05 友達の定義


 「おうおう、天野!何女の子とイチャイチャしてんだ!?」


 ひまりと剣磨が話をしていた時、大声でそう言いながらこちらにに近づいてくる者が現れた。


 「ッ………和重。」


 剣磨はその声をかけてきた男を見ると嫌そうに顔を顰めて、そう呟いた。


 剣磨に和重と呼ばれた男はひまりや剣磨と同い年の小学生であった。

 茶髪で吊りあがった目をしており、両手をズボンのポケットにいれ高圧的な雰囲気を辺りに出していた。


 「この人誰?ケンマの友達?」


 ひまりが剣磨に聞く。


 しかしその質問に剣磨ではなく和重が答える。


 「俺の名前は土野 和重つちや かずしげ。天野とは幼稚園から互いに知っているが、友達かと言われたら、それは違うな。」


 そう言って、和重と名乗る自分は友達を否定した。


 「友達じゃないの?」


 「ああ。俺は、土野家っていう、何世代にも渡って魔法界で重職を担ってきた、いわゆるエリート家系の跡継ぎだ。その俺がどうしてこんな何の取り柄も無いビビりと友達になんかならなくちゃならないだ?」


 和重そう言うと、見下した目で剣磨を見る。


 「ッ!黙れ。」


 剣磨は強めの口調で反発するが、目は和重から晒し、下を向いていた。


 そんな剣磨を和重は嘲笑う。


 「ハハ!黙らせてみろよ……出来るもんなら。」


 和重は一歩前にでて、剣磨の前に立つ。


 「!」

 

 剣磨はそれだけで一歩後ずさった。

 和重はそんな研磨を鼻で笑う。


 「フン。まぁ、今日用があるのはお前じゃない……。用があるのは君だよ。」


 和重は剣磨からひまりに向き直る。


 和重は小学生とは思いないほど、ガタイがいい上に身長も高く、必然的にひまりを見下ろす形になった。もしこれが普通の女子だったら、怖くて体を震わしていただろう。


 「えっと、確かひまりちゃんだっけ?君、運がいいぜ。」


 和重はひまりに向き直るやいなや急にそんな事を言い出してきた。


 「運?」


 ひまりは頭に?マークを浮かべ、首を傾げる。


 和重はニヤリと笑うと言った。


 「ああ、運だ。なんたって、この俺のお目にかかったんだからな!」


 「……………」


 辺りに静寂が流れる。

 周りにいた子供達は何言ってんだコイツという目で和重を見る。

 しかし、当の本人はそんな周りの雰囲気に全く気付かず、そのまま言葉を続ける。


 「さっきも言ったが俺は土野家の跡継ぎ。

つまり、魔法界に大きな影響力をもつ由緒ある名家の時期当主だ。そして当然、そんな俺に寄ってくる奴らは星の数ほどいる。学生だけじゃないぜ。校長やどっかの企業のお偉いさん、果てには大物政治家までいる。」


 「ふむふむ。」


 自慢げに話す和重にひまりは相槌をうつ。


 「だが、そんな中から実際に俺と関係が持てるやつなんてほんの一握りだけだ。そいつらは俺の家と同じくらいの名家だったり、企業の社長の子息、資産家の御曹司。いわば、俺がつるむに値すると判断した奴らだ。そして、そんな奴らを集めて一つのグループを作っているんだ。ほら、クラスにもあるだろ?仲のいい奴らだけで集まるグループが。それの上流階級版みたいなやつだよ。」


 「ほうほう。」


 「でだ。俺はそのグループにひまりちゃんも入れてやるって言っているんだよ。これはスゲー事なんだぞ。大した家柄でもない奴が俺のグループに入るってのは。」


 和重はナチュラルにひまりの家柄をバカにする。

 その事を悪いとすら思っていない様であった。


 ひまりはその事には触れず、ただ相槌を続ける。


 「なるなる。」


 「勿論この誘い、断る訳ないよな?」


 そんな誘いにひまりは………


 「ごめんなさい、お断りします。」


 そう言って、ちょこんと頭を下げた。


 「……………」


 二度目の静寂が流れた。

 和重はまさか断られるとは思ってなかったのかニタァーとした笑顔を貼り付けたまま固まった。


 「プッ」


 会話を聞いていた一人の男の子は思わず吹き出した。


 和重はその男の子をひと睨みすると、その子は慌てて駆け足で逃げていった。


 和重はその男の子から目をひまりに向け直すと、


 「はは、悪い……。ちょっとなんて言ったのか分からなかった。もう一度言ってくれ。」


 断られた事を認められないのか、もう一度ひまりに聞き返す。


 「お断りしますと言いました。もういい?」


 しかし、ひまりの回答は変わらない。

 ひまりは話は終わったとばかりに、和重から離れようとする。


 「まぁ、まてよ。」


 だが聞き間違いじゃ無いことが分かっても和重もまだ食い下がらない。

 和重はひまりを一目見た瞬間から、完全に心を奪われていたのだ。


 「どうやら、ひまりちゃんは俺のグループに入るって事がどういう事か分かってないみたいだな。いいか?俺のグループはさっき言った通り上流階級の奴らばかりだ。だから、そのグループに入っておけばいろいろと特がある。」


