二十七日目
ここ最近ずっと雨に降られている。最近
わらぼうきで軽く石碑をささっと払い、枯れ葉や雑草を手早く摘み取ってきれいにしていく水島さんの手際には、長年この世話をやってきた経験が
『あの、水島さん。この前に
石碑に軽く一礼して立ち上がった水島さんに、俺の後ろで黙って見ていた
『ん? ああ、それは土田さんに聞いてくれ。ウチらはただこれを
ゴミ袋を拾い上げ、傘を持ち直して申し訳なさそうに答える水島さんだったが、その口調と裏腹に人の良さそうな笑顔がつねに貼り付いていた。しかし、何だろうか――今まであんまり考えてこなかったし感じることもなかったものが、今になって
『すまん、これもウチらの決め事でなあ。なあに、知ってても知らんままでも、縁起悪いことなんぞ何一つないから、心配はせんで――』
少しだけ不満を
『う、う、うわっ、うわああああああああっ!?』
数瞬の後、絶叫したくても喉を締め付けられて声を絞り出せないかのような甲高い
『あっ、あの、水島さん? 一体何が――』
『みみみ、見るなっ! ふ、振り向いたらアカン!』
その言葉を聞くや聞かずやのタイミングで、俺と明奈は水島さんの視線の先を確認しようと振り向いたが、そこには驚き、おののくようなものはなかった。俺は明奈と顔を見合わせて、水島さんに向き直った。疑わしいというか
『ちょ、ちょ、ちょっと、申し訳ないが、きょ、今日はもう失礼するで』
『ま、待ってくださいよ水島さん! 一体何がどうしたっていうんですか! 私たちの前でそんな心配させるようなことをして、何も説明なしじゃあ
『そんなこと言うとる場合とちゃうんや! あんたらにはきっちり今日中に説明するわい! 先ずはちょっと行かせてくれ! ああ、はよ皆に知らせな――』
引き留めようとした俺を強引に振り切り、水島さんは逃げ出すようにして家を出ていった。一体何が起きたのか、俺にも明奈にも分からなかったが、強烈に
そして結局、というか案の定――その日中に説明にくると言って帰っていった水島さんが、その約束を果たすことはなかった。
――そんなことを思い返しつつ、俺は寝室の
「ん?」
その時、石碑のほうで何か気配が動いた気がした。俺はまた猫が出たのか、それか他に何か動物が迷い込んできたかもしれないと思い、傘をさして庭の様子を確かめる。十分ほど探して何も見つからなかったが、確かに何かが動いた気がしたので、ひどく気になった。ここら辺は小動物や蛇なども多く、特にアオダイショウを見かけた時の明奈の反応が面白――ではなく、かなりパニックになっていたことがあって以降、俺も気をつけて見ている。同時に〝はたしてあれはアオダイショウのような感じだったか〟と疑問にも思った。そしてふと、ここで
そういえば以前、不思議なことがあった。引っ越し当日の夜、家族で石碑の様子を見た際に
「――」
そんなことを考えている所に、どこかから視線を感じる。誰だろうと辺りを見回してみるといつのまにか
「あれ、君は確か……のあちゃんだったね」
「……」
相変わらず無口な子だった。俺と目線が合うと静かにペコリと頭を下げてきた。彼女なりの挨拶なのだろうが、少しは声にだして意思表示してほしいなとも思う。でもそれを頭ごなしに注意するのは昨今むずかしいのだけど。
「あれ、今日幼稚園は?
「――――」
俺の話を聞くと一瞬だけ首を
俺はそのまま自分が今まで何を探していたのかも忘れ、降り続く雨に少し身震いしながら、そそくさと家へ戻っていった。
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