第46話 かささぎの反乱

「可愛いものですね、体力も底を尽いた頃に仕留めてあげましょう」

「ひえーっ!」


 鵲に梅の花を突っつかれ、ついに一つ花が散る。


「おやおや、梅の花全部散らされてしまいますよ? 幾つ分あなたを好きにできるでしょうね」

「か、鵲ちゃんをけしかけるのはアリなんですか!?」


 徐福さんは再び画面通話を開く。

 パフェスプーンを咥えた紫乃さんが手で丸を作っている。


「紫乃さんっ! ちょ、ちょっとひどすぎません!?」

「落ち着け、楓ならなんとかなる。冷静になれ」


 さすがに心配になってきたのか、紫乃さんの声音が先ほどより気遣わしげになった。

 徐福さんが自撮りの要領で私と自分を映してピースする。


「ふふふ、中継されながら楓さんを好きにするのも乙なものですね。さあ大人ターレン、目をそらさないでくださいね」

「くっ……! 早くなんとかしなさい、楓!」

「この状況作ったの、紫乃さんですよね!?」

「それもそうだが楓には早く強くなってほしいんだ、頑張れ」

「そ、そう言われると頑張るしか、ない……ッ!」


 私も腕を払ったり、神楽鈴で応戦したりするも、安定感のない場所で四方からの攻撃、なかなかに辛い。

 楽しそうに徐福さんは眺めている。


「も、もー……!」


 私ははっと気づいた。そして鵲さんたちを見る。


「あの! 鵲さん! あなた方が花を散らしてますよね! ということは私が言うこと聞く相手は皆さんですよね!」

「えっ」


 茫然とする徐福さん。そしてカチカチとくちばしを鳴らして同意を示す鵲さん。


「わかりました! 鵲さんたちのお願い事はなんですか!?」


 カチカチと鳴いてくる鵲さんたち。

 鳴き声はカチカチのままだけど、意味がはっきり理解できた。


「なになに……福岡に渡った親族と会いたい? わかりました! じゃあ一次的にでも私の鵲になってください!」

「カチカチ」

「契約完了です」

「う、噓でしょう!?」


 徐福さんが慌てた声を出す。

 スピーカー越しに紫乃さんが声をあげて笑うのが聞こえた。


「はははは、確かに今のやり方なら、言うこと聞いてやる相手は鵲だな。あはははは」

「う、うるさいですね、もう!」


 徐福さんはスマートフォンを袖にしまい、私に向かって扇を構える。


「くっ……! かくなる上は、私の方術で」

「鵲さん! 援護を!」

「カチカチッ」


 鵲さんたちが容赦なくばさばさと徐福さんに襲いかかる。


「うわっ、薄情ですよあなたたちっ! だ、誰が本来の主人あるじだと……っ!」

「カチカチ」

「『福岡行きたかーって何度でん言っとっとに、いっちょん連れていってくれんとが悪かとですー』『せっかく来たけんがしばらく遊んでいきますー』って言ってますよ。ずっと力になって貰ってるならもっと大事にしてあげましょうよ」


 私は鵲さんたちが作ってくれている隙を利用して、はやかけんを手にする。

 霊力が溜まった高ぶりを感じる。


「ああっ、五色布がッ!」


 徐福さんの髪から五色布を引き抜いて、鵲さんが私に渡してくれる。


「ふふ……それでは、覚悟してください、徐福さん!」


 私は両手ではやかけんを構え、徐福さんに向けた。


「はやかけんビームッ!」

「うわーっ!」


 今持てる限りの最大出力で発射されたビームは、美しい弧を描いて徐福さんを吹っ飛ばす。

 鵲さんたちが翻って消える。すると、私のはやかけんケースに鵲型のストラップが追加された。ころんとした鵲さん六連の勾玉風の石と、先端についた有田焼の陶器ビーズだ。


「可愛い」


 なるほど、徐福さんはこうやって鵲さんたちを持ち歩いていたのか。

 納得しながら私は五色布を神楽鈴の下にくくりつける。現状三本。残り二本だ。


「ダウジングくん以外の使い方まだわからないから、終わったら確かめないと……」


 私は急に気が抜けた感じがして、船の上でふうと溜息をついた。


「さて、ここからどうしようかな……」

「楓ちゃん力すっからかんじゃん」


 間を置かず、海からザバッと出てきたのはいつもの人魚さんたちだ。


「ぎゃー!」

「大丈夫大丈夫、私ら別に攻めるつもりはないから」

「楓ちゃんが力なくなってると思うから、回復方法を教えてやってくれって紫乃さんに頼まれたんだ」

「紫乃さんに……?」

「紫乃さん褒めてたよ、自分の力で徐福さんに勝ってえらいぞって」

「えへへ、それは嬉しいなあ」


 照れて頭をかく私に、彼女たちはぱちぱちと拍手をしてくれた。

 水面から透けて見える下半身はみんな魚で、気持ちよさそうに泳いでる。カフェで見るときも綺麗だけど、海で見ると蠱惑的な魅力がさらに増しているように感じる。


「んじゃあ楓ちゃん、神楽鈴持って立ち上がって」

「はい」

「そしてこのDVDを観て」


 ざばりと、防水DVDプレーヤーが水面から掲げられる。お風呂用に売られているタイプのものだ。再生ボタンが押されると、軽快な女性ヴォーカルの曲が流れ始めた。

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