第四話 悪夢とアクマ

 ガーーーーーーーーー…………。


「おに……ぃちゃん、わた……しを……ころ…………して」


 モノクロな記憶が蘇る。ブラウン管テレビがうねるような悪夢。

 俺は何もできず、ただただその光景を眺めているだけだった。あんなに可愛かった、愛らしかったが恐ろしく見えた。それも仕方無いだろう、自分の両親が無惨にも引き裂かれていたのだから。



 チ……リン……チリリ……リン‥‥チリリリリリリリリン……


 はぁはぁはぁはぁ、またこの夢か。


「嫌になるな」


 この悪夢を見るたびに妹との距離が遠まっていく気がする。だがそれよりも異形化した妹をどうにかして助けたい、という想いが高まる。いやそんな綺麗な想いじゃないだろう。それでも俺は知りたいんだ。何故あの時、父さんと母さんを失わなければならなかったのか。何故、妹が異形にならなければいけなかったのか。


「圭介〜起きろ〜」


 このやかましいのはアクマ、俺の……ペットみたいなもんだ。


「おい! また布団の中にもぐるなぁ〜!」


 お前は俺の母ちゃんかっ! ……母さん、ね…………


「あーあ、朝からあまり良い気分じゃないなぁ〜」


 重い体を上げ、洗面所へと向かう。今日の朝は早い。なぜなら今日から授業があるためだ。

 昨日入学式が俺のせいで、おじゃんになった後、俺たち生徒は寮の説明を受け、寮で一夜を明かした。そして俺とアクマの処遇については・・・・お咎め無しだった。まあそれは当然のことだろう。アクマは俺の能力によって生まれてきただけで、俺たちは何も悪いことなんてしていないのだから。

 今日は気分もそれほど良くないし、食堂に行くのはやめておこう。


 昨日支給された制服と靴を着て履けば、準備完了だ。


「やっと、準備終わったか〜早く行くぞ〜圭介」


「だからお前は、俺の母ちゃんかっての」


 足で地面を蹴って立ち上がる。


「何言ってんだぁ? オラはアクマだぞ! お前の剣だ!」


「はいはいそうですかっと」


 気怠そうに俺が答えるとアクマはムッとした表情で知らんぷりをした。


「わかったって、ごめんなアクマ」


 子供をあやすように俺が謝ると、アクマはまんまと引っかかり、にこやかになる。無邪気な姿が舞花と重なる。俺は少し重くなった足を懐かしげに運んだ。



 どうやら早く着きすぎたらしい。教室の前にある黒板? というよりかは、でっかいホワイトボードに貼ってある席順表を見て、自分の席を確認する。えーっと俺の席はっと。マジックミラー側の一番後ろ……か。寮の部屋もマジックミラーのある端の部屋だったなぁ。まあ別に良いけど、特殊なマジックミラーでどんな状況下でも外からは黒にしか見えないし。

 正直に言うとワクワクしていた。新しい学校生活、新しい人間関係。中学校までは普段付き合いができる程度の友達さえいなかった。小さい頃には一応俺にも幼馴染がいたっけか。まあ俺の両親が死んで、俺が遠くの児童養護施設に入ることになったから、今ではもうどこにいるのかさえわからないけど。

 昔のことに想いを馳せ俺は席に着こうとする。その時だった。ガラッと扉の開く音がする。振り返ると何処か懐かしさを感じる顔が目に入った。


「圭……くん?」


 懐かしい声が耳に入る。米子よねこだ。向日葵ひまわり米子よねこ、俺の幼馴染。


「米……子なのか?」


「うん」


九年ぶりの再会だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る