第2話 対妖術師

「さて、メイド服を着て肩くらいまでの黒髪ポニーテールの女の子、知らない?」

 ゆめみが居なくなって数時間後、近場のスラム街を根城にしていた暴力団に殴り込みを行い、暴力団を壊滅させたあと組長と呼ばれていたやつをとっ捕まえて問い詰める。

「し、知らねえよ…俺らは人攫いはしてねえし…」

「あっそ。じゃあ、人攫いしてそうな奴に心辺りは?それも相当な手練れの…」

「い、いる…夜叉一家だ……奴ら非合法な妖術師抱え込んで勢力拡大してやがる……楽市楽座って闇競売で女子供売り捌いてるって話も聞く……」

「へー。詳しく」

 妖術師、楽市楽座きっとそこにゆめみはいる。そう確信した。男から情報を引き出したが、時間がないことが分かった。急ぎ行動に移る。できれば目立ちたくはなかったがそんなこと言ってられない。



「ここは……」

 何が起こったかわからなかった。りゅう様と別れた直後、背後から誰かに触れられて身体が動かなくなったことだけは覚えているのだが……

「どうですか?かなりの上物でしょう。是非、この後の楽市楽座にて出品を…おや、目を覚ましましたか」

「ここは……」

 手枷と足枷で拘束されていることに気づき私は攫われたことに気がついた。りゅう様に迷惑かけてしまう。

「あなたはこの後商品として売られるんですよ。それまで大人しく眠って……」

 この男に触れられたらまずいと思いりゅう様に迷惑かけてしまうことを恐れながら私は妖術を使う。

「ブースト」

 強化系妖術の基礎である身体強化を行い手枷と足枷の鎖を破壊して男から離れる。

「ほう、妖術師…これは高く売れる」

 もう1人かなり良さそうな衣服を身につけた老人が立ち上がり私を品定めするような目で見てくる。

「代表が出るまでもありませんが…」

「いい。任せなさい」

 老人に言われ男は老人の背後へ退いた。もう妖術を使ってしまったし…派手に暴れて離脱しよう。そう考え私の背後の壁を破壊し瓦礫を蹴り飛ばす。そして自然系妖術で妖術の結晶を生み出し瓦礫の追い討ちで老人と男目掛けて発射した。

「ははは。生きのいいお嬢さんだ」

 正直、これで動けないくらいのダメージを与えれていると思っていた私は砂埃の中から聞こえる老人の余裕そうな声を聞いて恐怖した。私じゃ勝てないと悟り私はその場から全力で逃げ出した。

「逃さんよ」

 全速力で逃げたはずなのにすぐ背後から聞こえる声に恐怖する。恐怖心を振り払うように背後に向けて回し蹴りを打ち込むがそこには誰もいなかった。

「どこを狙ってるのかな?」

 背後から再び声が聞こえる。何が起こっているのかわからない。相手がどこにいるのかもわからない。これが妖術師との戦い…嫌だ。怖い。勝てない。稽古とは全く違う。相手が何をしてくるのかもわからない。私に抵抗する手段は……

「っ……」

 逃げた先には先程の部屋にいた男が立ち塞がる。おそらく背後からは老人が迫ってきている。倒すしかない。やるしかない。怖い。けど立ち向かおうと決めて男に向かっていく。だが、男の元に辿り着く前に私は強い衝撃を受けて倒れ込む。

「ははは。鬼ごっこは楽しかったかな?今回の楽市楽座は滑り込みでこんな特上品が来るとは。妖術師用の拘束具をつけて絶対に逃さないように。大切な商品だから傷つけたり汚したり味見したりしないように」

「かしこまりました」

 意識が薄れていく中私は何も抵抗できなかった。

「りゅう様、助けて……」

 薄れゆく意識の中私は祈ることしかできなかった。




「さあ、それでは本日のメイン商品の紹介です」

 私が目を覚ますと私は手足を鎖で繋がれて大勢の人がいやらしい目で見つめるステージ上にいた。拘束を外そうと妖術を使うが壊せない。

「こちら最上級品につき3億からの落札となります。こちらの商品ただの上物の女ではなく妖術師となっております。奴隷用の首輪をつけ用心棒にするもよし、痛ぶるもよし、性的に扱うもよしお好きなようにご使用ください。さて、入札に入る前にこちらの商品の身体を隅々まで公開させていただきます」

