桜舞う日の約束 ―― 未来からの贈り物

第5章: 新学期の予感

1. 新たな座席

それから時が過ぎて、2年生になった4月、新学期の始業式の朝。千紗は少し緊張した面持ちで教室に向かった。春休みの間に芽生えた浩介への想いを胸に秘めながら、新学年への期待と不安が入り混じる気持ちだった。

教室のドアを開けると、すでに多くのクラスメイトが集まっていた。千紗は安堵の表情を浮かべた。浩介の姿があったからだ。

「こーちゃん！」千紗は思わず声をかけた。

浩介が振り返り、笑顔で手を挙げた。「おう、千紗。同じクラスになれてよかったな」

千紗は頷きながら、心の中でほっとした。（良かった…こーちゃんと一緒のクラスで）

そのとき、後ろから声がかかる。

「千紗ちゃーん！浩介くーん！」

振り返ると、佳奈が元気よく手を振っていた。その隣には静かな様子で将人も立っていた。

「佳奈ちゃん！将人くん！」千紗は嬉しそうに二人に近づいた。「みんなで同じクラスになれたんだね」

4人は再会を喜び合ったが、そのときチャイムが鳴り、担任の先生が教室に入ってきた。

「はい、みなさん。席について下さい。新しい席順を発表します」

クラス中にざわめきが起こる。千紗は少し緊張しながら、自分の名前が呼ばれるのを待った。

「えーと、前から3列目の窓側…千紗さん」

千紗は指定された席に向かった。そして、浩介の名前が呼ばれるのを聞いた。

「後ろから2列目の廊下側…浩介君」

千紗は少し残念そうな表情を浮かべた。浩介との席が離れてしまったのだ。

佳奈は教室の中央あたり、将人は最後列の真ん中に座ることになった。

席が決まり、クラスが落ち着いたところで、担任の先生が前に立った。

「では、2年生の始業式を始めます。みなさん、新しい学年に向けて気持ちを新たにしましょう」

千紗は浩介の方を振り返った。彼も千紗を見ており、少し寂しそうな表情で微笑んだ。

（こーちゃんと離れてしまったけど…でも、同じクラスだし。頑張ろう）

千紗は心を引き締め、前を向いた。新しい学年、新しい席順。それは彼女たちの関係にどんな影響を与えるのだろうか。2年生の幕開けとともに、4人の心にも新たな期待と不安が芽生え始めていた。

