一日目
外壁塗装や防水加工、クリーニングに防駆虫処理といったリファイン工事が完了したのは、
『ああ、
引っ越し作業の最中トイレ交換工事の業者が菓子折りを持ってやってきたのでどうしたのか尋ねると、何でも『トイレ一式交換工事の搬入時に邪魔だったので、
それからも家財道具などを積み込んだ二台のトラックから荷物を家の中に搬入していって、がらんとしていた新居はあっという間におびただしい数のダンボールで埋め尽くされた。
「ママ、パパ! お風呂がすっごく広くて気持ちいい!」
「きもち~!」
一階には和室と洋室が一部屋ずつあり、洋室はリビングルームとして活用する。その他にはダイニングキッチンに洗面所と風呂があり、玄関横にトイレが備え付けられている。それらは内覧で確認した通りほぼ新品同然だ。食洗機まで備えられたシステムキッチンで、収納も広く取られているのが明奈も気に入っているようだ。
二階には洋室が三部屋あり、部屋同士が
……なっているのだが、どうにも前とは少し――本当にほんの少し――雰囲気が変わった。何というか、空気が少し
そんなことを思って俺は階段を降り、改めて不動産屋で見た平面図を脳内に思い浮かべる。この家は築数十年が経っているのだが、四隅の柱と中央の大黒柱を残し〝リノベーション〟、早い話が建て直したらしい。これは再建築、つまり建て替えにはあたらないのだと。
道理で古臭さも感じない訳だ。中央の大黒柱がことのほか太いのが特徴的だが、それ以外はうまく隠してあるおかげで、築数十年の家をリフォームしたようには到底見えない。
居間では明奈がすぐに使いそうな食器などを荷解きしている。俺も手伝おうかと思ったが、子供たちを見ておいて欲しいとお願いされたので今は美桜を膝の上に乗せてくつろいでいた。玲央は俺の布団の上できゃっきゃとはしゃいでいる。
俺と一緒にいるのに飽きた美桜が布団の上で玲央とじゃれ合っているのを横目に見ながら、俺は俺で自分だけの居城をようやく手に入れたという実感を、縁側に座ってビールとじっくり味わおうか……そう思って
この時季になれば夜風も熱気が抜けており、ちょうどいい心地良さを取り戻してきていた。虫には詳しくないが秋の夜を彩る音色が少し聞こえて来ているので、もうそんな季節なのかと思いながら目の前に植えられた松の木に意識を向け――その裏に建てられているらしい石碑の存在を思い出した。
「なあ明奈、そっちにサンダルか何かないかな?」
「え? まだ出してへんけど」
「そうか、じゃあいいや。靴あるし」
「何、どこか行くん?」
「いや、ちょっと庭にある石碑とやらを一度
「ああ……そうねえ。私も気になっとったし、一緒に見たいわ」
「あたしも一緒に行く~」
「ぼくも~」
リビングの方で荷解きをしていた明奈が手を休め、美桜の手を引いて玄関を通り、俺の靴を持って縁側まで来た。俺は玲央をひょいと抱き上げ二人の前を歩いて松の木の裏にあるという石碑に近づいた。やはり近いうちにホームセンターに行って園芸用品を一通り買い揃えないと今でも少し雑草などの手入れが行き届いていない。
そして、大人が二人は並べない程度に狭い裏手の、更に奥まった端の方に、それはあった。自治会で管理しているというだけあって、苔がむしているといったこともなく、その辺りだけ雑草が取り除かれている。さほど大きくない平石が三段に積まれ、その上に三角形の形をした石柱が――というより三角錐のほうが近い――
しかし、明奈が出したスマホのライトに照らされたそれを改めて確認した俺の第一印象は、少し陰りを帯びていた。
「……こうやって見ると、なんか
「あなたもそう思った? 何故か私もなんよね……でもこれってただの石碑なんやろ?」
「という話だけどな、一体何を
「ここに神様おるん~? まんまんちゃんなん?」
「あ~ん」
美桜が俺の言葉に反応し、玲央がそれにかぶせてくる。明奈があやしている様子を見ながら庭の様子を眺めやると、一瞬だけ門の方に何かが見えた気がした。暗くてよく見えなかったが何だか人影だったような気もして、俺はそっちに視線と意識を集中させたが、何もなかった。
「あれ、進ちゃんどうしたん、そっちのほうに何かあったん?」
「ん? ああいや、何でもないよ。さあて、そろそろ家に戻ろうか」
「は~い。ママ、ご本読んで~」
「はいはい」
引っ越しや片付けの疲れと、一段落した
しかし、改めて……さっきのは気のせいだったのかな。何か見えた気がするんだが……
――それに、一体何だろう、この感覚は。
本当に、少しだけ、空気が
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