科学の世界へ
「この魔法陣は貧弱すぎます……こちらは強力ですが放射性がありパスの貫通には不向き……これは……ただの落書きですね」
フィーコは、所狭しと並べられた呪具を矢継ぎ早に物色しては放り投げる。鎧、宝玉、置時計、巻物……だがフィーコが理想とするアイテムにはなかなか巡り会えない。
「呪具ってあんなに粗雑に扱って大丈夫なのか?」
「さあ? 帝国一の秀才を信じる他ないですわ」
見守るピスケとワレーシャの会話を聞いて、フィーコが額縁の裏を眺めながら言う。
「呪具と言っても、原理は召喚の指輪と同じです。人間の魔力の代わりに、物に込められた魔力が何らかの条件で発動して幻獣の力を呼び起こすのです。その発動条件も魔法陣を見ればわかります。青く発光していない限りは安全ですよ」
「フィーコこれも鑑定してよ! めっちゃ強そうじゃない?」
倉庫の奥から、いかつい兜を被ったカリラが現れる。兜の額に埋め込まれた宝玉は、ターコイズの如く真っ青に光っている。
「そうそう、こうやって光っているともう呪いが発動していますね。装備すると発動するタイプの呪具を敵国への戦利品に紛れ込ませるのは昔からよくある手法で……」
「解説してる場合か! バカ!」
ピスケがフィーコを遮ると、ワレーシャはカリラの兜を指差す。
「カリラ、それを早く脱ぎなさい!」
「うーん、それが脱げなくてさー」
兜を外そうと苦戦するカリラの背後に、首なしの鎧がスッと現れる。鎧は大剣を振り上げている。
ピスケとワレーシャが口々に叫ぶ。
「カリラ、後ろ!」
「乙女の着替え中だぞ。覗くなよ」
カリラは振り向きざまに、ダガー状にしたカマイタチを、首無しの鎧の隙間に差し込んだ。そこから血が吹き出し、鎧はよろめく。
「空っぽかと思ったら中身あんじゃん。じゃあ弱点丸わかりだね」
カリラはカマイタチを引き抜くと槍形態にし、軽く飛び上がる。そして、首の上から一気に突き刺す。
「ビンゴ!」
真上から串刺しになった鎧は、声もなくビクビクと震える。カリラが槍を引き抜くと、そのままガラガラと倒れ込んだ。
フィーコが歩み寄った。
「これはデュラハンですね……御伽話では呪具の定番ですが、この時代にお目にかかることがあるとは」
「あ、脱げるようになった!」
カリラは、脱ぎ去った兜を床に放り投げる。フィーコの足元に、兜が転がる。フィーコはそれを拾い上げると、内側を覗き込む。
「この魔法陣は……これなら使えそうです! カリラ、お手柄です!」
「見る目あるでしょ? 質屋でもやろうかな」
「ただの偶然だろ……」
ピスケが突っ込む。
「まあ結果オーライですわ。フィーコ、さっさとパスとやらを開いてくださいまし」
ワレーシャが呼びかけるが、フィーコから返事がない。フィーコは既に、兜を手に取ったまま詠唱を始めていた。3人は静かにフィーコを見守る。
しばらくすると、兜の内側が青く発光し始める。そして、フィーコの隣に人の大きさほどの魔法陣が発現する。魔法陣は目が眩まんばかりの白い光を発している。
「これが……パスです」
フィーコはスッと立ち上がり、3人に振り向く。
「ドキドキします……一緒に来てくれますか」
フィーコが少し心細げに微笑むと、3人はフィーコの元に歩み寄る。
「早く行こいこ! カガクって美味しいかな?」
「陛下の命に背くことになるのは気がかりだが……ここまで来たら協力せざるを得ないな」
「帰ったら、とびっきりの論文を書いてくださいまし。あなたに魔法庁長官になってもらわなくては、わたくしの野望も果たせませんわ」
3人がめいめいに賛同すると、フィーコは安心したように笑顔を向けた。
「ありがとう皆……さあ行きましょう、科学の世界へ」
4人は手をつなぐと、白い光の中へ、1人、また1人と吸い込まれていった。4人が消えた後も、その光芒は燦然と輝いていた。
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