第45話

学校に入ると、人の気配が一切無かった。


「…」


警戒しながらも、学校内を歩いた。ふと、明楽の匂いがした。


「ここか…」


目の前には校長室と書かれた扉があった。ノックをしても返事がない。扉を開けようとすると、鍵が空いてた。


「…」


そっと扉を開けると、誰もいなかった。部屋に入り、辺りを見渡した。


「…この近くだな」


ふと、本棚に目をやった。近くで見ると、何かが不自然。


「なんだ?何か引っ掛かるな…」


綺麗に並べられてある本。しかし、所々揃っている色の本に違う色の本がある。


「おまけに分野も違う…」


何気に違う色の本を取ろうとしたが、なぜか取れない。ふと奥へ押すと、本は引っ込んでいった。


「…ここなんだな」


違う色の本を、奥へ押した。すると、鈍い音が響いた。


「…」


手甲鉤をはめ、警戒した。すると、本棚が一瞬動いた。本棚をずらそうとすると、扉のように本棚は動いた。そして、本棚の後ろにあったのは大きな扉だった。ドアノブに手をかけると、鍵が空いていた。


「…」


扉を開くと、辺りは真っ暗。だが、匂いで分かった。


「明楽…いるのか?」


その声に、弱々しく帰って来た。


「クロ…?」


すると、月明かりが小さな窓から差した。明楽はボロボロで鎖に繋がれていた。


「明楽!」


クロは急いで駆け寄り、鎖を手甲鉤で切った。


「明楽。遅くなってごめんな」


「クロ…助けに来てくれたのね…」


明楽はクロにしがみついた。羽織っていたローブを明楽に羽織らせた。


「大丈夫か?」


明楽は小さく頷いた。明楽を抱き抱え、校長室を出ようとした。


「君が…クロ・ルーマスだね?」


クロは声のする方を睨んだ。さっきまでいなかった校長席に谷川が座っていた。


「谷川…」


「ほう。私を知っているんだね」


クロは谷川の方を向いた。


「叔父さんから聞いていましたので」


「やはり、君はライトの甥っ子だったんですね。まぁ、それはさておき。君は、三日月さんのライダーかね?」


「…」


クロは無言だった。


「いやいや。三日月さんは本当に勝手でね。私に許可なく勝手にライダー契約して。私が三日月さんと契約してこの世界を平和にしたかった。まぁ、三日月さんは人間の姿になってるから、私の思う世界になったら、愛人としても使えるし」


