしていた。
それまで、彼氏との関係はそれなりにうまく行っていた。けれど、吸血鬼の彼女への誕生日プレゼントに、十字架のネックレスを贈ろうとするのはどうかと思う。危うく殺されかけるところだった。百年の恋も冷めてしまったのも、仕方ない。
たぶん、そのときのわたしは吸血鬼の女にふさわしい冷酷な眼をしていたんだろう。別れを切り出したわたしに、数十分前まで恋人だった彼は、怯えた顔でコクコクと頷いた。
カバンの中のスマホが音とともに振動し、彼からショートメッセージが届いたのを知った。いっそのこと、ブロックしてやろうか。でも、最後の言葉くらい、聞いてあげようと思い直した。
それが、いけなかったのだろう。
——さっきはごめん。悪気はなかったんだ。別れても、君の幸せを願ってる。
わたしは、スマホの画面からそっと視線を逸らした。
風は凍えるほど強いのに、空に雲はない。こんな夜でなければ、と願うくらいにはロマンチックな満点の星空。
その夜空に、一筋の流れ星が走った。
願い事は何も浮かばなかった。今のわたしに願いなんてない。
「……世界が平和でありますように」
思ってもいない言葉を口にして、あーあ、とひとりごちる。
一時の感情で、彼と別れたのは早計だったかも知れない。明日、学校に行けば、友達から根掘り葉掘り聞かれるに決まっているし。
こうして別れてみると、相手の良かったところばかり思い出すから不思議だ。
(一緒に天体観測に行って、星を眺めたこともあったっけ)
夜空を見上げ、感慨に耽っていたわたしは、再び彼からのショートメッセージが届いたのに気づいた。
——ねえ、一緒に星を見に行ったこと、覚えてる?
もちろん、覚えてる。
——いろんな星の、神話の話をしたよね。
あのころは、楽しかったなあ。
——地平線のあたりに、はくちょう座が見えるかい?
うん、見えるよ。
——知ってた?……はくちょう座って、別名”北十字”っていうんだって。
わたしの身体は燃え上がった。
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