 「特?」


 「そう!例えば、上流階級の人間だけしか招待されない社交パディーに参加出来たり、遊園地、映画館、スポーツセンターといったレジャー施設や高級ホテル、レストランに無料でいける。」


 「おーー。」


 和重の説明を聞いて、ひまりは驚きの声を出す。

 そんなひまりを見て和重は手応えを感じる。


 「な、凄いだろ?他にも一般人じゃ出来ない事が俺たちのグループに入ったらたくさん出来る。だからもう一度チャンスをやる。これを聞いても俺のグループに入らないっていうのか?こんなチャンス今後絶対になーー」


 「お断りします。」


 今度は和重が喋り終える前にひまりは断った。


 「……何で断るんだ。拒否する理由なんで何処にもないだろ?」


 和重は貼り付けていた笑みを消し、顔を歪め、高圧的な態度でひまりに聞く。


 それにひまりは全く怯む事なく返した。


 「理由は二つ。一つは君がケンマをバカにしたから。」


 「!」


 ひまりと和重のやりとりを横で黙って聞いていた剣磨はそれを聞き驚く。

 そして驚いている研磨に反し、和重は顔を歪める。


 「………こんなビビりをバカにされたくらいでこの俺と関係を持てるチャンスを捨てるのか?」


 「うん。だってケンマは私の友達だから。」


 「理解できねぇな。どう考えてもこんな一緒にいてもなんの特にもならない奴より俺と一緒にいた方が遥かに有益だろ?」


 「そこ。」


 「あ?」


 ひまりは和重にビシッと効果音が付きそうな感じで指をさした。


 「お母さんが言ってた。友達っていうのは損得感情を抜きにして一緒にいてくれる人の事を差すんだって。」


 「……何だと?」


 「君のお話を聞く限りじゃ、そのグループっていうのは、として、集まってはいない感じがする。だからそのグループに入っても私、いくら楽しい場所に沢山行くことが出来ても、楽しむことが出来ない気がする。それが二つ目の理由。」


 和重はそれを聞き、唖然とした。

 何故なら、の考え方が自分と全く違っていたからだ。

 和重にとって、友達とは自分にとって、いかに有益かどうかで決まっていた。

 しかし、ひまりは友達というものについて、自分とは真逆と言ってもいい考えを持っていた。


 途方もなくかけ離れた友達という定義の考え方の差。

 そして、その差がそのまま友達になる事が不可能だと告げていた。


 「だがそうすると、コイツがひまりちゃんの言う、友達に相応しい確証なんて何処にもないだろうが。だって、お前らもついさっき会ったばかりで互いの事何も知らねぇんだろ?」


 和重は話の主軸を剣磨に変える。

 理由はただの嫉妬。自分がひまりに友達になれないと言われたのに、自分より全てにおいて遥かに格下である剣磨がひまりと交友を結んでいる事が許せなかったのである。 


 「確かにケンマの事はまだ何も知らない……。でも、これは勘だけどーー」


 「……………」


 「ケンマはきっとだよ。」


 「ひまりさん………。」


 剣磨はひまりな名前を呟く。

 だが、その返答が面白くないのは和重である。


 「チッ。回りくどい説得は止めだ。この俺が来いといってんだ!しのごの言わず俺のグループに来い!」


 和重はひまりの腕を掴もうとする。

 しかし、その手がひまりに届くよりも先に剣磨が和重の腕を掴んで阻止する。


 「……天野。なんだ?その手は?」


 「そ、それはこっちのセリフだ。ひまりさんに手を出すな。」


 「ハッ!ザコの分際で粋がってんじゃねぇよ!それともなんだ?ぶん殴られたいのか?」


 ビクッ!


 剣磨は体を震わす。


 (怖い……。)


 心の中でそう呟く。

 心臓はバクバクと音を立てており、逃げたい衝動に駆られる。


 当然であろう。

 昔から和重に植え付けられた恐怖は簡単に払拭出来る物ではない。


 (でも!)


 それでも、剣磨は掴んだ和重の腕を離さない。

 そして、その瞳は先程とは違い、和重をしっかりと見返していた。


 (こんなビビりな僕と友達になってくれたひまりさんを助ける勇気もなくて、ひまりさんの友達を名乗って言い訳がない!)


 そう心の中で叫び、剣磨は恐怖をなんとか抑えて込んだ。


 そんな脅しても手を離さない剣磨に和重も苛立ちが限界に達した。


 「ふん。あくまでも離さないか。いいぜ。だったら望み通りぶん殴ってやるよ!」


 和重は掴まれていない方の腕を振りかぶり、研磨目掛けて振り下ろす。


 「ケンマ!」


 ひまりが叫ぶ。

 剣磨も殴られる覚悟をし、目を瞑った。

 しかし、和重の拳が剣磨に当たることはなかった。


 何故ならーー

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