お花探し 2
馬車がゆっくりと停まり、リオと私はラーヌ地方の首都ラウスに到着した。
馬車を降りた瞬間、目の前に広がる大きな市場に、私は思わず息をのんだ。
色とりどりの店が並び、果実の飴、ドライフルーツ、見たこともない形のパンやサンドイッチ、新鮮な野菜や果物、さらには衣類や生活用具まで、あらゆるものが所狭しと屋台連なって並んでいる。
「こんなに大きな市場、初めて見た…。すごく活気がある。」
目を輝かせながら、私はリオに問いかけた。
「あれは何?あのパン、見たことない形してる。」
私が指さしたのは、いろんな色の粉がかけられた球体の硬そうなパンが山積みになっていた。甘いにおいが立ち込めている。。
「ああ、あれはラーヌ地方の特産のパンだ。
ラーヌボールといって、細長いクッキー生地を丸めて油で揚げ、
チョコレートや色とりどりの粉砂糖をまぶしたお菓子だよ。
ラーヌ地方の名物で、特に市場でよく売られてるんだけど、公爵領ではあまりみない食べ物だね。」
と言いながら、さっそくお兄ちゃんは店の人に話しかけ、白い丸いパンをかって、私にくれた。
「はい、どうぞ、こぼさないようにな」
とお兄ちゃんが笑いながら手渡してきた。
一口かじると、サクッとした甘い風味が口いっぱいに広がった。
控えめだけど、物足りなくはないあまさと、サクサクした生地が絶妙にマッチしてすごくおいしい
。こんなにおいしいなんておもわなかった。一つ難点をあげるなら、食べにくさだ。早速粉が落ちそうになっているのを、お兄ちゃんが手で受け止めてくれた。
「ありがとう。」
というと、
「やっぱりこぼしたね」
とニヤニヤするお兄ちゃんはちょっとうざい。でもそれよりもラーヌボールのおいしさにララはとりこになっていた。
市場を歩くたびに、私は目に映る新しいものに夢中になり、お兄ちゃんに次々と質問していた。
「あれは?あのドライフルーツ、すごく色鮮やかで綺麗ね。」
「それもラーヌ地方の特産品だよ。高い栄養価で人気なんだ。
はちみつにつけていて保存がきくから、旅に出る人にもよく買われるんだよ。」
市場を回りながら、お兄ちゃんはいろんなことを教えてくれた。
こうして二人で市場を歩き回るのは、なんだか冒険をしているようで楽しかった。
私は次々と見たこともない目新しい商品に目を奪われていたが、本来の目的を忘れてはいない。
「ねえ、薬草屋さんか薬屋さん、どこかにあるかな?」
思い出したようにお兄ちゃんに尋ねると、少し考える素振りを見せ、
「うん、確かにこの辺りにはいくつかあるはずだけど、
今日はせっかくだから、もう少し市場を楽しんだらどうだ?
まだ時間はたっぷりあるし、あとで一緒に探そう。街の人に花のことも聞いてみればいい。」
といった。私はその提案に少し考え、頷いた。
「そうだね、せっかくだからもうちょっと楽しもうかな!」
私たちは再び市場を巡り、リオの話を聞きながらあちこち歩き回った。
果実飴や焼き菓子、珍しい布地や可愛いアクセサリー、どれもが目を引くものばかり。
お兄ちゃんは私が興味を示すたびに、笑顔でいろいろな説明をしてくれた。
私はやっぱり薬草がきになって、また市場の薬草を探し始めた。
薬草屋も市場に何か出店しているかもしれない。
そう思って探していると、突然リオがうしろから声をかけてきた。
「ララ、これ。」
お兄ちゃんが私に差し出したのは、いちごの果実飴だった。真っ赤ないちごがいくつも連なって、飴でコーティングされている。
「わあ、ありがとう!とってもきれいだわ!!すごくおいしそう!」
私はすぐに飴に飛びついた。
いちごがパリパリの飴で包まれていて、見た目も可愛いし、香りも食欲をそそる。
さっそく一口かじると、甘酸っぱい果汁が口いっぱいに広がって、思わず笑顔がこぼれた。
「楽しそうだな。」
私が飴を夢中で食べていると、お兄ちゃんが優しく微笑んで私を見つめていた。
「じろじろ見ないでよ、お兄ちゃん。食べにくいよ。」
と苦言を呈したが、飴のおいしさには勝てなくて、もう一口かじる。
「いちごって、やっぱり最高~。」
リオはそんな私を子猫でも見つめるような顔をして見つめながら、再び私に提案した。
「さあ、今日はまだ時間がたっぷりある。市場を出て、メインストリートのお店を見に行かないか?そっちの方に薬草屋もあるみたいだし。」
その提案に、私は頷いた。
「うん、それがいい!市場を出て、薬草屋を探しながら、
せっかくだからカフェや可愛いお店に寄ってみたいわ。
本屋さんにも行ってみたいわ!珍しい薬草の本とかあるかもしれなし。」
と言って、広い市場を抜け、お店が立ち並ぶ大通りへと足を踏み入れた。
ーーーーーー
リオは事前にリサーチしておいたカフェへララを連れて行くことに決めた。
そこは今ラウスで評判のマカロン専門店で、カラフルな見た目と繊細な甘さが評判の店だった。
