山育ちのお転婆お嬢様

朝の陽射しが庭に差し込み、


いつものように私はビニールハウスの中で土をいじっていた。


手にはスコップ、そばには鉢に入った薬草の苗。


おばあちゃんが昔教えてくれた、この薬草は風邪や高熱にとてもよく効くんだ。




「おばあちゃんが言ってた通り、ここに植えたら、きっともっと元気に育つはずだよね…」




私は小さなスコップを使って、苗を慎重に植えていく。


山のふもとの小さな村で祖母と母と暮らしてた家から公爵家に引き取られて以来、


7年ほどこの屋敷にいるが、ここのビニールハウスが私の一番のお気に入りの場所だ。


お母さんとおばあちゃんがいた頃のことを思い出しながら薬草を育ててると安心する。


しかし、この大好きなお気に入りの場所に長くいるとだいたい専属メイドのミイが目をキっとさせてやってくる。


今日も今まさに庭からこちらに向かってきているのが見える。


私を探しにきてレッスンに連れ戻そうとしているのだろう。






「ララ様!またこんなところで…。お嬢様にはもっと社交のレッスンやダンスの稽古に力を入れていただかないといけませんのに!」


ミイはいつもそう言うけど、私はどうしても薬草の方が大事に思えてしまう。


みんな風邪とか高熱になったら大変だし、それを治せる薬草を育てられたら、


みんなを助けられるんじゃないかなって思ってる。


だけど、今日もミイは私の話に聞く耳を持たない。


「でも、これをちゃんと育てたら、みんながもし風邪をひいてもすぐ治るかもしれないでしょ?それってレッスンなんかよりもずっと大事なことじゃない?」






ミイはため息をついて、私をじっと見つめている。


もうあきらめたようなそんな目でもあるような気もする。


「そんなことより、明日のピアノのレッスンや舞踏会のことを考えてください。お嬢様らしい振る舞いをしていただかないと、将来困るのはララ様ですよ。」


「ミイが私のことを思っていってくれるのはわかるけど、みんなの病気が治せるなら、ピアノなんかよりこっちが大事でしょ!それに私、舞踏会なんか行きたくないし、私の下手なピアノを演奏する機会なんてあると思わないわ!」


ミイはまたいつものように眉をひそめて、やれやれといったふうにため息をついてる。私の専属メイドになったばかりに苦労をかけて申し訳ない。このような会話はもう日常茶飯事なのだ。その時、またいつものように、のんびりした声が庭の入り口から聞こえてきた。






「またやってるな、ミイすまないな~」


お兄ちゃんの声だ。


ミイやレッスンの先生と問題が起こるとだいたいお兄ちゃんが入ってきて何とかしてくれる。


「お前、またメイドを困らせて。令嬢らしくしなさいってお父様にも言われてるだろ?」


お兄ちゃんが近づいてくるのでむすっとしながら振りかえる。


「だって、この薬草、高熱にすごく効くんだよ!おばあちゃんが言ってたの。でも山の中で見つけられなかったから、自分でたくさん育ててみたいの。お兄ちゃんが高熱を出しても、この薬草があればきっとすぐ治るよ」


お兄ちゃんは一瞬驚いた顔をしたけど、すぐににこにこした顔に戻った。


というかお兄ちゃんが、私がこうやって薬草を育てるのを見てると、


ちょっと嬉しそうなのはなぜなんだろう?


怒りに来てるのか、応援しに来ているのかよくわからない。






「まあ、風邪に効くってのはいいことかもな。


でも、メイドの言う通り、少しは社交やマナーも大事だぞ。うちは公爵家なんだから。」


「まだそんなこと考えたくないよ!私には今、この薬草を育てることが大事で楽しいの。


それに公爵家なのはお兄ちゃんでしょ。


私は山育ちのなんちゃって令嬢なんだから適当に嫁けばいいんだよ。」


というと、お兄ちゃんの顔が曇った。


まあいい、私はこの薬草を正しく植えて元気に育て上げるのだ。


お兄ちゃんは一瞬顔を伏せたが、顔を上げると今度はぎこちなく笑いながら、私の頭を軽く撫でてきた。


私はお兄ちゃんに頭を撫でられながらも知らぬ存ぜぬで薬草の植える場所を見定める。


早く残りの苗の植える場所を決めなければ。






「お前は本当に頑固だな。メイド長とお父様には俺から話しておくから、薬草のことは好きにやれ。ただし、レッスンもちゃんとやるんだぞ。」


私は目を輝かせて、苗をそばに優しく置いてから、


「本当!?ありがとう、お兄ちゃん!お兄ちゃんだいすき!」


と言って、お兄ちゃんに抱き着いた。お兄ちゃんは一歩後ろに後ずさりしながら私を不器用に抱きしめ返してきたが、顔はなぜか真っ赤でうつむき加減だった。私の体重が重くてささえるのが大変だったんだろうか?最近食べ過ぎていた自覚はある。


「これくらい…別に。ちゃんとやるんだぞ。」


と手で顔を隠しながらお兄ちゃんは足早に去っていった。






何だったのかよくわからないが、これでミイにもとやかく言われず一週間くらいは薬草に集中できる。私はそう思うと心を踊らずにはいられなかった。

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