谷川は笑った。


「平和とは?龍を絶滅させる事ですか?それのどこが平和と言えるのでしょうか。やっている事は、殺人と一緒じゃないですか?」


クロはさらに谷川を睨んだ。


「それに、明楽は奴隷じゃない!」


谷川は無表情になった。


「君は…いや。君たちは本当に私の邪魔をしますね。龍がいなくなれば、人々が豊かになると言うのに…」


谷川は立ち上がった。


「レイ…三日月さんを暴走させろ」


低い声で話した。すると、何かの唸り声が響いた。


「…!明楽。一旦外に出るぞ」


「うん…」


クロは明楽を抱えながら外へでた。


「明楽。大丈夫か?」


明楽を見ると、何かが違った。


「クロ…私から…離れて」


「明楽?」


「早く!…うっ…」


明楽を下ろし、その場を離れた。


「やめて…やめて!」


明楽は泣き叫んだ。明楽の中で何かが囁いた。


 明楽…俺から逃げられない。


その声がクロにも聞き取れた。


「…まさか」


すると、上空からレイが現れた。背には谷川が乗っていた。


「さぁ、明楽。暴れろ!その男を殺せ!」


谷川は剣を突き立てた。血のように真っ赤な瞳に染まり、血の涙を明楽は流した。


「嫌…」


すると、レイが遠吠えをした。悲しみに包まれる恐怖がクロと明楽を襲った。


「まずい…」


明楽を見ると、何かが抜けたようにただ立っていた。


「明楽…」


すると、クロにも異変が起きた。心が冷たい。だが、自分自身の感情ではない。


「これは…明楽の感情…」


次の瞬間。明楽がクロの懐に来ていた。


「チッ…」


明楽は拳でクロの顔面を殴ろうとしたが、クロは間一髪腕でガードした。


「グゥッ!」


弾き飛ばされ、学校の壁に叩きつけられた。


「あいつが、明楽を閉ざしたんだな。だが、俺が明楽の一部を持ってるから、それが俺にも伝わるってのか…」


明楽はゆっくりとクロの方へ近づいて来た。


「明楽…目を覚ませ…」


なんとか立ち上がり、手甲鉤をはめようとしたが、また明楽が急接近した。


「…!」


間一髪避けた。しかし、明楽も容赦はしない。




「ハハ!どうだ!三日月さんの力を」


谷川は笑っていた。しかしレイは明楽を見つめた。


「…」




「明楽!目を覚ませ!」


クロは必死に明楽の攻撃を避けたが、明楽の攻撃一つ一つの威力が大きい。


「当たったら、まずい」


ふと、冷たい感情がなくなった気がした。


「…!」


明楽を見ると、表情は変わっていないが血の涙を流していた。


「…明楽」


明楽は拳で殴ろうとしたが、クロは全力で明楽の拳を止めた。


「…」


「明楽。辛いだろ。苦しいだろ。そこから抜け出せれなくて…」


明楽は横蹴りをクロの脇腹に攻撃した。


「ウッ…」


弾き飛ばされ、地面に倒れた。なんとか起き上がり、血を吐いた。


「久しぶりだな。血を吐いたの」


手で血を拭った。明楽はクロに近づいた。


「やりたくなかったが…」


手甲鉤をはめ、構えた。すると、どこかから声が聞こえた。


 クロ…私に任せて。


「明楽…?」


すると、明楽は立ち止まった。


「何してる!さっさとこの男を殺せ!」


谷川の怒声が聞こえた。明楽は鉢巻を外し、瞳を閉じた。すると、地響きがなった。


「これは…あの時の…」


クロは明楽から距離をとった。明楽を闇が包んだ。そして、雄叫びと共に闇の帝王になった。


「ほう…初めて見たぞ。三日月さん。さぁ、あいつを殺せ!」


明楽はクロを見つめた。


「…」


そして、勢いよく上空を飛んだ。狙いはレイだった。


「…!」


レイはこれに予想していなかった。


「レイ!避けろ!」


しかし、明楽に捕えられた。明楽はそのまま地面にレイと谷川を叩きつけた。


「チッ…」


谷川は衝撃でレイから落ちてしまった。明楽はクロの横に戻った。


「明楽…」


しかし明楽は喋れなかった。ただ威嚇でレイ達に向かって鳴いていた。すると、レイが体勢を整えた。


「レイ…あいつをやれ!」


谷川が怒鳴ったが、レイは動かなかった。


「何をやっておる!」


すると、レイは谷川を睨んだ。


「俺は、お前と行動することがもう嫌だ」


低い声でそう唸った。


「は?何を言っておる」


レイは谷川に向き直った。


「お前…うるさい」


真っ赤な瞳で谷川を睨んだ。


「俺はお前と契約している。俺の言うことを聞け!」


「は?契約?なんのこと?」


クロと明楽はその光景を見ていた。


「俺は、お前と契約したつもりもない。はじめっからお前の事、そこまで興味はなかった。むしろ、ムカついてた。俺に汚れ仕事させるし。もう飽きた」


すると、レイの口の中から黒いモヤが見えた。


「じゃぁ、なんで今まで俺のところにいた!」


谷川は吠えた。


「暇だったから…かな?だが、もうお前はいらない。俺の前から消えろ…」


「待て…レイ!」


レイの口から黒いモヤが放たれた。それは谷川に当たった。


「やめろ!」


断末魔と共に谷川は地面に影を残して居なくなった。


「…!」


クロはその光景に驚いた。


「さて…次はお前らだ」


レイはクロと明楽を睨んだ。


「お前らごと、闇に落としてやろう…」


そう言うと、黒いモヤがレイを包み翼を大きく伸ばし雄叫びを上げた。


「何が…」


クロは警戒した。すると、夜空を黒雲が包み、地面から黒い何かが無数に出てきた。それは人形だが、人間ではない。


「明楽!お前を殺す!」


レイが吠えると同時に、黒い何かは武器を手にクロに向かってきた。


「みんな。手を貸してくれ」


クロは指を鳴らした。すると、兵士たちが一斉に出てきた。


「クロ。標的はあれね」


ウルフも現れた。


「あぁ。相当やばいやつだ。みんな気をつけろ」


兵士たちは一斉に返事し、黒い何かに立ち向かった。それと同時に、レイと明楽は同時に上空を飛んだ。


「明楽…」


クロは心配しつつも、目の前にいる敵に集中した。

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