第46話

上空ではレイと明楽が睨み合っていた。明楽は唸っていた。


「言葉を犠牲に理性を保ってるのか。まぁいい。もうお前は長くない。俺が最強だ!」


レイは急加速して明楽に近づいた。明楽もレイに向かって急加速した。衝突したが、明楽の方が押されているように見えた。


「俺に敵うわけがないだろ。体格、年齢、経験。全部弱いんだよ!」


事実、レイは明楽の二倍大きい。圧倒的な力に押され、明楽は弾き飛ばされたが、また食らいついてくる。


「根性だけは認めよう」


何度も衝突し、明楽が弾き返されるのを繰り返した。次第に、明楽はボロボロになっていった。


「もう楽にさせるわ」


レイは黒いモヤを口に蓄えた。明楽も同時に黒いモヤを口に蓄えた。お互い同時に放った。


「お前は、弱い!」


圧倒的な力で押された。明楽は跳ね返される瞬間に、避けた。


「逃げるな!」


レイが吠え、明楽を追った。レイが放つ黒いモヤを明楽はなんとか避けつつ、上空を飛んだ。痺れを切らしたレイは明楽へ急接近した。


「ウロチョロ動き回るな!」


明楽を捕まえようとしたが、明楽は回転でレイに捕まるのを防いだ。明楽は急降下し、レイから逃げた。雲を抜け、クロ達がレイが出した標的を倒してるところが見えた。




「明楽…」


地上では、明楽が急降下しレイの攻撃を回避している所がみえた。


「クロ。何度攻撃してもなかなか倒れない。どうなってるの?」


ウルフは必死に鞭で攻撃をしていた。


「俺自身も、これが一体なんなのかはわからない…」


手甲鉤で切り裂いたが、瞬時に再生し襲いかかってくる。


「チッ…なんとか踏ん張れ。みんな」


兵士たちも頑張ってしのいでいた。






「明楽。いつまで逃げる気だ」


レイは唸った。明楽は無言のままただ逃げた。


「もう終わらせる」


そうレイが吠えると、黒いモヤを広範囲に吐き出した。明楽は間一髪かわしたが、速度を少しゆるめてしまった。その隙にレイは明楽の尻尾を捉えた。


「!?」


「一回叩き落としてやる!」


明楽を思いっきりぶん回し、手を離すと明楽はすごい速度で遠くに飛ばされ、そのまま地面に激突した。


「…」


痛みで唸るが、なんとか立ち上ががり、また上空を飛んだ。


「ふん…」


明楽はレイに近づいた。


「お前は龍としての動きができていない。本当弱いな」


レイは鼻で笑った。明楽は牙を剥き出し、黒いモヤを口に溜めた。


「ほう。もう一度ぶつけたいのか。いいだろう」


レイも黒いモヤを口に溜めた。明楽が先に放つと、レイもすぐに放った。激しく衝突したが、一瞬で押されてしまい、明楽は攻撃をモロにうけてしまった。


「だから…弱いんだよ!」


レイはそう叫び、明楽を捕まえた。


「…」


明楽はダメージが大きくて動けなかった。


「お前の母親とナイトもこうやって殺したんだわ。同じ殺し方にしてやろう」


そう言うと、明楽の首を思いっきり噛んだ。明楽は断末魔を上げた。そのままレイは急降下した。




「チッ…クソ」


クロは敵を手甲鉤で切って行ったが、明楽に蹴られた所が激しく痛み出した。


「クロ。大丈夫?」


ウルフが心配してる中、痛みに堪えるため、唇を噛んでたからか血が流れた。


「あぁ。あいつの苦しみに比べたら、これくらい大丈夫だ」


そう答えたその時だった。断末魔が辺りに響き渡った。


「明楽!死ね!」


急降下で明楽の首を噛んだレイが降りてきた。地面ギリギリで明楽を離し、レイは上昇した。明楽はそのまま地面に激突した。


「明楽!」


「明楽ちゃん!」


クロが叫ぶが、砂埃で目を覆った。砂埃が止むと、クロとウルフは明楽の方へ走った。


「明楽!しっかりしろ!」


しかし、明楽を見て絶望した。首からの大出血で地面は血の海になっていた。そんな中、明楽はかすかに口を動かした。


「明楽ちゃん…」


ウルフはあまりの光景に絶句した。クロは明楽の顔を撫でた。


「ク…ロ…」