 ステージ上でマイクを持つ派手な服を着た男が合図を出すと私の方へ何人かの男が近づいてくる。

「い、いや……」




 ゆめみがいなくなってから5時間後の午後8時楽市楽座の会場に俺は到着した。開始時間が8時であるので焦ってはいたが、あまり大事にはしたくないので正攻法でゆめみを取り返すつもりでいた。先程の暴力団から奪った参加証を提示して会場に入る。

 会場に入って少しするとゆめみがステージに運ばれてきた。すごく怯えた表情をしているが少し我慢して欲しい。すぐに助けるから。

 本当は今すぐ奴らをぶっ飛ばしてゆめみを助けたいところだが、奴らの裏にエルキアがあることを考えると手荒な真似はしたくなかった。

「あ、もういいや。考えるのやめた」

 ステージ上でゆめみに男たちが近づいて行くのを見て我慢できなくなった。


 怖くなって目を瞑った。怖い。怖い。助けて。と祈り続けた。しばらくしても何も起きなかったので私は恐る恐る目を開く。

 すると私の側で男が何人も倒れていた。

「あっ……」

 客席に立つりゅう様を見て私の目から涙が溢れた。そしてりゅう様は私の元まできて私を拘束していた拘束具を外してくれた。

「ゆめみ、大丈夫?怖かったよね」

「だ、大丈夫です。助けに来てくださってありがとうございます」

 私は泣きながらりゅう様に抱きついた。私を安心させるようにりゅう様は私を優しく抱きしめてくれた。もう大丈夫だよ。と優しく声をかけながら。

「妖術師用の拘束具なのにどうやって外したのかな。勝手なことをされたら困るのだが…」

 ステージで人が何人も倒れたのを見て客席に人は居なくなっていたはずだが、気づいたら客席にはこの楽市楽座の主人である老人と側近の男が座っていた。

「りゅう様、あの2人妖術師です…私、何されたかわからなくて……」

「まあ、そうだろうね。ゆめみには妖術師との戦い方を教えてないからしょうがないよ。ここは任せて下がってて…」

「はい…」

 りゅう様に言われて私はりゅう様の背後に下がる。きっと私がいても足手纏いになるだけだとりゅう様の雰囲気を見てわかった。普段の稽古の時とは全く違う。

「杖蛇…だっけ?数十年前に話題になった裏の妖術師がいたはずだけど……」

「ほう。ワシのことを知っているか。お主のような若僧にまでこの名が知れ渡っているとは光栄だ。ワシを喜ばせた褒美にワシの妖術を見せてやろう。そしてお主も商品として売り捌いてやる」

 りゅう様の背後から落ち着いて見てようやく老人の妖術が見えた。杖の先端が蛇のように代わりすごい速度でりゅう様に迫る.

「クローズ」

 りゅう様が妖術を発動すると印が現れ蛇はその中へ吸い込まれていく。

「何をした?」

 そう言いながら老人は杖の先端から何匹もの蛇を繰り出してきたが、りゅう様は目に見えない速度で全て躱して老人に迫る。

「夜叉様」

 老人の背後にいた側近の男が老人の前に立ちりゅう様の前に立ち塞がる。

「邪魔、お前に用はない。マルチブル:ブーストトリプル」

 りゅう様が妖術を発動する。私の知っているブーストのはずだが…りゅう様に宿る妖力が桁違いだった。りゅう様の拳が男に当たると男は勢いよく吹き飛んでいき壁に直撃した。

「な、なんだ貴様は……その桁違いの妖力はなんだ……」

 老人が恐れながらりゅう様に尋ねるがりゅう様は答えない。

「老人に手荒な真似をするのは気が引けるなぁ。あ、でも俺から見ればお前も十分餓鬼か。うちのゆめみを怖がらせてくれた分しっかり返させてもらう」

 りゅう様の拳が老人に直撃し老人も倒れ込む。

「さ、帰るか」

 服についた砂埃を払いながらりゅう様は笑顔で振り向く。その後、楽市楽座の競売にかけられていた人たちを解放して私とりゅう様は屋敷に帰る。


 これが、新たな物語のプロローグ

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