2. 期待と不安

新学期が始まって2週間が過ぎたある日の昼休み、千紗たち4人は屋上で弁当を広げていた。春の穏やかな風が、彼らの周りを優しく包んでいる。

「ねえねえ、みんな聞いた？」佳奈が突然、興奮した様子で話し始めた。「修学旅行の計画が発表されたんだって！」

千紗の目が輝いた。「本当？ いつ行くの？」

「5月の下旬だそうよ！」佳奈は嬉しそうに答えた。「場所は京都！」

浩介も興味深そうに頷いた。「へぇ、京都か。しかも来月か。結構近いな」

将人は静かに付け加えた。「準備の時間はあまりないね。でも、楽しみだよ」

千紗はふと浩介の方を見た。席は離れてしまったが、こうして一緒に昼食を取れることが嬉しかった。（修学旅行か…こーちゃんと一緒に京都を歩けたらいいな）

「班分けはどうなるんだろう？」千紗が少し不安そうに尋ねた。

「それが気になるよね」佳奈も頷いた。「私たち、一緒の班になれるかな？」

将人が冷静に分析を始めた。「通常、修学旅行の班は男女別で構成されることが多いんだ。ただ、自由行動の時間には好きなグループで行動できる可能性が高いよ」

千紗と佳奈は少し安心したような表情を浮かべた。

浩介は前向きに言った。「そうだな。たとえ別々の班になっても、自由行動の時はできるだけ一緒に回ろう」

「うん！」千紗は浩介の言葉に元気づけられた。

佳奈は目を輝かせて言った。「私ね、絶対に金閣寺に行きたいの！」

「清水寺の舞台から飛び降りる…なんてのは冗談だけど、行ってみたいな」浩介が茶目っ気たっぷりに言った。

話が弾む中、千紗はふと考え込んだ。（修学旅行か…きっと特別な思い出になるんだろうな。でも…）

彼女の心の中には、期待と同時に小さな不安も芽生えていた。浩介との関係、佳奈の気持ち、そして自分の想い。全てが複雑に絡み合っている。

「千紗？ どうかしたか？」浩介の声に、千紗は我に返った。

「あ、ううん。なんでもない」千紗は微笑んで答えた。

昼休みが終わりに近づき、4人は教室へ戻る準備を始めた。

「よーし！ 修学旅行まで、あと1ヶ月ちょっと。しっかり準備しなきゃね！」佳奈が元気よく宣言した。

みんなで頷き合う中、千紗は心の中で誓った。（この修学旅行で、きっと何かが変わる。その時までに、私の気持ちもはっきりさせなきゃ）

教室に戻る途中、千紗は浩介の背中を見つめていた。席は離れていても、こうして一緒にいられる時間が大切だと感じていた。

新しい学年、そして間近に迫った特別な旅路。4人の心には期待と不安が入り混じっていたが、これからの日々に向けて、それぞれの思いを胸に秘めていた。

3. 準備の日々

修学旅行の発表から数日後、放課後の教室。千紗たち4人は他のクラスメイトたちと一緒に、修学旅行の説明会に参加していた。

「では、班分けについて説明します」担任の村上先生が声を上げた。「基本的に男女別の班編成となります。各班6人ずつで、クラスごとに4班ずつ作ります」

千紗と佳奈は顔を見合わせた。二人一緒の班になれる可能性が高そうだ。

「自由行動の時間は3〜4時間ほど設けられています」村上先生は続けた。「その間は班を超えて行動することも可能です。ただし、必ず4人以上のグループで行動してください」

浩介が千紗の方を見て、小さくウインクした。千紗は頬が熱くなるのを感じながら、微笑み返した。

説明会が終わると、4人は校庭に集まった。

「よかった！私たち、一緒の班になれそうだね」佳奈が千紗に声をかけた。

千紗も嬉しそうに頷いた。「うん！楽しみだね」

「俺たちは別の班か」浩介が少し残念そうに言った。「でも、自由行動の時は一緒に回れそうだな」

将人が静かに提案した。「自由行動の計画を立てておいた方がいいかもしれないね。限られた時間を有効に使うためにも」

「そうだね！」千紗は目を輝かせた。「みんなで行きたいところをリストアップしよう」

4人は早速、スマートフォンを取り出し、京都の観光スポットを調べ始めた。

「金閣寺は絶対に外せないわ！」佳奈が声を上げた。

「清水寺も行きたいな」浩介が付け加えた。

「二条城の歴史にも興味があるんだ」将人が静かに言った。

千紗は考え込みながら言った。「私は…嵐山の竹林を歩いてみたいな」

みんなで意見を出し合いながら、自由行動の計画を立てていく。その間、千紗は時折浩介の横顔を見つめていた。（修学旅行か…きっといい思い出になるはず）

「あ、そうだ」浩介が突然思い出したように言った。「修学旅行の前に、みんなで買い出しに行かない？必要なものとか、一緒に選びに行こうよ」

「いいね！」佳奈が賛成した。「日用品とか、お土産用のお菓子とか、一緒に選びに行こう！」

千紗も嬉しそうに頷いた。「うん、行こう！みんなで選ぶの、楽しそう」

将人も静かに同意した。「僕も賛成だよ。効率よく準備できそうだね」

4人は休日に買い物に行く約束をして、その日は解散した。

家に帰る途中、千紗は心の中で考えていた。（修学旅行…きっと特別な思い出になるはず。でも、その前に…）

彼女は浩介への想いを、どう伝えるべきか悩んでいた。修学旅行という特別な機会。その前に、自分の気持ちをはっきりさせたいという思いが強くなっていた。

春の柔らかな風が千紗の髪をなびかせる。彼女の心の中で、期待と不安が交錯していた。修学旅行まであと1ヶ月。その間に、きっと何かが変わるはずだ。そう信じながら、千紗は家路についた。