かすれた声で明楽はクロに話したが、気を失った。


「さて…次はお前だな」


レイはクロに標的を変えた。


「お前は…明楽の一部を持っているな。まぁいい。お前を殺せば、明楽も死ぬからな」


そう言うと、レイは黒いモヤを口に溜めた。


「ウルフ。お前は逃げろ」


「でも…」


すると、クロはサファイア色の瞳でウルフを見つめた。


「大丈夫だ。俺は、明楽と生きて戻る。だから、逃げろ」


ウルフは頷くと、全力で走って逃げた。


「レイ。俺と明楽は生きるんだ!」


クロは手甲鉤を構えた。


「ふん。俺が最強だ…二人揃って死ね!」


レイが黒いモヤをよ勢いよく吐き出した。


「…!」


クロは魔法でバリアーを張ると、黒いモヤがぶつかった。


「く…強い…」


すると、バリアーに亀裂が入った。


「まずい…」


明楽はクロを見つめた。かすかに呼吸をしているのを確認した。


「明楽。絶対に生きて城に戻ろう」


するとバリアーが割れてしまった。クロはとっさに目を覆った。


「ぐっ…」


しかし何も起きなかった。恐る恐る目を開けると、レイの黒いモヤが目の前まで来ていたが、そこで止まっていた。辺りを見回すと、兵士たちやウルフも動きも止まっていた。


「…これは」


すると、クロの身体を白い光が包んだ。


「うっ…」


あまりの眩しさに、目を覆った。




目を開くと、満点の夜空に地面は草原が広がっていた。


「ここは…」


ふと下を見ると、明楽が眠っていた。人間の姿で。


「明楽」


揺さぶったが、反応はない。すると、クロの後ろから追い風が吹いてきた。そして、クロの方に近づいてくる影があった。


「クロ…」


その声にクロは聞き覚えがあった。クロはゆっくりと後ろを振り向いた。


「叔父さん…」


見ると、ライトが立っていた。ライトの後ろには三日月龍とナイトもいた。


「たくましくなったな」


ライトはクロに目線を合わせ、クロの頭を撫でた。クロは無意識に涙をこぼし俯いた。


「俺は…全然ダメです。ナイトを守れなかったし、明楽だって…それに、俺は…叔父さんを見殺しに…」


ライトは頷きながらクロの話を聞いた。


「クロ。君は本当によくやってるよ。私はずっと君がどうしてるかここで見守っていた。君は私の意思を継ぎ、城を守り、兵士を導いている。その上で明楽を守っている。本当に、ありがとう」


クロは首を横に振ったが、ライトはクロを抱きしめた。クロは大泣きをした。


「クロは私の自慢の息子だ」


「叔父さん。ごめんなさい」


その光景を三日月龍とナイトは見ていた。


「ライトの息子…クロ。私の娘、明楽を大切にしてくれてありがとう」


三日月龍がそう答えた。


「俺もだ。クロに明楽を任せてよかった」


ナイトも答えた。少しして、クロは落ち着いた。


「クロ。本当はここで長く話したいが」


ライトは明楽を見つめた。


「明楽は今、闇の帝王レイの力で苦しんでいる。明楽はレイの血を引いているから、レイはいつでも明楽を操ることができた。それに明楽は抵抗し、言葉を犠牲に闇の帝王になっても理性を保てた。だが、今の明楽はレイにやられ、孤独になった」


ライトはクロを見た。


「それでだ。クロ。明楽とライダーの契約をしてほしい」


「え…」


クロは驚いた。


「明楽はクロと半契約だが、完全にライダーになっていない。だからレイはまだ明楽を操れる。だが、完全にライダーになれば、レイはそう簡単に明楽を操ることができない。なぜなら、ライダーという支配者がいるからだ」


ライトはクロの肩に手を置いた。


「君は、明楽に選ばれたんだ。君ならできる」


ライトの眼差しに、クロは頷いた。


「叔父さん。明楽を守ってみせる」


クロは明楽に近づき、手を取った。


「明楽。今行くからな」


クロは目を閉じた。

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