第4話 決闘
――――決闘の時。
第一演習場には、王女ジョゼフィーナやグレン、野次馬で集まった生徒たちが観戦のため訪れている。
みな、ジョゼフィーナの凶行を見るために……もしかしたらジョゼフィーナに来るように命令されたかもしれないわね。
この場には私の味方などいない。
グレンはどうだか分からないけど……私の味方ではないわ。
そしてジョゼフィーナが連れてきた騎士は、この国では有名な白い隊服に身を包んでいる……。
「このアクアマリン王国でも指折りの実力を持ち、由緒正しい血筋の近衛騎士であるエルド・ガイアよ。あなたみたいな平民のドブネズミでも知っているでしょう?」
「さぁ、どうだか。平民はドブネズミではなく人間ですので、知りませんが」
「はぁ……っ!?」
まさか私が言い返すと思っていなかったのか、ジョゼフィーナが激昂する。
「早くこの生意気な女を叩きのめしてよ!」
ジョゼフィーナがエルドに怒鳴れば、エルドが気味の悪い笑みを浮かべながら演習場のコートの中に入ってくる。
「さて、それで?ぼくの相手はどこだい?」
エルドが私を嘲るように問う。
しかし……私の陣営には、私しかいない。
もう決闘の時間よ。どうして来ないの……?ルーク……っ!まさか何かあったんじゃ……。
「ひょっとして……逃げられたの?」
ジョゼフィーナがクスクスと嗤う。私が代理騎士を見つけられなかった前提ではなく、見つけたことを知っているように。
「やっぱり……騙されたんじゃない?」
ジョゼフィーナの嘲笑に、周囲からも嘲笑が湧く。
やっぱり……恐くなってしまったのだろうか。こんなこと、恐がりそうなたちには見えなかったのだが。私は……騙されてしまったのだろうか。
「さて、なら決闘は辞退する?いいわよ。わたくしに楯突いて、コーデリアを苦しめた悪女。わたくしがこの手でしっかりと処刑してあげる!」
悪女……悪女ねぇ。原作ではコーデリアが悪女や悪役令嬢と呼ばれていたけれど、やっぱりこの世界では……私がまごうことなき悪役なのだ。
そう、世界が認定してしまっている。
でもやっぱり……ムカつくわ!何よコーデリアって!誰よコーデリアって!そんなの前世の原作でしか知らないのよ!見たことも、会ったこともない。私がいつ、そのコーデリアとやらを苦しめたわけ!?私を苦しめているのはむしろ……悪役令嬢コーデリアの親友王女のアンタじゃないの!
それに……たとえ逃げたとしても、騙されたとしても、彼が助けてくれた、私の命を助けてくれた事実だけは変わらない。せっかく助けられた命である。
「……私がやります!」
ハッキリ言って……恐い。スポーツなんて、前世の中学校の授業くらいしか経験がない。剣道や武術を嗜んでいたわけでもない、ただの平民あがりの少女が、本物の真剣を携える騎士に向かい合う。
それが恐くないはずなんてない。でも、ここで逃げたら、彼に顔向けができないのよ……!たとえ彼が逃げたとしても命の恩人には恥じない生き方をしたい。
「正気かい?ぼくは本物の近衛騎士。君みたいな明らかな素人がかなうはずがないだろう?」
エルドが嗤う。
負けるな。負けたらダメよ。……ここで負けたら、終わりよ……!
「……だから、何よ!立場を利用して一方的に虐めてくるヒステリー王女に味方するあなたなんて、とんだクズ騎士だわ!」
周りからブーイングが溢れる。そんなの、どうだっていい!
私には、彼がいる。命を救ってくれた彼だけは味方になってくれた。その事実だけでいいのよ。
それだけで、屈強な騎士の前に、まっすぐと立っていられるのだから。
しかし次の瞬間、エルドの目がギラリと光る。
「やれやれ……最期くらいは苦しまずにいかせてあげようと思ったのに……君はぼくを本気で怒らせたようだね」
「余計なお世話よ!アンタが私をどう切り刻もうと、知らないわ!アンタのクソみたいな怒りなんてどうだっていい!大事なのは、私がこの生を、どんだけ必死に生き抜いたかよ……!」
それならば、彼も、私の命を助けたことを後悔せずにすむ。だからせめて、誰かを本気で守ってあげて欲しいと願うのよ。
こんな四面楚歌な破滅系ヒロインの命を助けて、一度は代理騎士を引き受けると言ってくれた度胸のある男よ!私と同じように、四面楚歌で苦しむ子がいたら……今度はちゃんと生涯守ってあげなさいよ……!
だから私は……最期まで、あなたたちには負けないわ……!
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