第3話

今日は魔法の基礎理論と基礎練習の日であり、


彼がどの程度魔法が使えるのか、どんな力を持っているのかは分からずじまいで昼休みとなった。


(簡単な基礎魔法は難なく使っていたが)彼は授業中も目立つことなく静かに過ごしており、昼休みになるとその端正な顔立ちと謎めいた雰囲気から、女子生徒たちが彼の周りに引き寄せられていった。






「カイル君、どんな本読んでるの?」


「ねえ、一緒にお昼食べない?」


女子生徒たちは彼に話しかけるが、カイルはまったく動じることなく、


たまにうなずいたり他愛ない返事をする以外は、静かに本を読み続けている。


その無関心さが逆に彼の神秘性を増しているようで、ますます彼に惹かれる女子生徒たちは増えていくようだった。






私はカイルのことは多少気になったが、彼に巻き込まれて注目を浴びるのはごめんだったので、


いつものように一人で図書館で過ごすことにした。


図書館は学園の森の始まりにあり、そこから続く小道を抜けると、


静かな湖が広がっている。その湖のほとりはとても落ち着く場所で、


私はそこで図書館で借りた本を読むのが日課になっていた。






「カイル、やっぱり静かで不思議な雰囲気の人だよね。」


「そうだよね、でも全然話してくれないんだよね。」


女子生徒たちの会話が背中に響く中、私はカイルの存在を意識しつつも、自分のリズムを崩さないように図書館へと向かった。






湖のほとりに着くと、太陽の光が木々の間から柔らかく差し込んでいた。


私はいつものベンチに腰を下ろし、持ってきた本をだす。


ここでうとうとしながら本を読むのが一番心が休まるのだ。


王宮のでこんなことしてたら「お肌が!」とか


「誰に見られているかわからないのだから姿勢を」とか


言われてしまううが、ここではそんな小言を言うばあやや先生もいない。腕をぐーっと伸ばして伸びをして、私は本に集中する準備をした。




「ドーーーーーーン!!!!!!!」




しかし、その静寂は爆音によって突如に終了した。


森の奥から何かが近づいてくる気配を感じたのだ。


私は本を閉じ、身構える。


すると、茂みの中から現れたのは、巨大な蛇の形をした魔物だった。






「どうして、学園に…?」私は思わず声に出した。


王国内部には結界が張られており、よほどのことがない限りは魔物は侵入できない。


それはこの学園でも同じことで外部から入ってくる可能性はなく


あるとすれば、上級生の実技試験用に一時的に保管されている魔物が逃げ出した、ということだろう。


しかし、通常は厳重な管理のもとで檻に閉じ込められている。


それが、どうしてこの森に現れるのだろう。


しかも、目の前の魔物は明らかに実技試験で使われる低級なものとは違い、


異様なほどに強力な魔力を纏っていた。




私は冷静に、魔物に対して防御の魔法を展開した。


王女として幼少期から魔法の訓練を受けてきた私にとって、これほどの脅威に怯えることはない。


だが、魔物の動きは予想以上に速く、私の防御魔法を突破して突進してきた。




「くっ…!」私は咄嗟に次の魔法を準備しようとしたが、その時、背後から警護者たちが現れた。


「リリス様、下がってください!」一人の警護者が叫び、魔物に向かって攻撃魔法を放つ。


彼らは私の正体を知る数少ない存在であり、


王宮から派遣された精鋭たちで見つからないように私の護衛をしているのだ。




だが、魔物はその魔法攻撃をものともせず、さらにこちらに迫ってくる。


警護者たちは次々に魔法を放つが、魔物は全くひるむことなく、


まるで暴走しているかのように私たちに襲いかかってきた。




「リリス様、今すぐお逃げください!」警護者が必死に叫ぶ。


私は一瞬の躊躇もなく次は攻撃魔法を出そうと思い杖を構えた、その瞬間、何かが起こった。




突然、目の前の魔物が、まるで幻だったかのように消えたのだ。


私も警護者たちも、一瞬何が起こったのかまったく理解できなかった。


まるで風が吹き抜けるように、魔物は跡形もなく姿を消し、その場には何の痕跡も残っていなかった。




「どういうことだ…?」一人の警護者が戸惑った声を漏らした。


「魔物が消えた…?」もう一人が呆然と呟いた。