ララが喜ぶ姿を想像しながら、リオは店に向かった。
店に入ると、ララはその瞬間から目を輝かせていた。
ショーケースに並ぶ色鮮やかなマカロンの数々を見て、ララはもう夢中だ。
「わあ!こんなにカラフルなお菓子、初めて見た!どれも美味しそうでとってもかわいい!」
ララはショーケースの前でどれを選ぼうか迷い、リオは微笑みながら彼女に声をかけた。
「好きなのを全部頼んでいいよ。ここで選んだお菓子は、奥のカフェスペースでお茶と一緒に食べられるから、そこで少し休もう。」
ララは嬉しそうにマカロンを選び、二人で席に着いた。
お茶を飲みながら、ララは一口マカロンを食べた瞬間、その甘さと絶妙なふわふわ感に感激した。
「これ、すごく美味しい!口の中でふわっと溶けちゃう!」
ララが無邪気に喜ぶの姿見ると、胸は温かく満たされる。
ララが笑顔で楽しんでくれるだけで、この時間は十分に価値があるものだった。
こっそり店員に頼み、たくさんのマカロンをお土産として包んでもらう。
家に帰って、ララとのお茶の時間に食べよう。また家でもこのララの笑顔を見られると思うと、心が躍った。
お茶を楽しんでいると、ララは突然店員に声をかけた。
「すみません、このあたりに薬草屋はありますか?」
店員は少し驚いたそぶりを見せたが、丁寧に答えてくれ、ララは手早くメモを取り始めた。
結局ララは薬草が一番なんだなと少し悲しい気持ちになったが、
ララの夢中になっている姿もかわいく、いとおしくあった。
「お兄ちゃん、この近くにあるんだって!行ってみようよ!」
ララは目を輝かせながらリオに提案した。その瞳はいつも以上にきらきらと輝いていた。
「本当に…ララは反則だなあ。」
リオは微笑みながら残りのお茶を飲み干し、立ち上がった。
「わかった、じゃあ行ってみようか。」
薬草屋に着くと、ララは店の中に並ぶ薬草に目を輝かせていた。
ララは一つ一つじっくりと見て回り、特に公爵領では見かけない珍しい薬草に見入っていた。
「これは、ザイルの茎からとれる切り傷に効く薬だわ。それに、これはワイズの葉からとれる胃薬、吐き気止めもある…。」
ララが次々に薬草を指さして説明していると、店の奥から店主が出てきた。
「お嬢ちゃん、よく知っているね。薬草師を目指しているのかい?」
「ううん。そういうわけじゃなくて、おばあちゃんがたくさん薬草の知識について教えてくれて、それから本で知識を得たの。」
店主は興味深そうに頷きながら、ララを見つめた。
「へえ、それは珍しいな。お客さん、見慣れないけど、今日は何か用があってきたのかい?」
ララは勢いよく答えた。
「のどの痛みにすごく効くと言われている『マルズの花』を探しているんです。
ラーヌ地方にしか生息しないといわている花を見てみたくて。」
しかし、店主は申し訳なさそうに顔をしかめた。
「ああ、それか…。残念だが、ここ一年ほどは入荷がないんだよ。
私も探しに行ったが、なかなか咲いてなくてね。
他の店も同じ感じだと聞いた。
最近そもそも咲く数が減っていて、咲いてもすぐに枯れてしまうらしいんだ。ごめんな、嬢ちゃん。」
その言葉に、ララの顔は一気に沈んでしまった。
リオはそんな彼女の姿を見て、胸が痛んだ。何とかして彼女の望みを叶えたかった。
「他の薬草屋も見てみよう。あと店主さん「探しに行った」とおしゃってましたが、この花が咲いている場所を教えていただけませんか?もちろん、情報に対するお支払いはさせていただきます。」
真剣に頼むと、店主は少し困った顔をしてため息をついた。
「薬草の生える場所は、薬草師にとっての大事な秘密だが…。」
それでも、ララの悲しそうで今にも泣きだしそうな顔と、リオの切実な態度、それから二人の身なりを見て、店主はもう一度ため息をつき、ついに折れた。
「わかったよ、教えるから泣かないでくれ。」
店主は裏から地図を取り出し、マルズの花が咲いていそうな場所に印をつけてくれた。それをしっかりとメモに書き留め、深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。見つかったら、必ず報告に戻ってきます。」
そう言って、普段なら使わないような金貨の束を、カウンターにそっと乗せた。店主は驚きの表情を隠せず、ただ呆然と立ち尽くしていた。
「一体何者なんだ…?」
ララはすでに興奮した様子で店を出て、早く探しに行こうと急かしてきた。リオはそんなララを追いかけながら、優しい笑みを浮かべていた。
「その前に、まずは他の薬草店も見てみようか。」
ララは頷いてくれたので、(ララに内緒で)事前に調べてあった、薬草屋を数軒回ることにした。
公爵様は今日も元気に妹を溺愛中 @toudounoa
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