四十九日後
雨が降り止まないとある日の夜、
「ほんで、まだ
酒を飲んでいる一条が不機嫌そうな声色と口調で、白金に問いかける。常人なら泥酔コースまっしぐらの酒量だが、彼女は顔にも吐息にも意識にも酔いを見せないところが恐ろしい――白金はそんな思いを
先週の話。白金が自宅で就寝前のルーティンをこなしていた所に、一条から連絡を受けた。
『おい、白金。落ち着いてよう聞けよ。今
――出水が、蛍乃香に『ちょっと用事ができた』と言い残して別れた後数日連絡がつかず、そのまま消息を絶った。
「――もしかしたら、ご
「しかしあいつは一連の事故や日下さんの件とは無関係の部署にいたはずやし、一体どこで」
「出水と日下の間に直接何らかの関係はないんか」
「何度か話したことがある程度やと思う。でも日下さん自身、署内では割と名物やからなあ」
「名物? どう名物やったんや?」
「いや、とにかく真面目でね。無断欠勤はおろか遅刻もしたことがないくらい時間に厳しい。あと、徹底した
一条に説明しながら、それと対極の位置にいるであろう出水と日下の仲がそこまで険悪ではなかったことを白金は思い出し、少し不思議に思った。しかし、この二人が行方をくらました今となっては、考えることはもっと他にあると彼はその思いを振り払った。
「何とかして行方が分かればな。ウチのほうも日下が関わっとった事故の方面で色々と謎が
身を乗り出し少しだけ得意げな顔を見せながら返事を
「よぉし、んじゃ教えたるわ。まずこいつを見てくれ」
一条がポケットから取り出した四つ折りの紙を広げると、そこには見事に達筆な字で一覧が書かれていた。むしろここまでの達筆は白金も初めて見るものだった。
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・ ◯月◯日
・ ◯月◯日
・ ◯月◯日
・ ◯月◯日
・ ◯月◯日
・ ◯月◯日
・ ◯月◯日
こいつはな、〝ここら一帯で数ヶ月間、事故として処理された死亡者の中で首が飛んでいてそれが見つかっていないと報告されているもの〟を抜き出したモンで、情報源は
こいつらは事故の発生場所が見事にバラバラやったのと、現場の状況から完全に事故として処理されとった。出血量が少なすぎる、切断面が食い散らかされとったようにボロボロなど、特徴も一致しとったと情報源は言っとった。こうやって一覧にするとヤバイんが丸わかりや。
さて、ここまでならサルでもできる仕事やけど、この一覧には共通しとることが三つある。どれも聞けば異様な話やから、覚悟して聞きや。
一つ目、事故発生日はすべて〝
ついでに、それぞれの事故の概要でもかいつまんで教えたるわ……そんなんデータベースで調べりゃすぐ出てくる? アホウ、ウチがせっかく情報抜き出して簡単にまとめたったんに、ちっとは聞きいや、な?
んじゃ上牧の事故からやな。こいつは日下から聞いとると思うけど、県境の峠道下り方面でフルスピードでカーブに突っ込んだ事故やったらしいわ。目撃者が四人もおったちゅう話や。
次は河合で、こいつは自宅で夜中にコンロを使っとったら外のプロパンガスが突然爆発して窓ガラスの大きな破片が胸に刺さっとったらしい。直接の死因はどうやらそっちらしいけど、しっかり首も
その次の香芝は単純で、車を走らせとる時に前を走っとったトラックに思いきり突っ込んで積荷の鉄骨が刺さって死んだらしいわ。そんときに首もガッツリいったっちゅう話やけどな、まあ当然見つかっとらん。
一番おもろいんが三宅やな。こいつは彼氏ともう一人と肝試しいうてどこぞのダム湖近くへ行ったらしいわ。んで、そこで何があったか分からんが彼氏が運転しとった車が道から転落、ダム湖に落ちたらしいで。その彼氏ともう一人の男は奇跡的に車から脱出して助かったけど、三宅は車ごと沈んでもうて、次の日に
んで、川西と葛城は同じ事故で被害に
最後の筒井は上牧と似た感じでな、オートバイを転がしてたらスリップして派手にこけた。即死やったらしいけど、首が消えとった以外は普通の事故やったらしいで。
それにしてもまあよくもこんな短期間にこれだけポコポコ死んどるわ。ウチからしてみりゃ何でこの事故の法則性に警察が気づかんのか不思議なくらいやけどな。まああんたたちは多分物証だ科学だといって、一旦事故と決めたモンには見向きもせんような連中やろけどな。
ほんで、上牧と河合、あと最後の筒井のケースで判明したことが一つあってな。この三人はどうも死ぬ前に『こえんのとおりくろう』ちゅう言葉を受けとっとったようや。他については今は見当もつかんけど、〝こえん〟は多分〝ご
ここまでをまとめた結論としては、今回の一連の話は全部〝事故に見せかけた殺人〟ちゅう可能性が極めて高い、となる。犯人? 犯行手段? 目的? そんなんウチにはよう言えん。しやけどこれだけは確実に言えるわ。犯人は人間やない、どこぞの
問題は、どこで何をしとる
な、聞いとるだけで楽しいやろ?
え? ちっとも楽しくない?
何やあんた、つまらん人生送っとるんやなあ……
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「とりま、出水の行方は全力で探しい。ウチも気になっとるんやけどな、蛍乃香がナンボ連絡取ろう思ても
「そういや、警察の聴取は受けたんやったっけ、蛍乃香さん」
白金は新たに炭酸水を、一条は常温になった酒をそれぞれグラスに
「――何やて……」
一条はスマホの画面を凝視して、驚きと怒りがブレンドされた顔をしていた。白金は彼女の様子がおかしいことに気づき、おざなりな対応をされた訳でないと知って居住まいを正した。
「一条さん、何かあったんか?」
「……ああ、ちと一旦帰らなアカン」
「
「悪いが説明しとる暇はない。今度また状況教えたるから、今は待て」
二の句を継がせない口調と表情で一条が白金の言葉を
「……んじゃな。あんま出歩くなよ」
それだけ言い残して一条はジャケットとバッグを乱雑に
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