私たちが何が起こったのか理解できずにいると、急に警護者の一人が走ってきて叫んだ。


「リリス様、あの魔物、元の檻に戻っているようです!」


「檻に戻った…?一体誰が…?」私はますます困惑した。


魔物は元の檻に戻っていた。


しかし、どうやって、誰がそれをしたのか、私も警護者たちも全く分からなかった。


魔法は発動すると痕跡が残るが、その魔力の痕跡すら感じ取れなかったのだ。


警護の者と私が唖然としていると、騒ぎを聞きつけた学園の先生や生徒たちが駆け寄ってきた。


警護の者たちは消え、私は学園の先生たちに事の次第を話した。


学園の中の映像は基本的には映像魔法で記録されているが、一般の先生や警備のものには見れないので、あとは学園長と理事会が事の次第を精査するだろう。


それでも私の専属精鋭部隊が魔力を探知できなかったのだから、彼らにもそれはわからないはずだ。


しかしなぜ魔物が檻からでてしまったのか、狂暴化はなぜ起こったのかは報告してくれるであろう。






その日の夜、私は王宮に戻り、師であるザインにこの出来事を報告した。


ザインは私の話をじっくりと聞き、しばらく考え込んだ。


「それは、それができるとしたら、古の魔法しかないのお」


ザインの言葉に、私は驚いて顔を上げた。


「古の魔法…?」


その言葉に聞きおぼえはあったが、まさか今の時代に使える者がいるとは思っていなかった。


「古の魔法は、今ではほとんど失われた術式じゃ。使えるものはいないはずじゃ。だが、伝承によれば、それは空間を自在に操る力を持つ。空間魔法を使えば物体や生物を瞬時に別の場所へ転移させることができる。今回のように、魔物を一瞬で檻に戻すことも、古の魔法なら不可能ではないじゃろう。」






「そんな…、転移魔法はこの国にもあるけれど、魔法石や多くの魔法使いが必要な大規模な術式で時間もかかる。それを一人で、痕跡を残さず、しかも一瞬で…?」


私は混乱しながらも問いかけた。


「そうじゃ。現代の転移魔法とはまったく別物じゃ。一瞬で物を移動させることなど、通常の魔法では不可能じゃ。しかし、古の魔法ならば、それができるのじゃ。」


ザインは重々しく頷いた。






「じゃあ、あの魔物を転移させたのは…誰が?」


私は再び問いかけたが、ザインは首を横に振った。


「それは分からない。ただ、この学園内に古の魔法を使える者がいるとしたら、それは極めて危険な存在じゃ。リリス、お前も気をつけるんじゃぞ。」


 




ザインの忠告に私は頷きながらも、頭の中にはある人物の顔が浮かんでいた。転校生のカイル。彼のオーラが全く見えないこと、そしてどこか普通ではないその存在感。彼が古の魔法に関係しているのではないか、という疑念が私の心を支配していた。


 


 


「ザイン、古の魔法に、オーラを完全になくす魔法とかはある?」


「ふむ…それは聞いたことがないが、調べてみることにするかの。でも古の魔法でなくてもそれは可能じゃぞ。」


「え?」


「現に今わしが姫様のオーラの色を変えているじゃろう。なくすことも可能じゃよ。少々疲れるがの。ほれ。」


という言葉と同時に私のオーラは消え去った。なんだかいつもあるものがなくなるのは居心地わるく、むずがゆいきがする。いやそれどころじゃなく、私のオーラはなくなっていた。


「実用的な魔法ではないから、使うものも知ってるものもほぼいないじゃろうが、できることはできるんじゃよ。」


といってザインは笑った。


「私にも!私にも教えて!。」


「姫様がそのように前のめりになって魔法を教えることをせがむのは何年ぶりかのお。わかった。教えるから、ほいっと。」


といってザインは杖から本を出した。


「とりあえずこれを読みなされ。読んだらたぶん教えなくても姫様ならつかえるじゃろう。」


と言われ、本を受け取った。






ザインの部屋から自室への帰り、私は古の魔法について思いをはせていた。他にどんな魔法が使えるのだろう。やはり一回調べてみよう。と私は決心し、自室へと帰った。


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魔法王国の王女様は元敵国の天才王子に翻弄される @toudounoa

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