『貯金預金死刑法』

やましん(テンパー)

『貯金預金死刑法』

 『これは、フィクションです。少し、内容に議論の余地がありますが、寛容に見てくださるよう、お願い致します。』




 『貯金預金死刑法』は、『国民の貯金預金類に関する取り扱いに関する法律における死刑の執行に関する法律』というものの、略称である。

 

 まあ、簡単に言うと、貯金も預金も失くなったものは、例外を除いて、死刑に処する、ということがらである。


 例外とは、社会に著しい貢献があったもの。とか、一定以上の不動産等の資産があるもの。65歳未満のもの。とか、その才能がこの先社会に貢献する可能性が高いもの。決められた範囲の病気や怪我等のやむおえない理由があるもの、その他、裁判所が、社会貢献可能性等の事情を勘案して、例外認定をしたもの。


 となっている。


 つまり、真面目に働いていても、例外に当たらなければ、貯金預金が無くなって、他の資産がなく、65歳を越えていれば、裁判所の例外認定がなされない限り、死刑に処する、ということである。


 ただし、処刑方法は、犯罪による場合とは異なり、通常の絞首刑ではなく、薬殺刑である。また、履歴上、刑罰には当たらないとされた。


 苦痛はないらしい。


 困ったことに、気がついたらぼくは、こいつに当たっていた。


 真面目一筋に働いた結果である。


 裁判所の例外認定審査は、自薦他薦、家庭からの推薦も可能である。たとえば、職場から、妻から、子孫から、とかである。推薦されれば、まず認められることが多い。


 しかし、ぼくは、職場からも、町内会からも、妻からも、推薦を拒否されたし、子孫はいない。


 理由は、良くわからないが、『いらない。』と、判断されたのである。


 さあ、困ったことになった。そこまで、嫌われているなんて、思わなかったのである。


 しかし、やはり、自治体も、処刑はしたくないというのが本音であるらしい。


 最近、処刑されたものが、恨んで幽霊になって出てくるという話が飛び交っていたのだ。


 『呪い殺された、預金貯金死刑執行担当』、というような、雑誌の記事も流行っていた。市長さんや幹部が自殺するような事例も多発していた。


 制度の廃止も野党からは提言されていたが、政府は拒否していた。


 必要性が高く、伝統もある、というのである。


 ぼくは、市役所から、例外認定を自薦するように指示されたのである。


 ひとつ、可能性が高かったのは、ぼくは、様々なくすりを飲んでいることである。ただし、今は、糖尿病とか軽いうつなどは、例外には当たらず、だから、決められた範囲の病気の判定は出ていなかったが、医師から診断書は取れるから、これは、すぐには例外には当たらないが、可能性はかなりあったのだ。市役所も、たぶん、前例からして、すぐに、例外判断が出るだろうと見ていた。


 ところが、なぜだか、そうならなかったのである。


 なぜだかが、分からなかった。



 処刑の日が来た。


 逃げるものもいたが、長い身体にチップが入っているから、まず間違いなく、逮捕される。そうしたら、こんどは、犯罪者として、絞首刑になる。


 ぼくは、『なぜ、例外にならなかったかの理由を開示するように要求』していたが、ついに、政府からは、返答がなかった。



 処刑は、専門の病棟で行われる。化けてでないように、専門の『お祓い官』も用意されていて、周囲には、幽霊の基とされるものをそとに出さないようにするための、精神バリヤー、が張り巡らされ、かなり入念にお祓いがあった。


 薬品も用意されていて、準備万端である。


 『では、言い残すことは?』

 

 と、訊かれたが、答えようがない。


 『では、注射開始します。スイッチは、5個あり、5者が、同時に押します。』


 こりゃ、だめだな。


 と、観念したとき、まるで、映画のように走り込んできたものがあった。


 『中止指示が出ましたあ!』


 ふうっ……………


 あたりに、いっぺんに、安堵感が広がった。


 『首相から、制度の停止命令が出されました。』


 『やれやれ。』


 みんな、しゃがみこんだ。


 『なにが起こったの?』


 と、薬殺官が尋ねた。


 『首相が、地球人類の残した法律を、人類が化けてでないように、全て守ると、いう既定方針を、ついに転換したらしい。つぎの選挙に勝てないと見たようだ。』


 『征服して、もう、150年だからな。』


 『ぼくの申し立てが認められなかった理由はなんでしょうか。』


 『ああ、それは、開示が拒否されたが、もう、いいだろう。おいらの仕事も終わりだから。あんたの亡くなったもと上司が、却下するようにと、担当責任者んとこに、さいさん、化けて出たらしい。けんかでもしましたか?』


 『はあ。たしかに、意見が合わなかった上司は、居ましたがねぇ。』


 ぼくたち、マジック星人は、幽霊になりやすいのである。



     👻






      🙇




    🐨🐨🐨🐨🐨












 


 

 

 


 


 


 


 


 


 


 

 


 


 


 

 

 


 


 


 


 

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『貯金預金死刑法』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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