第15話 みんななかよく
「……なるほど、そんなことがあったんだ。確かにそれは隠した方がよかったね」
優の話を粗方聞き終えた涼花は苦笑する。
それは和紗を憐れむと同時に、自分の立ち回りが正しかったことを知れて安堵したようにも見えた。
「一応解決はしたんですけど……会長ずっとあんな感じだったから、放っておけなくて」
「分かるなぁ、その気持ち」
「そうなんですか?」
「私も池鶴を見てると、どうしても放っておけなくなっちゃうから」
「……なるほど」
先ほどの池鶴を思い出して思わず憐れむような苦笑こそ浮かべそうになるが、涼花の表情を見てそれをぐっとこらえる。
それは涼花がただ池鶴をうざったく思っているからではなく、池鶴に手を焼くことをまんざらでもなく思っていそうに見えたからだった。
「……佐伯くんになら、話してもいいかな」
「何をですか?」
「どうして私が生徒会でもないのにここにいるのかについてだよ」
涼花はゴミを拾う顔を上げると、ゆっくりと歩みを進めながら話し始めた。
「池鶴はね、ちっちゃい頃からずっとああだったの。我が強くて、怒りっぽくて、周りと関係が上手くいかないことがたくさんあった。最初は私も『あぁ、やってるなぁ』って感じで見て見ぬふりをしてたんだけど……」
その瞬間、涼花の目から元気がなくなる。
「私たちが四歳の時かな。同じ保育園に通ってたんだよね。それで私が何気なく保育園の廊下を歩いてたら……物置の影で泣いてる池鶴を見つけたんだ」
「…………」
「一人だった。誰にも見つからないように声を押し殺してて、でも『どうしてなかよくできないの?』って自分を責めるように泣いてた。それが私、すっごく嫌だったんだ。当時、池鶴とはまだそんなに仲良くなかったけど、池鶴の泣いてる姿を見てたら……我慢できなかった」
そうして、涼花は泣いてる池鶴を何も言わずに抱き締めに行った。
突然の出来事にしゃっくりも抑えられないまま戸惑っていた池鶴に、涼花はこう言った。
「『だいじょうぶ。わたしはちづるちゃんのおともだちだよ』」
まるで目の前にあの頃の池鶴がいるみたいに、涼花は話す。
「『わたしなら、ちづるちゃんとなかよくなれるよ』」
優は涼花の話を遮ることに抵抗感を覚え、相槌すらも打てなかった。
「その時、池鶴が心から嬉しそうに笑ってくれたんだ。その笑顔が忘れられなくて、私は今でも池鶴にお節介を焼いてるの」
涼花がここにいるのは、生徒会メンバーと池鶴が衝突しないように自分がクッションになるためだ。
それだけではなく、涼花は日常的に池鶴と周りを繋げる仲介人のようなことをしているという。
そこまで話し終えたところで、涼花は一区切りつけるように大きく息をついた。
「長々と話しちゃってごめんね」
「いえ、聞かせてくれてありがとうございます。実を言うと、僕も疑問に思ってましたから」
「そうだよね。生徒会でもないのに、私がここにいるのは不自然だよね」
「あっ、えっと、そういうわけでは……」
まるで自分を責めるように言葉を並べる涼花に、優は何を言ったらいいのか分からなくなってしまう。
昔話をして感傷的になっているのかも分からないが、それにしても“どうしてそんなに悲しそうな顔をしてるんですか?”と問いかけたくて仕方がなかった。
「……池鶴、大丈夫かな」
「大丈夫ですよ」
物憂げな表情でそう呟く涼花に、優が間髪入れず言葉を発す。
これなら涼花を元気づけられると、優は思った。
「僕も、会長も、香菜先輩も、蒼真も。きっとみんな、池鶴先輩と“なかよく”できます」
優の言葉に目を見開いた涼花は、少し照れ臭そうに上目遣いをしながらコクリと頷くのだった。
◆
――その後、元気を取り戻したらしい涼花は優に池鶴の話をした。
ああ見えて意外と寂しがりやなところがあること、本当はみんなと仲良くしたいのに、どうしても素直になれないこと。
池鶴を一言で表すなら「ツンデレ」だと涼花は言っていた。
和紗のことを話していた時も活き活きしていたが、涼花は池鶴のことを話す時が一番活き活きとしていた。
(大好きなんだな)
涼花の話を聞きながら温かい気持ちになっていると、あっという間に一時間が過ぎていた。
粗方ゴミを拾い終えたこともあり待ち合わせ場所に戻ると、そこには既に他グループも集まっていた。
「遅かったわね。そんなにゴミがあったの?」
一番に池鶴が話しかけてくる。
知らないところで自分のことを熱く語られていたとも思わずに、彼女はいつも通りだった。
そんな彼女に、涼花もいつも通りの様子で接する。
「そういうわけじゃないんだけど、佐伯くんと話しながらだったからね。池鶴の方はどうだった?」
「私たちの方もそうでもなかったわ。大きな公園だし、普段から綺麗にされてるのね。全く、これくらいなんてことないでしょうに、どうして先生は私たちに清掃ボランティアなんて頼んだのかしら」
「うちの学校、この公園を管理してる区からも寄付を貰ってるみたいだし、私たちが返せるのはこれくらいしかないからね」
「そういうものかしらね……。あっ、そうそう、佐伯」
「はい?」
自分が呼ばれるとも思っておらず、目を見開きながら返事をする優。
目が合うと、池鶴はいつもの鋭い瞳でずいずいと近寄ってくる。
……いや、いつもより視線が鋭い気がする?
「な、なんですか?」
優がその迫力に思わず気圧されていると、拳三つ分ほどの距離まで歩み寄った池鶴はまるで命令するように言った。
「午後からのお出掛け、私も連れて行きなさい」
「……へっ?」
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