第3話 個性豊かな生徒会

「じゃあ、まずは私から。青鸞学園二年B組、生徒会会長の雨野和紗です。好きな食べ物はさくらんぼだよ。よろしくね」

「よ、よろしくお願いしますっ」


 咄嗟に頭を下げる優。


(なんだよ今の! 一瞬敬語になったかと思えば急にタメ語になって、しかも好きな食べ物さくらんぼって! 何から何まで可愛すぎる……!)


 幼いころから勉強ばかりしていて恋愛経験皆無だった優にとって、和紗の言動はあまりにも効果てきめんだった。

 顔つきや声色、雰囲気はクールそのものなのに、言動は年頃の女の子らしくあどけない。

 そのギャップが、優を狂わせていた。


 顔を下げたまま静かに悶絶していると、その様子を深々と頭を下げてくれているのだと勘違いしたらしい和紗が薄っすらと笑みを浮かべる。


「そんな丁寧にしなくても大丈夫だよ」

「あっ、いえ、はい……」


 受け応えするために顔を上げた優だったが、和紗の笑った顔が眩しすぎて目を合わせられなかった。


「そして、私の隣にいるのが――」

「コホン。二年A組、生徒会副会長の二ノ宮にのみや池鶴よ。さっきはみっともない姿を見せてしまったけど、私は会長と違って厳しいから。そこのところ、覚悟しておきなさい」


 咳払いして仕切り直すと、再び厳粛な面持ちで言葉を発す池鶴。

 背は小さく小柄だが、その整った容姿と鋭い眼差しで雰囲気は十分。

 まさに威厳のある副会長……だったのだが。


「ひぃ……!」

「ほら、また怖がってる」

「池鶴?」

「す、すみませんすみません!」


 優の隣にいる男子生徒が小さく悲鳴を上げ、それを体躯の大きい女子生徒が面白おかしく指摘する。

 そうして和紗に注意されると、池鶴は慌てて謝り倒す。


……度々ネタキャラに成り下がってしまうのが難点だった。


 頭を下げるしかなくなってしまった池鶴に、優の頭のほとぼりが冷めていく。

 それと同時に彼女の姿が段々と滑稽に思えてきてしまい……。


「……フッ」

「今、笑った……?」

「い、いえ! 笑ってません! 許してくださいぃ!」

「やっぱり笑ってんじゃないのよ!」


 鼻で笑ったのに気づかれて、憎悪にも似たおぞましい目つきで睨みつけてくる池鶴。

 先ほどとは比べ物にならないくらいの恐怖に体と声を震わせながら、優はただ首を横に振って謝ることしか出来なかった。


 和紗はそれを苦笑を浮かべながら受け流して、自己紹介の進行を再開させる。


「そして、池鶴の隣にいるのが――」

「二年C組、生徒会書記の鞍馬くらま香菜かなだ。『香菜先輩』って呼んでくれると嬉しい」


 あでやかな笑みを浮かべながら、手をこちらに向けてパクパクとさせる香菜。


 彼女において特筆すべきは、何と言ってもその圧倒的なプロポーションだろう。

 和紗のすべてを一回り大きくしたような、女子高校生に似つかわしくない体つき。

 けれど決して下品さは感じさせず、均整が取れているそれはまさに芸術品だ。


 加えて妖艶さすら感じさせる美貌から、和紗と合わせて密かに「青鸞学園二大美女」と呼ばれている。


(この人が「青鸞学園二大美女」のもう一人……弘毅の言っていた通り、確かに他とは一線を画した綺麗さだ)


 それを踏まえてもなお、優の心の中に居続けるのは和紗だけだが。


「じゃあ、次は一年生だね。佐伯くんから自己紹介をよろしく」

「あっ、はい。青鸞学園一年B組の佐伯優です。よろしくお願いします」

「なるほど、君が『新入生代表挨拶』をしていた子だね」

「はい。その節は、お世話になったみたいで」


 香菜が顎に手を添えながら優のことをじっと見つめる。


 和紗は入学式準備で優の名前を見たと言っていた。

 入学式準備は生徒会単位で動くから、書記である香菜も元々優の名前を知っていたのだろう。


 生徒会に自分の名が知れているという事実にどことなく気恥ずかしくなって、苦笑を浮かべながら頭を搔く優。

 しかし香菜はそんな素振りも気にせずに優をじっと見つめると、やがて口元に小さく笑みを作った。


「君、いい目をしているね」

「へっ?」

「何にも穢されていない純粋で真っ直ぐな瞳だ。ここまで綺麗な瞳は実に珍し――あだっ」


 突然意味の分からないことを言い出した香菜の頭を、隣から伸びてきた池鶴の手がはたく。


「アンタも変なこと言わないの、佐伯が困惑してるでしょ」

「だってだって、久々の生徒会新メンバーだよ? 希望の星だよ? 池鶴だってテンション上がらない?」

「アンタのそれはいつもでしょ。というか、生徒会なんてぶっちゃけ会長がいれば十分なんだから」

「池鶴、流石にそれは言いすぎだよ……」


(香菜先輩も池鶴先輩側の人だったのか……)


 既存メンバーたちのやり取りを見た優は密かに失望、とまではいかなくても少々ガッカリとしていた。


 何と言っても日本トップ校の生徒会。

 どれだけ威厳のある人たちなんだろうと思った矢先にこれだ。

 優は少しの恐怖と憧れというある種の期待を生徒会に抱いていただけに、どうしても肩透かしを食らった感が否めなかった。


 しかしこれから彼女らと行動を共にしていくと考えると、むしろ等身大の姿で接してくれるのはありがたい。

 何しろあの和紗がいるので、とりあえずそれで自分を納得させる。


「……っと、話を遮っちゃってごめん。じゃあ次、井渕いぶちくんね」

「は、はい。一年A組の井渕蒼真そうまです。たくさん迷惑をかけるかもしれませんが、よろしくお願いします」


 先ほど優とどことなく言葉を交わした少年、蒼真はそう言いながら自信なさげに視線を右往左往とさせる。

自信なさげに瞳を伏せるその姿からは、どこか小動物を見た時にも似た庇護欲を掻き立てられた。


(同じ学年の人だったのか……)


 先ほどの異様な怯え方を見るに、香菜が言っていた“池鶴が怖がらせた新入生”とは蒼真のことだろう。


(……俺だけ、特別じゃなかったんだな)


 和紗に誘われた男子は自分だけかと思ったが全然そんなことはなくて、優は悲しいような、同性がいてホッとしたような複雑な気持ちを抱いた。


 全員の自己紹介が終わり、改めて今いる生徒会メンバーを振り返ってみる。


 孤高の女神様、和紗。

 和紗ガチ勢、池鶴。

 独特な感性を持つ自由人、香菜。

 常に怯えた様子の蒼真。


(……クセの強い人しかいないな)


 和紗は気兼ねなくまともと言えそうだが、他がどうにもそうとは言い難い。


「今日から夏休みまでこのメンバーで生徒会を運営していくことになるから。佐伯くんは庶務、井渕くんは会計として、みんなこれからよろしくね」


 和紗の一言で、とりあえず自己紹介はいい具合に締めくくられる。

 しかしそれとは裏腹に、優は果たしてこのメンバーでやっていけるのだろうかと些か心配になるのだった。

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2024年12月3日 19:07 毎日 19:00

クール系なのに笑顔の可愛い生徒会長。孤高の女神様のはずが、なぜか俺の前でだけ弱くなる。 れーずん @Aruto2022

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