第3話 襲撃
「なんか変です……」
「何が?」
ゆめみを助け屋敷に戻った翌日の午前、昼食の用意をしていたゆめみが首を傾げていた。
「えっと……昨日買い出しに行った食材が減ってる気が…食べました?」
「食べてないよ…」
「え…おかしいなぁ」
「結界に誰かが引っかかった痕跡はないし気のせいじゃない?」
「うーん。それでも少ない気が…ストレージの中に入ってません?」
「ない」
生活系の基礎妖術の1つストレージ物を妖術空間に閉まっておける妖術だ。物を運ぶのにめちゃくちゃ便利だと思われるが消費する妖力のコスパがめちゃくちゃ悪い。重いものを運ぶ時はめちゃくちゃ助かるが買い物くらいなら普段は使わない。実際自分のストレージは現在空っぽである。
屋敷に侵入者が来たらわかるように屋敷に張り巡らせている結界にも俺とゆめみ以外の妖力反応はなかった。ゆめみの気のせいのような気がする。しっかりしているようで以外と抜けているし、昨日の事件で疲れているのだろう。そう考えながら新聞を開く。昨日のことは載っていない。夜叉一家は裏の組織故に新聞に載るようなことはないだろうとは思っていたが…問題は今回の件にエルキアや妖術師組合が介入してくるか…である。エルキア介入の可能性は限りなく低い。介入してくるとしたら妖術師組合を動かしてくるだろう。
「ふぅ…」
「………」
「気にしなくていいからね。ゆめみは悪くない」
「はい…」
ゆめみに聞こえる場所でため息を吐いてしまったことを反省しながらゆっくりお茶を呑む。とりあえず、情報収集しないとな…と考えていた矢先
「ゆめみ、結界に反応あり。普通に玄関で反応があるだけだから押し掛け商人の可能性もある。とりあえず俺が対応する。ゆめみは玄関の物陰に隠れてて」
「はい…」
ゆめみが玄関の物陰に隠れたのを確認してから玄関の扉を開けようとするとちょうど扉が叩かれた。タイミングよく扉が開き扉を叩いていた赤髪の青年が驚いた表情をする。赤髪の青年の他に10歳くらいのふわふわな茶髪の小柄な女の子と両目を閉じた青髪の青年が1歩下がった場所にいる。3人とも刀を所有している様子だった。いきなり襲ってこないところを見るとこちらが非合法な妖術師であることが断定されたわけではなさそうだ。とはいえ…面倒な客であることには変わらないようだが…彼らが身に纏う青と白の袴を見て心当たりはあった。
「突然の訪問失礼致します。私、新撰組の斎藤と申します」
その場に刀を丁寧に置きながら敵対する意思はないとアピールしているように見えるが、名乗りの後に間が開く。こちらの名乗りを待っているのだろうが、名乗る気は今のところない。面倒毎には関わりたくないからである。
新撰組…簡単に言うと革命軍のようなものだ。トップの棟梁の妖術により新撰組の者全員が妖術を扱える。もちろん、非合法。少数精鋭の武闘派集団。魔術師組合の師団を1個壊滅させ少し離れた場所にある港町を占拠し拠点としている。占拠といっても民間人に手を出すようなことはなく…むしろその町の住民からは感謝されており独立国家のような状況だ。いつエルキアから大軍が送られてくることか…関わっていいことなんかあるわけない。
「無礼」
こちらが黙って次の言葉を待っていると離れた場所で待機していた小柄な女の子が刀を抜いて猛スピードで迫ってきた。
「動くな」
残り2人に威嚇するのと同時にこちらに飛び出してこようとしていたゆめみに指示を出す。
「氷華:牙突」
「マルチブル:メタル:トリプル+マルチブル:ブースト:ダブル」
冷気を漂わせた刀の突きと鋼の如く硬くなった拳が激突する。激突した直後、もう一つ妖術を発動、ドッペルゲンガーの妖術で分身を作り、女の子を背後から取り押さえる。
「幼いのに洗練されたいい技だ。新撰組、噂には聞いている。刀に妖術を付与することで本来妖術師になれない者でも妖術を使うようにできていると聞くがこれがその刀か…」
取り押さえた女の子から刀を取り上げて初めて見た刀を観察する。
「さて、このままだと突然の来訪、襲撃を行いに来た…という認識になるが…」
刀を眺めながら動かずにこちらを観察している2人に声をかける。
「まずは謝罪を…こちらの小雪が失礼致しました。本日、こちらに伺った理由は昨日の一件についてです。先程、素晴らしい妖術を見せていただきましたが、昨日の一件、心当たりありますよね?」
「なんのことかわからないですね。厄介毎に関わるつもりはありません。さて…こちらの女の子の身柄と引き換えに契約を結んでいただきたい。要求は2つ。2度と私に関わらないこと。あなたたちが知っているこちらに関することを黙っていること。手荒な真似はしたくありません。契約をしていただいてお引き取り願いたい」
妖術師の契約は絶対だ。破れば呪われる。関わる気はないので追い払う方向で行くことにした。これで引いてくれるととても助かる。今やりとりしている斎藤と名乗る青年はどうとでもなるが…後ろで控えている青髪の青年はなかなか手強そうだ。
「我々はこの国を我々の手に取り戻したい。そのために力を貸して欲しい…」
「関わる気はない」
そう言いながら女の子を解放して女の子の刀を斎藤に渡し玄関のドアを閉める。契約は結ばなかったが、彼らがこちらと敵対する理由はない。だから、このまま無視してお引き取り願うことにした。
今日は出直しますと言い残して3人は去って行く。刀を返された女の子が騒いでいたが斎藤に引き摺られて帰っていった。
「りゅう様……」
「ゆめみ、よく動かないでいてくれたね。偉いよ」
安心した表情で抱きついてくるゆめみを受け止めて優しく声をかける。
さて、追い返したのはいいけど…どうしたものか…
「ゆめみ、今から訓練室に行くよ。ゆめみに本格的な妖術について、妖術師との戦い方について教える」
夜、夕飯を食べた後にゆめみに声をかける。やはりゆめみにはきちんと教えておいた方がいいと思った。できれば、ゆめみにはこんなことは教えたくなかったが、今後妖術師と関わる機会もありそうだし教えておかなければならない。ゆめみはお願いします。と言いついてくる。
「どうしましたか?」
「はぁ…ゆめみに教えるとか偉そうなことを言っておいて自分はかなり衰えたなぁって…」
まさか、ここまで気づかないとは…
「屋敷の周り包囲されてる。ゆめみ、さっきと同じように玄関で待機。すぐ逃げれるようにしといて」
ゆめみにそう言い残して先に玄関の外へ出た。
「50…妖術師組合の師団か…見せしめでもしたいのかな……愚かな」
たった1師団で討ち取れると思われたか…面倒毎には関わりたくなかったがもう関わってしまった。なら奴らに見せつけよう。伝説と呼ばれた力を…
「ゆめみ、よく見とくように。伝説と言われた妖術師の戦いを…」
妖術師の弟子 りゅう @cu180401
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